師匠からのギルド依頼3
シュネー村を出立してから5日目の朝は、グルド山の中腹にて始まる。昨日、無茶な登山をして、起こるべくして起きた高度障害は、一晩かけて、自らの回復魔法にて、どうやら完治したようだ。自分に回復魔法の適正があったことを感謝するレグルスであったが、
「具合の悪い時に、自分の回復魔法で治すとか・・・無いわ・・・魔法を使おうとするたびに吐きそうになって、それを治そうとさらに魔法を使う。すると更なる吐き気が・・・」
そう独り言を呟く。今でも思い出してみるとまだ吐き気がする気がする。意地でも治そうと、回復魔法を使った結果、日付が変わった辺りには症状が治まり眠りにつくことができたわけだが、それでも寝不足感は否めない。もう少しゆっくりしたい気持ちもあったが、そもそも昨日のうちに依頼は完了しているはずであった。いつまでも野宿を繰り返す気はないのである。
後は洞窟の中に入って、置いてあるはずの宝玉の色が赤なのか青なのか確認する。まあ、赤なんだろうなぁ。赤だったら俺の魔力を注いで、もう少しだけ龍王の力の封印が解けるのを遅らせるんだっけか・・・・・コトナ村を襲ったのはドラゴンの一団だったのは確かだが、あの時は別に村全体を見ていたわけではない。リーダー的存在が誰だったかなどわからないのだが、果たしてあの場に龍王はいたのか?・・・仮にあの時いなかったとしても、それが龍王が復活していないと断定するには足りない。ゆえに、今回の確認作業は重要である。依頼を受けた後、師匠に再度確認したら、赤は封印解除が近いというだけであって、封印していた力が完全に解けてしまっていたら、宝玉は砕け散っているはずとのことであった。だから、赤でもある意味セーフである。宝玉自体がないのがアウトである。
テントで簡単に朝食をとり、洞窟の入り口に向かう。そう時間もかからず昨日のうちに発見していた洞窟の入り口に着いた。あとは、中に入って確認するだけである。早速中に入ってみると当たり前だが真っ暗だ。そして少しだけだが肌寒い。日の光が入ってこないしね。加えてややジメジメしているようだ。あまり快適な空間とは言えないみたいだが我慢するしかない。そう思い、ライトの魔法を使って視界を確保しつつ中に入っていく。
この洞窟は、分かれ道も特になく真っすぐ続いているようだが、慎重に進んでいく。たまに蝙蝠がいて、こちらが近づくと慌てて飛び立っていくものもいる。ところどころ水も湧き出ていて、山椒魚のような両生類も生息しているようだ。昆虫や蜘蛛などもおり、ちょっとした生態系がそこにはあった。
洞窟に入ってから30分程。ようやく祭壇が見えてきた。上にはきっちり赤い宝玉が置いてあった。予想通りである。龍王の力の封印はやっぱり解けかかっていたようだ。そう思い近づいて、手をかざそうとする。・・・が・・・
「おやおや~。こんなところに人とは珍しいですねぇ。」
「!」 今の今まで、気配に全く気が付かなかった。これでも4年近くもの間師匠に揉まれてきた俺である。武闘家の端くれだという自覚もある。人が近づいて、気にしないことはあっても、気が付かないなんてことはない。・・・コイツ只者ではない。
「残念ですが、ここは人が来てはいけない場所なのですよ。今すぐ、このままここを去るのであれば、ここに侵入したことは不問にいたします。お帰りの道はわかりますね?」
「すまないが、そこにある祭壇に用があるのでね。はいそうですか、と帰るつもりはない。」
「あなた、死ぬことになりますよ?」
途端に殺気が溢れてくる。コイツ! 警戒モードを最大限に上げる。
「やってみろよ。・・・お前にそれができるのならな?」
そう俺が言った瞬間、もう俺の背後にいた! すかさず肘鉄を喰らわす。頬にヒットはしたが大したダメージはなかったようだ。一度こちらから距離を取ったようだ。移動したというよりは、瞬時に居場所を変えたような感覚。これは瞬間移動だな。どれだけ高位の術を使うのか・・・魔族か?
「フフフ、・・・やりますね、君。この私にわずかとはいえダメージを入れるとは・・・ですが、これで絶対に君を殺さなくてはならなくなりましたね。・・・」
そう言うと、少し反りの入った剣を出現させた。こちらが出している光が刀身で反射される。・・・来る!・・・やはりノータイムで目の前に現れたこの男。曲刀と呼べばいいのか、右手に持っているそれを振り下ろしてくる。それを躱し、気を十分に練った右フックを叩き込む。・・・コイツの左頬が俺の気を受けてシュワシュワいってる。・・・少し溶けているようだ。・・・これは普通ではない。魔族でもないな・・・悪魔?それとも・・・
「・・・何か考えているようですが、これ以上の詮索は不要ですよ?どうせ死ぬのですからね。」
こちらの思考そのものを止めようとしてくるその反応。よほど自分の正体を知られたくないのか?おそらくは、状況から考えて魔王やそれに近い立場のものに従っている存在なのだろう。・・・と考えている間に曲刀で連続で切りかかってくる。それらをほぼすべて躱すが、数回はこちらの体をかすめていく。その代わり左アッパーをコイツの鳩尾に決める。・・・少し怯んだか?・・・そのままノータイムで少しジャンプし延髄切りをお見舞いする。ダメージでしばし硬直しているようだ。このままゼロ距離で生気収束波を放つ。・・・そのまま吹っ飛ばされ、岩肌に激突する瞬間、コイツの体がすうっと消えた。殺ったか?・・・いや・・・
『・・・お見事です。・・・今の私では君に勝つのは無理なようです。この場は引かせてもらいますよ。そこでの作業はどうぞご自由に。それほど深い意味もありませんし。・・・ですが、君の顔と生体反応は覚えましたよ。・・・次に再会するのを楽しみにしています。・・・フフフ・・・』
気味の悪い笑い声を俺の頭の中に残しつつ、この正体不明の存在は俺の周囲から完全に消えてしまった。恐らくは、また俺の前に立ちはだかる時が来るのだろうな。そう思いつつ、改めて祭壇上にある宝玉にめがけて光の波動を放出する。無事宝玉は俺の魔力を受け取り封印期間を延長できたようだ。色が元の赤色から紫色を経て青色と変化していく。・・・・これで、師匠からのギルド依頼はすべて完了だな。
『おうちに帰るまでが遠足だ。』とか頭の中で思いながら、そして、『初等学校の児童かいな?』とゲンからツッコミを受けつつ、洞窟を出るのだった。
それから4日後、出発から数えて9日目か? そろそろシュネー村に到着するかというところまで移動してきた。ゲートの魔法で一気に移動してくる考えも頭を過ったが、それはやめた。実は未だにあの日のことが、コトナ村を襲われた日のことがトラウマになっているのだ。初めてのゲートをあの極限状態で使用し失敗したことが。もちろん、現在は使えてはいる。近距離で使う練習はしているし、シュネー村周辺では頻繁に使ってもいる。印象に強く残っているところであれば多分成功する。今回も村に帰るだけなので問題ないはずであるが、やっぱりどうしても何百kmも離れているようなところでは、また見知らぬ土地に行ってしまうのを考えためらってしまうのである。あの時は、自分は幸運だったと考えている。仮に同じガイアナ島だったとしても、もっと山奥に転移していたら?シュネー村にはたどり着かなかったかもしれない。途中で野垂れ死んでいたかもしれないのである。そういう意味では幸運だったと思っている。まあ、いつまでもトラウマに縛られているつもりもないのだけどね。今は村に帰り、依頼をちゃんと報告しよう。・・・とか考えていたら、村の入り口に着いていた。・・・はぁ・・・やっと帰ってきた。ほっとしたら急速に疲れが出てきた気がする。
「なるほどのぅ。・・・それはご苦労じゃった。・・・して、依頼の品はどうした?」
現在、依頼主たる師匠に結果報告をしていたところである。依頼自体の失敗は心配もしていなかったようだが、洞窟内で正体不明の存在の襲撃を受けたことはやはり驚きだったようだ。そしてどう考えてもこれは大事のようで、何やら考え込んでいるようだ。・・・それはそうと、持ち帰るよう依頼していたものを収納より取り出す。何より量が凄いので、村の広場を貸してもらった。
「ホーリーエイプは体毛と皮、雷鳥は羽毛が欲しかったのじゃ。グレートドラゴンは・・・必要部位だけちゃんと持ってきているのう。・・・おし依頼達成じゃ。」
とはいえ、猿の皮剥ぎと鳥の羽毛毟りが大量に残っている。師匠と一緒にやっていたら、村人たちが手伝いに来てくれた。・・・有難い。・・・村総出でやったら1時間程で全部終わった。雷鳥の肉はそれほどいらなかったのか、自分で食べる分を除いて手伝ってくれた村人に配っていた。俺も大量に頂いたが、はっきり言ってこんなに食えん。・・・ちょうど村長もいるので、1つ提案してみる。鳥のから揚げでパーティーしないか?と。・・・二つ返事で了解をもらった。さあ、忙しくなるぞ。
まずは、ギルドへ行って今回の件を報告。ちょうどギルドマスターのスネイルさんとアンネさんが談笑していた。・・・これまでも依頼をマメにこなしていて、すでにBランクにはなっていたのだが、今回は相当ポイント高かったのか、一気にAランク昇格。この村は極小さな田舎村なのに、きわめて強力な魔獣との遭遇率が高いため実力が高いものはランクが上がりやすいのだが、今回俺が倒してきたのは、ホーリーエイプがAランク対象、雷鳥がSランク対象、グレートドラゴンに至ってはSSランクである。そりゃぁ、ランクも上がるというものである。スネイルさんも呆れていたが、俺に対してなのか、14に満たない少年に平然と依頼をした師匠に対してなのか。・・・後日金貨1000枚が口座に振り込まれるらしい。・・・少し気になったので、こんなにもらって大丈夫なのか?とか呟いていたのを聞かれたらしく、
「お前が持ってきたものを、もし全部金に換えたら、金貨2000枚は堅いだろうさ。」
とのことだった。それでも随分大盤振る舞いだが。・・・弟子の俺だからなんだろうな。
それとは別件で、さっきのパーティーの件を振ってみると喜んでいた。 さあ、戻って準備するぞ。・・・さっきもらった大量の肉を次々に、醤油・生姜・塩・胡椒・大蒜を混ぜたタレに付けて行く。しばらくしてすべての肉にたれを漬け込み終わったら、大きな鍋を用意し、油を沸騰させる。そこに今漬け込み終わったお肉を次々投入していく。っと入れすぎると油温が下がってしまうから、数はほどほどにっと。で、どんどん出来上がっていくから揚げ。ここでは【ザンギ】というらしい。語源は知らんけどね。・・・すべて揚げ終って、ザンギを持って広場に行ってみると、他の家の奥様方もそれぞれの味付けでザンギを揚げてきたようだ。そして、村の男たちは・・・もう飲んでいた。
広場の中央に設置されたテーブルに続々集結するザンギ。集まったところで、ホセ村長が挨拶。
「何か知らんが、急にザンギパーティーとなった。肉持ってきたレグルスに乾杯!」
・・・テキトーだな?・・・乾杯って言ってるけど、村長もそうだったし、皆飲んでるよね? 今更感があったが、皆、「「「乾杯!」」」って叫んでるわ。
「レグルス! たまにはお前も付き合え!」
とスネイルさんがエールが並々と注がれたジョッキ(大)を持ってきた。まあ、飲めないこともないはずなので、頂くことにする。・・・楽しそうにしているのを見ると俺もパーティー言い出してみてよかったと思う。・・・ザンギも齧る・・・うまい。
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3時間後。・・・リバース再び。今、アンネさんに介抱してもらっている。飲みすぎたかもしれん。ジョッキで5杯くらい飲んだあたりで「ケケケ・・・」と笑い始めたとこまでは覚えているんだが・・・
『だから、もうやめとき!って言ったんやで。』と説教をゲンにされる俺。あぅ、そんなこと言われたらまた吐きそうに・・・うっ
「もう村の大人が束になってもかなわないほど強くなったのに・・・こういうところはまだまだ子供ね。自分のお酒の飲める量くらい知ってなきゃだめよ?・・・め!」
そんなことを言われながら、楽しい1日だったと思い起こしながらも、飲み過ぎに注意という教訓を初めて学ぶレグルスだった。
ちなみに、突然始まった宴会は、村の喧騒が闇に飲まれるまで続くのだった。
師匠からのギルド依頼、今回で完結です。次回で2章も終了させるつもりです。その次辺りから、本当の意味での本編になっていく予定です。




