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わたしと真々子  作者: 深瀬静流
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 きょうから冬休み。冬休みって短いけど、イベントがいっぱいあるからけっこう楽しい。クリスマスに、お正月に、お年玉に、初詣で。

 クリスマスイブはおしゃれして新品のブーツを履いて鉄平とデートしたい。新年も着物を着て鉄平と初詣に行きたい。わたしと鉄平の身長は、ちょうどいい具合に釣り合っているから、見交わす目線も決まっている、はず。

 このごろ鉄平は、ますます男っぽくなってきた。無口さに磨きがかかってなにを考えているかわからないけど、そんなことは長い付き合いだから、言葉がなくても以心伝心、なんてね。

「おれの話、聞いないだろ」

 わたしは空想から醒めて、はっとした。ここは大型スーパーのイートインで、わたしと抱介は缶コーラ一杯で一時間もここに座っている。わたしにとっては貴重な一日で、なぜ貴重かというと、お母さんが申し込んできた塾の冬期講習があしたから始まるので、きょうしかゆっくりできる日がないからだ。

 店内は買い物客でいっぱいだが、昨日まではクリスマスソングだったのに、今日はお正月専用音楽が優雅に流れている。

「おれの話し、聞けよ。坂巻」

「聞いてるって」

 どうせ同じ話じゃないの。

「まいったよなあ」

 ほら、同じセリフだ。

「あんなふうに庇われたんじゃあ、惚れるなって言ったって惚れるぜ」

 先日の真々子のウンコ発言で幕を閉じた大谷君とのことをいっているのだ。なにが惚れるだよ。体が痒くなってくるよ。

「真々子は可愛いよなあ」

 ふざけるな!

「なあ、わかるだろ?」

 怒鳴りたいのをぐっとこらえた。

「そんなに真々子が気に入ったんなら、鉄平から取っちゃえばいいじゃない」

 そうしてくれれば、わたしも助かる。

「そんなことできないよ。それじゃあ鉄平がかわいそうだろ。あんなに真々子に懐いているのによ」

 鉄平は犬じゃないよ。

「なあ坂巻。おれはどうしたらいい?」

「知らないよ」

「冷たいなあ。おれ、初恋かも」

「そろそろ時間だよ」

「よし! じゃあ行くか」

 抱介は元気よく立ち上がった。

「真々子のやつ、待ってるだろうな」

 いそいそと、手土産代わりのスーパーの袋を取る。中には飲み物とスナック菓子がたくさん入っている。今日は真々子のママが親戚の用事で出掛けていて、夜まで帰って来ないというので、お昼から真々子のアパートでパーティーをして遊ぼうということになっていた。真々子がお昼ご飯を作るというので、わたしたちはおやつ担当だ。

「ところで鉄平はどうしたの」

 いつもワンセットのように一緒にいるのに、今日は抱介一人だ。

「知らね。起きたときにはいなかった」

「へええ。珍しい」

 わたしはとたんに行く気がしなくなった。鉄平がいないんじゃ、行っても仕方がない。

「わたし、行くのやめようかな」

「そうか? そうするか? じゃあ、おれ、行くから」

 え? おい。少しは引き止めなよ。

「やっぱ、行く」

「無理すんなって。いいよ、行かなくても。おれから真々子によろしくって言っておくからさ」

「うっかりしてた。二人だけにするところだった」

「あはは」

 てくてく歩いて小学校は目の前だ。そこから五十歩歩けば真々子が住んでいるアパートにつく。外観は淡いピンクの外壁で窓枠は白でベランダの柵はアルミで二階の屋根には中二階がありそうな小窓がついていて、ちょっと見、絵本の挿絵にあるような建物だ。

 真々子の部屋は二階の角部屋で、外廊下を歩いて行く。ドアチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いた。真っ赤なハート模様のエプロンを付けた真々子がニコニコしながら立っていた。

「いらっしゃあーい。待ってたよん」

 狭い靴脱ぎには女物のサンダルと大きなスニーカーが三足並んでいる。ん? とおもって狭い奥を覗くと、ピンクのハート模様のエプロンを付けた鉄平が、キッチンでお鍋をかき回していて、ダイニングテーブルでは野村君と大谷君がお皿を並べたりサラダを盛り付けたりしていた。

「よお。来たか」

 と、大谷君が自分の家のような態度でいった。野村君はペコリと頭を下げて笑っている。抱介がむくれだした。

「なんで、ほかのやつらがいるんだよ。鉄平、おまえ、抜け駆けしたな」

 わたしはさっさと上がって、十畳しかないキッチンダイニングを埋め尽くしている食器棚とか、冷蔵庫とか、テレビとかの隙間を歩いて、鉄平のところに行った。

「わたしが代わるわ」

 鉄平の後ろに回ってピンクのエプロンの紐をほどく。男子の背中って、大きいな。なんだかドキドキする。このまま抱きつきたい。

「なんで大谷と野村までいるんだ」

 抱介がまだ玄関で怒鳴っている。

「真々子が呼んだんだよ。抱介も上がりなよ」

 と、真々子。

「なんで呼んだんだよ。じゃまだろ、こいつら。いつからお友だちになったんだよ」

 テーブルには、真々子が作った料理が並んでいた。ゆで卵が入ったハムとリンゴのレタスサラダ。イカとエビとベーコンがたっぷり入ったパエリヤ。マッシュポテトに粉チーズとバターを乗せたオーブン焼き。こんがり焼き目がおいしそうなトリ手羽の香草焼き。それらが大皿に彩りよく盛り付けらている。

「これ、ほんとに真々子がつくったの?」

 わたしは驚いた。真々子がエプロンをはずして冷蔵庫の横に取り付けたフックにかけ、折り畳み式の踏み台を持ってきて椅子の代わりにする。

 全部で五人。これでみんなが椅子に座れる。踏み台には鉄平が据わった。

「そうだよ。みんな真々子がつくったの。真々子はいつだって主婦になれるんだよ」

「たしかに」

 わたしは圧倒されて料理をながめた。料理をする女子って、男心をくすぐるんだよね。さっきまでかき回していたお鍋のオニオンスープを一人一人に配り終わった真々子が、鉄平の隣に坐って、「さあ! いっぱい食べてね」と、いった。

 どれもこれも、感動的においしかった。悔しい。まずかったらよかったのに。悔しい、悔しい、真々子のくせに、と心の中でわめきながら、ほんとにおいしくて、わたしは男子たちよりたくさん食べて真々子を喜ばせてしまったのだった。

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