師匠からのギルド依頼2
ギムル村を出てから2時間後、森の中を進んでいる最中である。目的のグルド山に真っすぐ向かってはいるのだが、ホーリーエイプという猿の魔獣も発見しなければならない。昨日のグレートドラゴンの一件は発見する手間が1つ省けた分、自分にとっては幸運であった。村の人には迷惑な話だったけどね。二匹目のどじょうというわけではないが、ホーリーエイプの方から出てきてくれないか?と期待しながら歩いている。
ここガイアナ島は、ほぼ全域が熱帯雨林に覆われている。それ故、魔獣のみならず動植物の種類・数とも豊富である。動物の鳴き声はしばしば聞こえるし、周囲に茂みをかき分ける音が聞こえたりして入る、いた!と思って見てみると、その視界に入っているのは別の動物である。単に大型の猿であれば何度か見ている。今も目の前には、子連れのオラウータンがいたりはする。でも、これじゃぁないんだよなぁ。
『まあまあ、気を落とさんと。あ、もしかしたらもっと標高高いところにいるんとちゃう?』
『いや、本で読んだことがあるけど、ホーリーエイプは熱帯の森を好むみたいだから・・・高いところ行ったら植生が変わるはずだし、逆にいないだろうさ。』
ホーリーエイプは、2.5m程の大猿で体形はゴリラのような体つきである。が体毛は白く一本一本が長めの毛である。群れを作ることはなく、大人のホーリーエイプであればまず間違いなく単独でいるはずである。しかし、手掛かりらしきものも見当たらないので、もういっそのことスルーしてしまって、他の要件片付けてからもう1回探しに来るのもいいのかもしれない。・・・いずれにしろ・・・もう昼飯にしよう。
『そっちかい!』とツッコミを受けつつ、昼食の準備をする。道中見つけて持ってきた。南国の果物たちの中から、森に再び入る前の地点で自生していたパイナップルを取り出す。まあ、さすがに果物だけでは足りないので、パンも用意し、あと肉を焼くための火を熾そうと何か藁っぽいものが無いか周囲を探してみる。え、火魔法で点火しろって?なかったらそうしますけどね。同じ使うにしても実際に燃えるものがあると違うのですよ。・・・で探していると・・・あった。・・・藁ではなく、長い白い毛の束が。抜け毛か?・・・そしてこれは、もしやホーリーエイプの体毛ではないのか?・・・ようやく掴んだかもしれない手掛かりである。ヤツはきっと今お近くにいる。少し希望が湧いてきたぞ。他に見つけた、燃えそうなものを握りながらさっきのところに戻ってみると、・・・さっき食事の準備をしていた場所に奴はいた。このフォルムは・・・間違いなくホーリーエイプだ。そして、さっき食べようと出しておいたパイナップルにかぶりついている。・・・さらにパンや干し肉はその残骸だけが残されていた。・・・俺は体中の血液が沸騰するような感覚を瞬時に味わった。・・・
「てめぇ! 人の飯食いやがったな!」
用意していた食事を食い散らかされた俺は、思わず声を張り上げてしまった。・・・コソっと襲えばよかったじゃん!とか思っても後の祭りである。びっくりして逃げるホーリーエイプ。慌ててこちらも追いかけるのだが・・・こっちは尋常じゃない速度で追いかけているのに追いつかない。・・・原因はここが森の中だということだ。木々を上手に使って、上に下に、右に左へと移動しつつこちらを翻弄してくれる。
『レグ! このままだと逃げられるで!』
このままでは、確かに埒が明かない。少し森林破壊してしまうがしょうがない。体内で少し気を練り、全力で鎌鼬を放つ。周囲の樹木が轟音とともに薙ぎ払われる。ホーリーエイプは躱したようだが。チッ。だが、一旦足を止められたようだ、この隙に一気に近づき、拳の一撃を放つ。
「ギャー! ギャー!」
まともにヤツの左の二の腕の辺りに入った。手ごたえは十分。だが、淡い光を放ちながら、傷が修復している。こいつヒール使ってやがる!厄介な。・・・その後肉弾戦を展開。かなりこちらの拳も叩き込んでいるが、元々こいつは皮膚が柔軟で、打撃の衝撃をある程度吸収しているようだ。加えて回復魔法ヒールである。じわじわとしか体力を削れてはいない。逆にこっちは結構引っかかれた。畜生!
それでも、向こうが勝てないと思ったのか、何度も逃げようとしたところをうまく捕まえて、計10分程度ボッコボコに殴ったので、ようやく動きが鈍くなり始めたというか、傷やダメージが目立ち始めた。それでも、未だ淡い光が全身を纏っていて、回復もし続けているが、マウントをとり、大きく振りかぶり、気を限界まで練り上げた一撃を頭部に放つ。頭がかち割れ、ようやく絶命。 何とか2つ目の依頼達成である。
「はぁぁ・・・、やっと終わった。」
はっきり言って、どっちかが倒れるまでお互い殴りあっていただけである。知性の欠片もない野蛮さである。霊長類決戦とはとても思えない。まさに脳筋同士の戦い。周囲で観てる人がいたらドン引き間違いなしである。
『いや、脳筋はレグだけやねん。このお猿さんの方がよっぽどなぁ?』
ゲンにすら呆れられてしまった俺であった。とりあえず、気を取り直し、こいつも収納にしまっとく。これで、気分良く最終目的地のグルド山に向かえる。・・・ここで盛大に腹の虫が鳴る。昼飯まだだったんだ。 対エイプ戦は最後の最後まで閉まらないレグルスであった。
昼食を用意しなおして、再び目的地を目指すレグルス。その後は道中強力な魔物に出くわすことはなく、ここから100㎞程進んだところで、この日は移動をやめ、キャンプを張ることにする。この日の夕食から就寝までは平和でした。エイプとの文字通りの死闘で、心身共に疲弊していたらしい。ゲンのしゃべくりをとことん無視し、意識が闇に飲まれるのだった。
翌朝、サクッと朝食を済ませたレグルスは再び移動を再開。今日の午前中には目的地のグルド山に到着予定である。・・・2時間程歩くと予定通りグルド山に到着。すぐさま山を登り始める。先に洞窟の入り口を探しておくか。中にある宝玉を確認する作業は雷鳥を倒した後にするつもりである。・・・山を登り始めて1時間程、意外と迷うことなく洞窟を発見。ここで間違いないだろう。
洞窟の場所も確認できたので、今度は山頂を目指す。雷鳥はこの山の頂上付近に生息するためだ。事前に調べたところ、標高は6841mである。そこまで行くとかなり寒いかもな? 現在はこの山の中腹にいるが、この時点でもう熱帯特有の厚さは感じない。森林の植生も熱帯特有のそれではなく、シイやカシなどの温帯の広葉樹が多くなっている。もう少し上ると針葉樹や低木が多くなり、山頂付近は、今見えてはいるが山肌が覗いている。一部雪もあるようだ。・・・さあ、気合を入れていくか。・・・
登山を再開し、広葉樹林帯を抜け、信用樹林帯も抜け、疎らな低木地帯を突破し、山頂付近に到着。気温は10℃程か。さすがに寒い気がするがまあ、予定通りである。・・・抜けるような青空である。大変見渡しがいい。ふと南側を見下ろすと、眼下に広がる緑一色の森林地帯。その先に広がる水平線が視界いっぱいに続いており、ところどころ雲海も見える。中々の絶景であった。
「綺麗だな・・・」
素直にそう口をついて出てきた言葉。このガイアナ島に来たから、ゆっくり景色を見るなんてことはなかったからなおさらである。その後しばし言葉が出ない。思考も止まる。只々その美しさに圧倒される。雲一つない青空。そして、森林地帯を抜けたここには何も遮るものがないのである。それは空を飛ぶ鳥にとっても同じことであった。むしろ鳥には地面の様子など丸見えである。
確かに俺は、景色に見とれてすっかり油断してしまったようだ。ぼーとしていたため、目の前に鷲の爪が見えるまで、何者かの接近に気が付かなかったのである。俺は、瞬時にしゃがみ込む。俺がいた場所をわしの爪が撫でていった。何とか最初の一撃はかわせたようだ。俺は、後方にジャンプして下がり距離を取る。目の前にいたのは、体長3mを超える大鷲であった。もしかしたら、目的の雷鳥なのか? いずれにしろ、こいつにとって俺はちょうどいい獲物であったようだ。
そんなことを考えていると、ヤバい雷撃を放ってきた。・・・少し喰らった。体にしびれが残る。やはりこいつは雷鳥で間違いないな。すぐさま雷鳥は飛び上がり、今度こそ、もう一度俺を両足でつかんで上空に連れ去ろうとする。これも転がってかわす。・・・あれ?・・・逆にチャンスではないか?・・・もう一度同じことをトライする雷鳥。今度はわざとつかませる。すぐさま上空に連れ去られる俺。うまく両手はフリーになったようだ。そのまま気を高めて、生気収束波を雷鳥の腹部に放ち、どてっぱらに空洞を開けてやる。墜落する俺と雷鳥。20m位落下し叩きつけられたが、このくらいで怪我をするようなやわな鍛え方はしていない。おし。運よく雷鳥を仕留められたようだ。この乱暴な戦い方にゲンは本気で呆れていたが。あとは最後の依頼をこなすだけだ。・・・あれ・・・体が変かも?・・・あ・・・
俺は今日1日で、大した休みも取らず、いったい山を何m登ったというのか? 頭痛や吐き気、眩暈といった症状があるが、具合が悪くなるのも当然である。断じて落下の衝撃ではない。これは紛れもなく高度障害、つまり俗にいう高山病である。ふつうは2500m程山を登っただけでも起こる場合もあるという。それをたった数時間足らずの間に、一気に7000弱も登り切り、電撃を喰らい、生気収束波を惜しげもなく使い、その後の20mの自由落下である。気持ち悪くならないわけがないのである。
『・・・阿保の子やな・・・』
うるさいわい! と心の中で突っ込みながら、気力を振り絞り、山の中腹まで下り(もちろん回復魔法使いながら)、テントを張り、もう1泊するのであった。・・・テントの傍で何度もリバース・・・この日はもう何も食べられなかったのは言うまでもない。
次回は3/20に更新します。このギルド依頼のお話の完結編です。もう何回かの投稿で、本当の意味での本編に入れそうです。




