プロローグ2
「ん・・・ここは?・・・新世界に着いたか。」
乗船してから一瞬違和感を感じたと思ったら、窓から見える景色は、研究所内の無機的な、景色ではなく、一面の緑であった。外の大気組成を示す表示も、外に出ても問題ないものであるようだ。戦争以前の元の世界のそれとほぼ変わらない。外気温は・・・35℃か、かなり暑いな。よく見ると周囲に生えている植物は熱帯にあるものと似ている気がする。・・・まあ、外に出ても問題は無さそうだな。
「よし外に出てみるぞ。」
ヴィトの発言を聞き、同行者全員が外に出てみる。見渡す限りのジャングルである。どうやら標高が比較的高いところについたようで、かなり遠くまで見渡せる。この熱帯雨林は相当な広さがあるようだ。ある方向では、エメラルドグリーンの海が広がっているのが見える。逆方向を見ると険しい山々がそびえたっていてその向こうは目視はできない。
「ライズ、この世界の地図を表示してみてくれ。その他の有用なデータもだ。・・・出力も頼む。」
「畏まりました。・・・表示されました。この世界は、半径6000Km強の球体の世界のようですね。本当に我々がいた世界に似ていますね。現在我々は赤道から1000Km程離れたところにいるようです。」
出力された地図を受け取ってみる。ここで使われている言語なども解析できているようだな。地図のところどころに現地で呼ばれている地名がプリントされている。ここはガイアナ島というのか。赤道を中心に北西から南東に6000Km程の縦長な陸地だ。島と呼ぶには随分と大きい。大陸と呼ぶのも微妙だが。横幅はせいぜい1000Km程で、島の中央、北東から南西にかけてかなり大きな山脈があるな。背後にある険しい山々はこの山脈に違いない。
「この島には国家は成立していないようだな。山脈の反対側には小さな集落はあるようだが、ここの気候を考えるとこの島は拠点にはあまり適しているとは言えないな。だが戦力を補充するのには適していそうだ。このデータではかなり強力な生命反応も検出されているな。・・・ん? イアリよ、どうした?」
「山頂の方より、何かが飛来してきます。・・・なんと巨大な!5mはありますよ?!大統領?」
目の前に現れたそれは、7m程の大きさの黒色のドラゴンだった。我々の世界では、500年前には滅亡していたので、生きているのは初めて見るな。
「グルルルルゥ・・・・・」
ほとんどの者は警戒しているようだ。私もだがな。無理もない。我々一人一人が相当な戦力のはずだが、間違うと大きなけがをするかもしれない。
「こんなのを従属させるのは私も初めてだが、成功すれば大きな戦力になる。倒すのは簡単だが、従属化できるかやってみるか。」
そういいながら、ヴィトはこのドラゴンの出す魔力波に合わせて、自分の魔力を放出する。波長さえ合っていれば、より出力の大きな相手を強者と思い込むので、波長のチューニングを成功させると、その出力を上げていく。自分は政治家であるとともに、世界有数の魔力保持者である。魔力の数値は7800、MPも12000程。その自分が全力を出さずとも、自分に従属化できない魔物などいない。歴史上かつて存在したことがあるドラゴンの上位種でさえ魔力は3000だったはずだ。もうすぐ自分の全力の出力に達してしまう。
こいつはいったい・・・そんなことを考えていると、
『異世界人よ。・・・ヴィトというのか。我は【ニーズヘッグ】。我と契約を望むか?』
『我と契約できれば、我に従う魔物が勝手にやってくるであろうな。貴様が調達しようと考えていた一軍も簡単にそろうだろう。契約したいのならば、1日あたりMP200を我に献上するのだ。そうすれば貴様の軍門に下ってやろう。MP200程度なら貴様なら無理なく提供できるだろう?』
ニーズヘッグと名乗るドラゴンの思念が脳に直接届く。話がうますぎるが、条件をのめば思いのほか簡単に一軍が手に入るな。それに、一度契約すれば、魔物の側からは契約を切ることはできないはずだ。もっと私の魔力の十倍もあれば強引に解除も不可能ではないが、そんな生物はどの世の中にもいるはずもないか・・・・よし契約しよう。
『了解した。以後よろしく頼むぞ。ご主人よ』
その直後、ヴィトとニーズヘッグの周囲が光り輝き、しばらくすると収まりをみせた。
「大統領?」「ヴィト様!」
数分間微動だにしないヴィトに対して、ロキ、レギンが心配そうに声をかける。と同時に森林のいたるところから、また山頂の方からもドラゴンが飛んでくるではないか。
「皆様、初めまして。ニーズヘッグと申します。我と今飛んできているドラゴン役100頭、ヴィト様の配下にまずは加わらせていただきます。後からも我に従うものが続々と押し寄せてくることでしょう。」
部下達から歓声が上がる。こいつ、部下になったとたん急に敬語を使い始めたな、まあ、深く考えるのはやめておくか。さて次に考えるのはやはり侵攻先か。そう思いつつヴィトは、表示された現在地をもとに出力した地図を眺めていると・・・・
「これより北1500Km程行くと、ユグドラル大陸の西方にあるイザヴェル王国があります。国土のほとんどが温暖な気候で農作物も豊富に取れますよ。ここから北上するとコトナという小さな漁村があります。そこなどはどうですかのぅ?」
地図を再確認してみると、確かに今聞いたとおりである。
「わかった。最初の侵攻先は、イザヴェル王国のコトナに決定する。移動はどうするか?距離があるが。」
「我々の背にお乗りください。300Km/h程で飛びますが、皆さんなら各自結界を張っていれば風圧で飛ばされることもないでしょう。」
「5時間程で到着するわけか。わかった。明日侵攻を開始する。長旅になるから、今日のうちに全員休んでおけ。」
その後、すぐ船内に戻って休むもの、しばらく周囲を散策するものもいたが、それぞれが明日以降のこれから始まる予想もできない日々を思い、ゆっくり体を休めるのだった。
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うまく丸め込んだようだな。少しずつ魔素(MP)を使っていけば、ガイアナ島地下深くに忌々しい勇者に封印された真なる力を開放できるだろう。MP200ずつであれば、7年程経てば、50万以上の魔素がたまるな。100年程前に自身にかけていた転生魔法によって復活はできたが、かつての力には遠く及ばない。だが、・・・・
ニーズヘッグの口角が怪しげに左右に僅かに広がるのを気づいたものは誰もいなかった。




