神域での決戦1
完全なる不意打ちだった。放出するはずのエネルギーが行き場を失った結果、その場で暴発し少なくないダメージを受けるダグナーガ。口内は焼け爛れ、歯が数本グラついてしまっている。しばらくの間後方に倒れ、のたうち回っている。
奇襲に成功したレグルスは満足げな笑みを浮かべると、すぐさま次の行動に移る。相手が立ち直る隙など与えないと言わんばかりに追撃を加えようとするレグルスであったが、踏み込もうとしたその時、レグルスとダグナーガの間に暗黒球が被弾する。
「私たちが黙って見ていると思いましたか? レグルス君?」
今の暗黒球はマルローの仕業だったようだ。直撃を受ければ大ダメージを負うような威力があった為、踏み込むのを自重せざるを得なかったのだが、この間にダグナーガは起き上がってしまう。そして自らに一撃を喰らわせた存在を凝視する。
『・・・今のは貴様だな?・・・やってくれるわ。・・・フン、ならばまずは貴様から葬ってくれるわ!』
ダグナーガの右手が横に薙ぐが、レグルスはこれを躱すと一気に前に踏み込み、全力で右手を繰り出す。その直後、腹部を強烈な痛みが襲い、口から嚥下物を吐き出すダグナーガ。その後も攻撃の手を緩めないレグルス。強靭な筈の鱗が次々と砕かれていき、はた目から見ても確実にダメージが通っているのが分かる。
激しい攻撃を受けながらダグナーガは考える。・・・こ奴は、以前我の前に立ちはだかろうとしたものだな? その時は特に脅威を感じなかったが、この威力はどういうことだ? 神をも滅ぼしうるこの力はどこから来ているのだ? ・・・ 成程な。・・・無理やり力を絞り出して、疲弊するところを即回復しているのか。・・・ならば、このまま攻めさせれば、やがて魔力切れを起こし無力化もできるな。・・・だが、この様子では、このラッシュはもうしばらくは続きそうだな。それまで我は耐えることが出来るのか?
ダグナーガはかつて封印されたとき以来、2度目となる恐怖を抱いていた。それも、まさかの人間相手にである。恐怖と屈辱にまみれながらさらに思考する。・・・ゲルザードとマルローは何をやっているのだ! 自らが苦戦しているのを黙っている2柱ではない。 が、ここまで全く援護してくる様子もないのである。 そう思い、周囲に気を配ってみると、他の人間どもや精霊竜達がゲルザードとマルローに対して攻撃を加えていたのであった。その激しさから、こちらへの援護は無理であろうと判断する。
一瞬だけだが、周囲に気を配ってしまったのが災いしたようだ。再び腹部に強烈な一撃を貰ってしまう。硬直してしまいそうな痛みを必死にこらえ、レグルスの猛攻をひたすら耐えるダグナーガである。すでに最終手段の行使を頭の片隅に置き始めていたのである。
「・・・これは中々鬱陶しいですね・・・」
マルローを襲う攻撃魔法の嵐。炎玉や風刃、暗黒球が襲う。そのすべてを防御しているが、今のところ避けるのが精いっぱいである。次々に放たれる攻撃魔法を魔法壁で受けきるマルローであったが、
「ですが、好きなだけ撃つといいのです。・・・後でまとめてお返しますから。」
この独り言は周囲には聞こえていない。上空に漂い続けるマルローを打ち落とさんと、エスト、カペラ、カノーが魔法を撃ち続けている。足止め目的であるから、これはこれでいいのだが、全弾防がれていることに焦りを感じている。
「クッソ、全然当たんないわね。」
「いいから打ち続けるのよ!」
エストとカペラは攻撃の手を緩めない。・・・とここでカノーはマルローが展開している魔法壁に違和感を感じる。
「なあ? カペラ」
「何よ!」
「あいつが張っている魔法壁・・・魔力上がってないか?」
「・・・え?・・・マジ?」
しっかり会話を聞いていたのか、カペラに加えてエストも魔法攻撃をいったんやめるが、マルローが展開していた魔法壁は十分なエネルギーを吸収できたのか光り輝いている。
「・・・こんなもんでしょう。・・・中々手こずらせてくれましたが、これで終わりですよ!」
魔法壁は球体へと変わり、地上にいるエスト達へ投げつけられようとしたその時、
「ウラァ!!」
風龍の魔法で無理やり上空に飛ばされたラルフが剣を一閃。マルローの首を飛ばしたのだった。
「・・・私としたことが・・・申し訳ありません・・・」
この一言を残し絶命するマルロー。そして制御者のいなくなった魔法球は爆発する。
「どぅわぁ~~~!」
自力では飛ぶことが出来ないラルフは爆風で飛ばされるが、地上に激突する直前、風龍の魔法で受け止められる。
「助かったぜ! サンキュー!」
その言葉を聞いて、龍形態の風龍は微笑んだ・・・ような気がした。
マルローが討ち取られたその時、ゲルザードもまた足止めをされていた。ラーク、ミリアム、コーネリアによって身体強化されたリーフがゲルザードと互角に渡り合っていた。ゲルザードが吐く炎をものともせず上空に飛び上がって切りつける。少しづつであるがダメージを重ねていくゲルザード。
この間、ラークらは援護も忘れない。氷塊、光球をぶつけながら、うまくゲルザードの動きを制限していく。コーネリアは神域を破壊しないようにメテオは使わずに近くの岩塊を飛ばしてぶつけている。が、それでも十分な足止めに放っているようだ。
『・・・おのれ、貴様ら! 邪魔をするな!!』
ダグナーガの元に向かいたいのか、必死に暴れて前へ進もうとするゲルザードであったが、逆にそれがもとで隙が生まれている。それでもリーフの剣戟は致命傷を与えるには至らない。
『・・・こうなれば是非もない・・・』
そうゲルザードは言うと、全方位にバリアを張り、その中でエネルギーを貯め始めた。腱で切りつけても魔法で攻撃してもバリアは突破できそうもない。・・・とはいえ、これを放っておいては反撃にあうだろうことは目に見えている。
「クソ! どうすれば!」
手詰まり感が出始めたのか、リーフがそうこぼすが、
『リーフよ! 今こそ封印魔法を試すのだ。我々も力を貸そう!』
「!」
以前は逆に邪神召喚のエネルギーに利用された封印魔法である。リーフの足元に6種類の魔法陣が同時に展開される。そして魔力を一気に高めゲルザードに投げつけようとした瞬間、さらに6柱の精霊竜が核魔法陣にエネルギーを注ぎ込んでいく。これにより大幅に強化された封印魔法がゲルザードを襲う。
『グ!・・・グアァ・・・こんなはずでは・・・』
、
700年前に勇者カミュが施した封印魔法は弱く、能力の封印が主で、それすらも時間を掛けて解かれてしまったが、今回は6精霊竜が直悦手を貸したのである。それは以前ダグナーガが完全に封じられたそれに近い。そのため、能力の封印だけにとどまらずゲルザードの肉体そのものをも封印していく。結果、ゲルザードはその邪悪な残り香だけを残し姿を消し去ったのである。
その一部始終を見届けたにもかかわらず、リーフは自らの緊張を解けないでいる。魔法を放った腕は硬直したままだ。ここで、リーフの肩にラークの手が添えられる。・・・ようやく封印が成功したことが自覚できたのか、そこで初めて肩の力を抜いたのである。その様子をミリアムが優しく見ている。コーネリアも両掌を強く握りしめている。・・・これで残るは邪神のみとなったのである。
マルローが倒され、ゲルザードが封じられてしまったことはその気配が無くなったことから、ダグナーガには容易に理解できた。そして自らも一人の人間に追い詰められている。このままいけば、この人間が力尽きる前に自らが滅ぼされるだろうと予想できた。勿論そのようなことは容認できるはずはない。・・・本来、ここ神域では絶対使いたくはなかった魔法だが、そうもいっていられないことは理解できたダグナーガである。その考えに思い至った途端、ダグナーガはある金属塊を収納から取り出す。反応をしている訳でもないその物体・・・ウラン235の塊は怪しげな力を放出し続けていた。
最近不定期気味ですが、次回は8/21を予定しています。




