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わたしと真々子  作者: 深瀬静流
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 わたしたち三人の分かれ道になるはずだった高校の進路は、危惧した通りの結果になった。

 鉄平は、真々子が行く三ツ星高校にランクを落として入学してしまったのだ。

 ほんと、腹が立ってならない。なんで、どうして、悩乱したか角田鉄平! と、あいつの喉首を締めあげて、どうしてそんなに真々子なんだよ、わたしの存在に気づけよ鉄平と、責めまくりたかった。

 わたしの予定では、真々子は公立の下から三番目の三ツ星高校に行き、わたしと鉄平は公立のトップの七ツ星高校か、私立の進学校あたりに行って、真々子のいない高校生活を謳歌する予定だったのに、もう、めちゃくちゃだ。

 真々子は2DKのアパート暮らしの一人親家庭で、一人で生活を支えているおばさんにとっては、真々子の進学する高校は公立なのが絶対条件で、ランクなんか二の次で、三ツ星高校のガラの悪さも気にしないみたいだった。このあたりが似たもの母子で、楽天的なんだよね。

 でも、鉄平の場合は、お屋敷といってもいい一戸建てに住んでいて、お父さんは国土交通省に勤めているエリートさんで、一人息子の鉄平も父親に似て容姿端麗頭脳明晰なわけで、当然息子の進路に無関心でいるわけはなく、息子の能力に見合った高校に行かせるとおもっていた。だから鉄平が三ツ星高校に行くといったとき、おじさんは、よく許したものだと心底驚いた。

 そのことをうちのお母さんに話したら、ご近所の情報通だけあって、わたしの疑問を難なく解消してくれた。つまり、鉄平のおじさんは仕事が忙しくて、子供の面倒なんか見ていられないらしいのだ。

 鉄平が「友達がおれの分も弁当をつくってくれてる」といったら、「そうか」でおしまいだったそうだし、高校も三ツ星高校にしたといったら、「そうか」、でおしまいだったらしい。

 おさまらないのはわたしだ。わたしは新品の高校の制服に身を包んで、校章のマークが入ったスクールバッグを持って、お母さんと一緒にエレベーターで下に降りて、マンションのロビーの管理人室のおじさんから、「ピカピカの高校生だね。よく似合ってますよ、その制服」、などと、ちっともうれしくないことをいわれてエントランスに出て、マンションの前でお母さんから写真を撮ってもらったりして、お母さんと一緒に三ツ星高校に登校した。

 お母さんは、三ツ星高校のPTA会長をやることになったのだ。PTA会長になって、高校側と生徒側に目を光らせていないと「うちの塔子ちゃんが心配で」と、いうことらしい。

 とりあえず、高校はここで我慢する。ここまでだ。だって、真々子は絶対大学には行けないから。わたしと鉄平は絶対大学に行く。それも国公立大学だ。だから、ここまでなのだよ、真々子くん。

 これからの三年間、また真々子と鉄平のイチャイチャを我慢しないといけないのかと肩を落としながら三ツ星高校の校門をくぐったのだった。

 この高校、ガラが悪いと有名だったが、校舎は意外にきれいだった。生徒はさすがに髪を染めていたりピアスをしている子がいるが、真面目そうな生徒もけっこういて、高校のイメージを悪くしているのは、一部の生徒なのかもしれない。

 昇降口でお母さんがわたしの靴入れの場所を確認して、わたしの髪をちょっと撫でてからいった。

「じゃあ、塔子ちゃん。お母さん職員室に行くから」

「うん。わかった」

「そうそう、今日、転校生が来ることになってるの」

「それがどうかしたの」

「角田くんの家の子」

「なにそれ」

「角田くんから聞いていないの」

「だから、なにを」

「あら、いやだ。角田さん、再婚なさったのよ」

「鉄平のおじさんが再婚したの」

「奥さんのほうにも息子さんが一人いて、その子がこの学校に編入してくるのよ」

「へええ、驚いた。じゃあ、角田に兄弟ができたんだ」

「兄弟といっても同じ学年だけどね」

 わたしと鉄平は一緒のクラスだった。PTA会長のお母さんに駄々をこねて、先生に頼み込ませて鉄平と同じクラスにしてもらったのだ。わたしがクラス委員長で鉄平は副委員長。うれしい。

「じゃあね、塔子ちゃん。今日から本格的に授業が始まるんでしょ。この学校でテストの点を100点以外取ったら、すぐに転校させますからね」

「へえへえ、わかってますよ」

 手をひらひら振ってお母さんを見送ってから、階段を駆け上がって一年B組に急いだ。

 四月といってもまだ寒いのに教室の窓は全開でクリーム色のカーテンが風でバタバタしていた。男女入り混じり、「寒い」だの、「窓を閉めろ」だの、騒いでいるくせに誰も閉めない。

 わたしは教室に入って勢いよく窓を閉めて回った。そして、大きな声で号令した。

「全員着席!」

 一瞬、しらーとした雰囲気になった。誰も着席などしない。わたしは肩を怒らせて机の隙間を歩いていって自分の席に座った。隣の鉄平の肩を指て突く。

「ちょっと角田。あんたに兄弟ができたんだって?」

 鉄平がちらりとわたしを見た。でも何も言わない。先生が入って来たのでわたしも前を向いた。黒板にいたずら書きされていた。気がつかなかった。鉄平のやつ、先に教室にいたんだから、消しておいてくれればいいのに。

 わたしの小さな不満など、お昼のお弁当の時間になった途端、ぶっ飛んでしまった。

 真々子が、ものすごい勢いでB組に入って来たのだ。真々子を掴まえる勢いで、背の高い男子も飛び込んできた。鉄平とは違うタイプのイケメンだった。くるくるウエーブがかかった栗色の長髪。すっきりした首と広い肩。色の白い頬にそばかすがほんの少し散っている。わたしはおもわず「うおおお」と声を漏らしていた。イケてる。イケてるじゃないか!

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