表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

TREE・LIBRARY

一騎当千

作者: ハブ広

 赤褐色の大地、禍々しく広がっている紅い空、流血の如く塗り潰された紅蓮の大海原、まさしく地獄絵図のような風景が一面に広がっている異世界。弱者は虐げられ、強者が思うままに蹂躙し続ける。勝てない限り覇権を掴むことすらあり得ない、平穏だった日々は争いで明け暮れて荒れに荒れる。

 今日もどこかの町で阿鼻叫喚の渦が巻き起こっていた。返り血で穢れた少女が血だらけで横たわる母親を揺すって起こそうとするが、マネキンのように全くもって動く気配がない。何もかも映さなくなった乾ききった瞳から流れた涙痕が目の前で広げられていた残酷な現状が作り出す恐怖を物語っている。

「お母さん…お母さん…!」

 髪飾りをした少女を嘲笑うように見下し続ける猛者たちは斧や剣などの冷たい刃を首元に近づけていた。死神の鎌が今にも少女の命の燈火を吹き消すが如く構えられている状況、もはや助けてくれる人など一人もいない。

 助かりたいなら自分で何とかしろと言わんばかりの瞳で見つめるのは周りで何も抵抗できずにいる人々はああ、もうすぐ死ぬなあいつはと未来視が見えても結末の予想が出来ていた。

「安心しろよ、お前もすぐに母親の元に行けるのだからな」

 リーダー格の男が下で剣にこびり付いた流血をなめとるといかれた目が涙目でこっちに刃を向ける少女を見た。これも行きたいが故の最期の抵抗だ。どうみても体格差、武器の性能差による勝敗の軍配は上がって当然。カチカチと身体が震えて歯が鳴く。母親の仇討ちをしたいのか…。堂々と鼻を鳴らす猛者は少女に語り掛けた。

「いいか?お嬢ちゃん、幾らそんな武器を持ったとはいえない俺らと力量で計っても秤はバランスを崩しちまう、どういうことかわかるか?まだまだ弱いままじゃ勝つことすら叶わない、守るべきものすら守れない、せっかく創り上げた砂上の砂は荒波で崩落する!強さこそが権利であり資格!」

 ああ、ごめんなさいお母さん、私もそっちに行くよ。

 少女は一瞬にして死を覚悟したが、響いた金属音がそれを阻んだ。瞼を開けば一人の戦士が相手の刃を受け止めていた。白と黒のツートンカラーをベースに毛先に蒼と紫のグラデーションが入った髪、高貴な紫色の瞳をし、禍々しい模様が顔に刻まれた青年だった。

「な、なんだてめえ」

「くだらないな、そんなに誇りもかけらもない殺戮だけをしまくっても意味はないというのに」

「ふざけやが…」

 男の腹を両端に刃が付いた鑓で貫かれる。ザグッ…と生々しい肉を切り裂く音が鼓膜を不気味に撫でる。ゴフッ…口から溢れ出た大量の血が青年にかかる。まずは一人目。

「てめぇ!」

 リーダー格の男を殺されて激昂する残りの残党たちを剣と鑓で一気に一掃する。

 気づけば彼の周りには血の海に溺れている大量の肉塊が散らばっていた。少女は震えた手で青年が羽織っている服の裾を掴んだ。どうしたのかと青年は無表情で様子を見てくる。

「あの…お兄ちゃん、ありがとう」

「礼などいい、生きていて何よりだ」

 周りの見物人は青年がなぜ彼女を助けたのかよく理解できていない様子だった。そしてその中の一人が震えた口を開いた。

「何で強者が弱者(俺達)を助ける必要があるというんだ?!やりたいなら好きなだけ人を殺せばいいじゃないか?」

「何で・・・ね、俺は殺す気など微塵もない、強者は弱者を好きにできる権利があると死んだ男は言っていたが、倒した以上は俺も強者だ、殺すか殺さないことなんか俺次第、即ち助けて生かしただけだ」

 彼が言っていたことに誰も言い返すものは居なかったというより今迄野蛮人たちに虐げられていた分、羽目を外して喜びを分かち合った民衆たち。嬉し涙が多く流れて赤褐色肌の地面を穿ちまくる中で戦士は独りで俯いて両手にある武器を見つめ続ける。師匠シュラハト兄弟子グランツ、あんたらが託した想いと誇りは俺が最期まで貫いて見せるさ、無意味な虐殺行為をし続けてきた俺を変え、家族と呼んでくれたあんたらの遺志は潰すわけにはいかない。

「あっ、あの、名前を教えてください…」

「名前か、名乗る必要もないと思うが一応だ、名乗らせてもらおう、ジーク・グランツ=ラインハルトだ。」

 本名であるジークは勝利、ミドルネームであるグランツは栄冠を意味し、ラインハルトは師匠であるシュラハトの苗字を冠している。勝利に誇りを持ち、無駄な殺傷を好まず、それ相応の理由がない限り傷一つつけることは無いこだわりを持つ。混沌溢れて負の感情が渦巻きまくる血生臭い時代を俺が終焉に導いて新たな世界を作る。それが俺の願いであり目的。そのために敵に負けないことが一大条件、もし負けた場合死罪を自ら申し込んで受けるくらいの覚悟だ。勝利は絶対…。志半ばで戦いに敗れた師匠、病魔に脅かされ命を絶たれた兄弟子の為に負けられない戦いがここにはある。

「ジーク、ここにいたんだ。」

「悪いなヴィクトリア、さて次なる地へと行くか」

 今を生き続けるシュラハトの娘と共に彼は世界の覇権を掴むために歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ