プロローグ
最初、タイトル通りの話になかなか、たどり着かないかもですが、興味のある方は是非お付き合いを。
読んでくださった方々が、楽しい時間を過ごせますように・・・
【ヴァルハラ】と呼ばれる世界が存在した。この世界【ヴァルハラ】に領域国家が誕生する頃には魔法の存在に気付き、急速に文明を発達させた。
人々はより快適な生活を求め、調理用のかまどや部屋の冷暖房に魔法を活用するようになった。都市の機能についても、道路に一定の間隔で設置された街頭、事故防止のため設置された信号機、冬季間の凍結防止のためのロードヒーティングなどにも魔法は利用された。さらに魔法により移動手段も発展する。馬などの生物の力を借りずに走る車【自動車】、人・物を大量輸送できる列車や船、空を飛ぶことができる航空機。これにより魔法が無い以前と比べ格段に物流が高速化する。
一方で映像・音声を用いた情報伝達にも魔法は用いられ、人々はリアルタイムで必要な情報を入手し、管理できるようになる。大衆娯楽にもこの技術は利用され、人々は快適な生活を送れるようになるのである。
しかし、高度文明化の影響で、まず物資が不足するようになる。加えて人口増加をささえる食糧増産に目途が立たなくなった時点で、この世界【ヴァルハラ】の中にある国家間で緊張が発生する。各国は軍拡競争に励むようになり、軍事力の増強のためより大きな【魔素】{魔法を使用する際のエネルギー}が消費されていく。そして戦争が始まる。
戦争は当初は小規模であったが、徐々にその頻度を増していき、規模もより大きなものへと変化していった。その結果、自然環境・生活環境ともに回復が難しいレベルで破壊されていった。それでも止まらない人類は、ウランという物質を核分裂させるのに必要なエネルギーに魔法を使ってしまった。核魔法の誕生である。その結果、ある意味世界は統一されることになったが、しかし・・・・・・・・・・・・・・・・・・
新統一国家【ヴァルハラ】大統領執務室にて
新統一国家の初代大統領となった【ヴィト】は戦争中に大幅に失われ、戦争終結後10年間も魔素が
全く回復しない原因を調べさせた報告書を読んでいた。
「・・・・魔素とは主として生物が生み出したエネルギーが変化したもので、突き詰めると植物の光合成に由来する、・・・・か。」
魔素の塊である【魔石】も既知の鉱山は採掘されつくしているし、先の戦争で森林は戦前の10%に満たないレベルまで減ってしまった。一応火山が持つ地熱や風力・太陽光からも魔素には変換できるが・・・・かつての生活水準を生き残った国民にさせるためには全く足りん。そもそも、失われた環境を元に戻さない限りこの世界未来はないんだが・・・防衛戦争であったとはいえ、この報告書の示す内容が真実と知ってしまった今となっては我々は、死んでった者も含め愚かであったと言わざるを得ないな・・・・
コンコン! 秘書官の【ライズ】か。別件で研究させていたことに進展があったか?
「入れ。」
「失礼します。」
「ヴァルハラに近い環境の異世界の探索を転移魔法学者に依頼していた件だが、何か進展があったの
か?」
「はい。『この世界に極めて近い、魔素が豊富な異世界を発見いたしました。この世界でいうところの中世レベルの文明のようです。』との報告が上がってきました。その世界の座標は〇◎▽△です。転移が十分可能な距離ではありますが・・・・・やはり、その世界から魔石等の資源を回収するのでしょうか?」
「いや。ライズよ。私は巣の世界を征服しようと思う。この世界は、ヴァルハラはもう駄目だろう。我々は、故郷であるこの世界を破壊しつくしてしまった。おそらく自然の魔力回復は見込めない。それよりは向こうの文明を征服。必要なら滅ぼして我々がそちらへ移住したほうが良い。」
「ヴィト大統領!・・・それは悪魔の所業です。再考すべきです。」
「わかっている。だが我々が生き残るにはもうそれしか手段がないのだ。国民を救うためならば鬼にでも悪魔にでもなろう。人口も戦前は全世界で100憶人いたのが、今や1000万人に満たないのだ。どうしても移住を拒否するものは置いていくが、税院で移住が可能な人数ではある。そして、いまだ戒厳令中だ。議会にかけずとも私の一存で決定できる。明日全世界に私の演説を放送し、説明をしたうえでしたがったもらうよ。決行は1年後とする。準備をよろしく頼むよ。ライズ。」
「・・・・・・ふぅ。納得はいつまでもできないと思いますが、命令であれば従うのみです。まずは・・・・・・」
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秘書官ライズの退室後、ヴィトは深く深くため息をつく。・・・・
「悪魔・・・か。言い得て妙だな。私は異世界ではきっと【魔王】とでも呼ばれるのだろうな。恨むなら恨め。だが我々は死んでいったもののためにも生き続けなければならんのだ。・・・・・」
その後、異世界侵略の方針は、大統領令として発表された。本来であれば議会の審議において、あまりに非人道的なやり方であり、全く受け入れられない話であるが、食糧生産も十分にはできず、安全に生活できる環境も大幅に失われている現状があり、反対する者もいたものの、多くの人々はこの政策を受け入れた。
そして1年後、某所にある、【国立転移魔法研究所】にて
「さて、いよいよ向かうか。以前からの打ち合わせ通り、今回は現地で拠点を作り移住を進める準備をするのが目的だ。当面は向こうに滞在することになる。同行者は【イアリ】【レギン】【ロキ】【スロール】【ライズ】他50名である。現地に着いた後、相互に連絡は取れるようにする。滞在期間は不明だが不明だが、私の留守中は頼むぞ、副大統領」
「了解いたしました。・・・ヴィト大統領不在中は、この【マグニ】にお任せください。」
「大統領!【界移動装置】準備が整いました。いつでも使用可能ですじゃ。」
「【ラウム君】、ご苦労。では、我々の未来のために行くぞ。」
研究所長であるラウムは、速やかにそばにいた数名に指示。間もなく、界移動装置が起動する。搭乗口が開き、ヴィト以下51名が乗船する。
「・・・界座標〇◎▽△・・・入力完了。・・・・実行!」
そう言ってスイッチを押す。間もなく起動音が鳴ったかと思うと、51人を乗せた船が、マグニ副大統領・ラウム所長以下研究所職員の目の前から姿を消す。
「界座標〇◎▽△に転移成功しました。」
研究員の1人が報告。
「よろしく頼むぞ、大統領よ。」
ラウム所長はそうつぶやくと、大統領以下51名が無事に過ごせることを祈るのだった。