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172修行


宿に帰った俺は、早速行動することにした。

まずは目標だ。

俺は居場所がほしい。

王様からは嫌われているみたいだし・・王様から嫌われたら、その国には居づらいよね。

でもどこへ行くにしろ、無能お断りだと思う。真面目なだけってダメかなぁ・・いや、そもそも真面目なのか俺は?


俺の評判だけ聞いたら色々期待されるはず。

だから力がほしい。願いを実現できる力が!

そしてプロに教われというなら・・ダークエルフさんだよね!


双星「ダークエルフさん!俺に戦い方を教えてください!」

ダークエルフ「いいわよ。」

事情も聴かずふたつ返事でOKしてくれるなんて、ダークエルフさんすごくいい人!

人というかダークエルフだけど。あ、ハーフだっけ。エルフとダークエルフの。


宿の外で短剣の使い方を教わる。


ダークエルフ「人はなぜ武器を使うと思う?」

双星「素手より威力が高いのと、射程が伸びて有利になるから?」

ダークエルフ「では、威力が低く射程の短い短剣を使う理由は?」

双星「えっと・・軽くて小さくて携帯しやすいから。」

ダークエルフ「そう。短剣は軽くて小さくて便利。短剣を手軽に使いたいなら、毒や暗器というやり方もあるわ。」

暗器って、隠し武器のことだっけ。不意打ちするためのもの。

毒はちょっと・・使い方間違えたら俺が毒で死んじゃいそう。というかいつか間違える!自信あります!


ダークエルフ「殺すための毒は非難されるけど、痺れ系の毒ならむしろ相手を殺さずに済むわ。」

短剣はそういう使い方もしやすいのか。

・・うーん非常に気になる。気になるけど・・


双星「まずは普通に使う方法をお願いします。毒とか暗器とかは・・・・あぁやっぱり興味あるぅ・・ちょっとだけお願いします。」

ダークエルフ「わかったわ。なら基本からね。」

ダークエルフさんは、構え方や構える意味、武器をふるうときに必要な筋肉や筋肉の鍛え方を教えてくれた。

うーん、本当に基本的なところからだ。

今までとりあえず短剣持っていましたって程度だったから、教わることがなにもかも新鮮だった。


ダークエルフ「強くなるには同じような訓練を毎日繰り返すことが基本。体作りとも言う。」

双星「作業系は得意です。」

ダークエルフ「でもまったく同じだと体が慣れるから、少しずつ負担を増やしていく。」

双星「規則的に増やしていけばいいんだよね。そういうのも得意!」

要するに、今日腕立て伏せを10回したら、明日は11回、明後日は12回しようとかそういうの?


ダークエルフ「ううん。体調に合わせて調整しないと怪我する。」

双星「・・アドリブは苦手です・・」

ダークエルフ「限界の見極めは難しい。もう無理・・と思っても、限界じゃなかったりする。」

ダークエルフ「反面、まだいけると思ったら次の日すごく痛くなったり。」

双星「どうすればいいの?」

ダークエルフ「最初は私が診断する。その中で限界がどういう状態か覚えて。」

う・・苦手分野だ。

だけど乗り越えないと。楽な方へは逃げない!・・たぶん。


・・

・・・・


それから毎日特訓するようになった。


馬「お前顔つき変わった?」

馬「凛々しくなった気がする。」

馬「整形した?」

目標持ってがんばっているからだよ!

俺・・強くなる!


馬「ならヒミカ様に習ったら?」

馬「ヒミカ様教えるのも上手だよ。」

馬「たまに半殺しにされるけど。」

それは教えるの上手とは言わないと思う。

ヒミカさん手加減しようよ・・


馬「いや教わる方が半殺しになるまで”まだ大丈夫です、もっと叩いてください”って言ってただけ。」

馬「あれはガッツのある変態だったな。」

馬「一応強くなったみたいだけど、怪我する度にヒミカ様から叩かれたのを思い出してにやけるそうだ。」

変態戦士かな?


ヒミカ「相変わらず馬に懐かれているな。」

あ、ヒミカさん。


馬「うおおおおおヒミカ様ああああああああ」

馬「今日もお綺麗で!」

馬「罵倒してください!」

お前らの言葉通じていないから。


馬「だから言えるんじゃん。」

馬「聞こえるように言ったら引かれるだろ。」

馬「お前さ、空気読めないやつって言われない?発言にもTPOってあるんだぞ。」

・・なら俺にも聞こえないように言ってよ。


馬「なんで?」

馬「お前に気を遣うとかありえん。」

馬「オレらマブだろ。気兼ねなく話そうぜ!」

どこか納得いかないものがある。

いつ友達になったんだろう?


ヒミカ「いつ見てもお前が一緒だと馬たちは楽しそうだな。」

双星「馬に・・バカにされているんですが。」

ヒミカ「動物は人と話ができない代わりに、雰囲気や感情を読み取る能力が強いとされている。」

ヒミカ「お前が仲間だと認められた証だろう。」

そうなの?


馬「エサ持ってきて、厩舎の掃除して、オレらのご機嫌うかがいして・・どちらかというと奴隷じゃね?」

馬「強いて言えばペットだよな。仲間とかあはははははははは。」

馬「仲間っていうのはな、気が向いた時に来てさえずりを聞かせてくれる鳥とか、たまに土の中から顔をのぞかせるモグラとかのことを指す。」

なんで他の生き物なんだよ。

馬の仲間は馬だよね?


馬「はははそんなバカな。」

馬「馬並みの知性しかないこいつらと仲間扱いされるのは心外だ。」

馬「優秀過ぎるとな、孤立しちゃうんだ。オレみたいに。」

お前ら仲良しだな。

同レベルだとわかった。


ヒミカ「まぁ本当にバカにされているだけの場合もあるが。」

双星「たぶんそっちです。」

間違いなくそっちです。


ヒミカ「・・とりあえず普通に仕事してくれてよかった。」

双星「いつも普通ですけど。」

ヒミカ「貴族の地位と土地は剥奪されたままだ。お前は怒ってもいいんだぞ?」

双星「別にほしいものでもないですし、無いなら無いでどうとでもなりますから。」

ヒミカ「お前はなにをすれば怒るのか。3回は激怒してもいいくらいお前は理不尽な目に遭っている。」

双星「3回・・あ、仏の顔も三度までって言いますし、次なにかあったら怒ったりして。」

ヒミカ「ふふ、なら次も怒らなかったら、お前は仏を超えることになるのかな。」

双星「え?あ、いやそんなつもりじゃ・・」

ヒミカ「わかっている。私なりに少し考えてみた。」

ん?


ヒミカ「C国で起きた悪魔騒動。あれは間違いなくこの地域に異常な・・何者かがいることを示していた。」

ヒミカ「そやつはお前に幸運を与え、お前は幸運の力であらゆる困難を解決してきた。」

ヒミカ「それ故に実感がわかないのだろう。己の力で解決していないから、それによって得た物への執着や所有欲が感じられないのだ。」

ヒミカ「だから気軽に手放せる。失っても気にならない。本来己が受け取る報酬ではないと思っているから・・」

双星「そう!そうなんですよ。」

ヒミカ「・・と、お前は思わせたいのかもな。」

双星「えーん、なんで最後そうなるかなぁ。」

ヒミカ「ただの八つ当たりだ。」

双星「え?」

ヒミカ「お前もわかっているのではないか?誰がお前に幸運を与えたのか。」

双星「・・」

ヒミカ「わかっても言えない。言ったら・・それは終わりを意味するから。」

・・ヒミカさん・・


ヒミカ「聞かせてくれ。お前は望んで幸運を得たのか?」

双星「いえ。気が付いたらなにやってもうまくいくようになっていました。」

ヒミカ「そうか、ならいい・・双星、私は終わるとわかっていても、いつかその者を問い詰めるだろう。」

双星「・・そうですか。」

双星「その方は人間じゃないんです。だから人の論理は通用しない。」

双星「相手の論理を理解して話せばきっとヒミカさんならなんとかなりますよ。」

ヒミカ「根拠は?」

双星「たぶんですけど、その方はヒミカさんのことも気に入っていると思います。」

双星「人を殺すことに抵抗がなく、でも無差別に人を殺したいわけでもない。」

双星「人が他の生き物を見るように、その方も人間を他の生き物として見ているだけなんじゃないかと。」

双星「怒らせたらやばいと思いますが、気に入られているならそうそう怒ったりはしないかなーって。」

ヒミカ「・・お前はそやつに会ったことはあるか?」

双星「・・自己紹介されたわけじゃないですけど、一度だけ。」

ヒミカ「なにか言ってたか?」

双星「死ぬ気でがんばれって。結果が出ないまま死んだら褒めてくれるって。」

ヒミカ「そうか・・なら恐らくどちらかだ。」

双星「どちらか?」

ヒミカ「死後の世界に干渉できる存在。神か天使。」

神か天使・・?

そういえば、猿の手がなにか言ってたような・・


ヒミカ「とはいえ、その言葉が真実かはわからぬ・・人とて死後の世界を保障するしな。」

まぁ・・うん。

宗教家が真っ先に思い浮かんだけど、一般人も軽々しく死後のことを決めつけるよね。

悪いことをすると地獄へ堕ちるとか、良いことをすれば天国へ行けるとか。

・・本当に、そうなのかな・・?


ヒミカさんは、邪魔したなと言って帰っていった。

世界の大きさに比べて人の力はあまりにも小さい。

それでも足掻きたくなるのもまた人間。


馬「ヒミカ様が心配か?」

馬「大丈夫だぞ。最悪の事態はやって来ない。」

馬「最悪なのはお前の顔だけにしとけ。」

・・いや別に俺の顔も最悪ってほどじゃないでしょ。イケメンでもないけど。

ところで、この後の未来を教えてもらうことってできる?


馬「お前はB国へ行く。」

馬「B国も問題を抱えている。だが今のお前では解決できない。」

馬「そしてA国に戻ったお前は、新しい日常に遭遇する。」

そっか・・サンキュー。

次はB国か。

なにが必要かわからないから、とりあえず戦う力を身につける方向のままでいいか。

そういやB国って、どんなところだ?A国の同盟国なのは知っているけど。

確か武闘大会で闘ったシャルロット王女様がB国の人だよね?

最近見ないなぁ・・まぁB国の人だし王女様だし見かけなくてもおかしくないか。


・・

・・・・


宿へ戻るとダークエルフさんは出かけていた。

自主練でもしよっかな。


双星「メイドさん。」

メイド「はい、なんでしょうか?」

双星「ちょっと体を動かしてくるから、夕ご飯は少し後に出来る?」

メイド「わかりました。最近がんばっていますね。」

双星「うん。色んな技術を身につけようと思うんだ。」

メイド「色んな技術・・なら、料理もしてみますか?」

料理?


・・・・


なぜか俺は、メイド服を着て宿の厨房にいる。

なぜいるのかはわからない。

なぜメイド服を着ているのかもわからない。


メイド「料理は、取り返しのつく工程と、取り返しのつかない工程があります。」

メイド「例えば卵とじ系の料理だと、卵でとじたら工程を戻すことができなくなります。」

メイド「一方、鍋系の場合、料理が完成した後で味付けを変えたり具材を追加することができます。」

メイド「初心者は、取り返しのつく料理がお勧めです。」

双星「あの、なんで俺はメイド服を着ているのでしょうか?」

メイド「G国でそういう約束をしたからです。」

そういえばカードで負けてそんな約束をしたような・・

宿の連中が不思議そうに見ている・・俺の女装姿を。


メイド「取り返しがつき、なおかつ簡単に作れるものといえば・・生姜焼きにしましょう。」

双星「おいしいけど、簡単に作れるものだっけ?」

メイド「玉ねぎを炒めて、お肉を炒めて、生姜と調味料を入れれば完成です。味付けは完成後も変えられるので取返しもつきます。」

双星「まぁそれくらいなら・・」

料理初心者ってわけでもないし。

まずは玉ねぎを扇形に切る。


双星「・・包丁使うときは猫の手って言うけど、そうしないとダメ?」

今までそんなことしないで料理して来たから・・やってみたけどなんかやりづらいんだよねあれ。


メイド「猫の手は慣れないと怪我しちゃいますよね。」

双星「なんで猫の手がいいの?」

メイド「包丁と猫の手にした中指の第一関節をくっつけて切るんです。」

メイド「包丁を中指の第一関節より上に持ち上げなければ理論上、手は怪我しません。」

なるほど、よくわからん。


メイド「プロを目指すなら、猫の手はできないと技術を疑われるかもしれません。」

メイド「個人レベルなら本人のやりやすいやり方でもいいと思いますよ。」

メイド「・・正確さと速さは犠牲になりますけどね。」

そっか・・うん、ゆっくり切ろう。玉ねぎ覚悟!


メイド「もし、より高いレベルを学びたいなら猫の手も挑戦してください。」

メイド「最初は時間がかかるでしょう。うまくいかず怪我してしまうかもしれません。」

メイド「でも学生時代を思い出してください。なんでも反復して覚えていったでしょう?それと同じです。」

あれ・・俺、自然とレベルの低い方を選んでた・・?

いやでも、その方が怪我しにくい気がするんだよね。


メイド「誰だって、望んで下手なわけじゃありません。」

メイド「諦めず努力を重ねた人が上手くなっていくんです。」

俺・・言い訳してた・・?


メイド「玉ねぎを切るとき、上から包丁を押すと切るというより潰すことになります。その場合目がやられます。」

メイド「スライドするように包丁を入れると少しマシになります。が、そもそも切れる包丁を使うのが一番です。」

あ、ああ、玉ねぎ切ると涙が止まらなくなるよな。

包丁の刃を並べてひと切りで千切りにできる道具とかあればってたまに思う。


メイド「切り終わったら調味料をあらかじめ混ぜておきましょう。」

双星「砂糖、醤油、料理酒、みりん、生姜チューブ・・チューブ?いつも作ってくれる生姜焼きって固形の生姜使っているよね?」

メイド「最初ですから、極力簡単なやり方をします。手間をかけるっていうのは、その分失敗する機会が多くなるんですよ。」

メイド「お肉も最初から細かく切られたものを使うつもりです。」

そう言ってメイドさんはにっこり笑った。

包丁使って火を使って調味料使って・・それでいてそれぞれの工程は少なめ。

これなら確かに簡単そうだ。

よーし、全力で調味料を混ぜ混ぜ!


モルダー「なんでそんな格好で料理してるんだ?なんかの計画?」

双星「料理中だから話しかけるなあああああああああああ」

手元が狂う!


メイド「メイドたるもの、お客様に塩対応はしちゃダメですよ(ツンデレ除く)」

メイド「話かけられたら笑顔で対応です♪」

双星「話ながらだと料理ミスるんじゃ・・」

メイド「ミスしないように、少しゆっくり作ります。」

メイド「当然それだと完成まで時間がかかってしまいます。ですので・・話が終わったら全力を出します。」

全力?


メイド「普段は70%~80%くらいの速さで作ります。これは、考え事をしながら料理できるくらいの速さです。」

メイド「料理しながら次やることや、ご主人様のためになにができるか。そういうことを考えながら料理をするのです。」

メイド「話かけられたらそちらに集中しましょう。料理の速度は落ちても構いません。ちゃんと丁寧に作りましょう。」

メイド「話が終わったら遅れを取り戻すために100%全力で作ります。余計なことは考えず、ひたすら完成だけを目指します。」

メイド「メイドの対応もご主人様の評価につながります。恥ずかしくない対応をしながら、料理は定刻に完成させるんです。」

はー、メイドさんすごい。


メイド「双星様もできますよ。そして立派なメイドになってください♪」

うん、メイドにはならないよ!


・・

・・・・


出来上がった生姜焼きは宿の人たちに振る舞った。

ちょっと恥ずかしい。


モルダー「うん、うまい!肉最高!」

ルシファー「甘じょっぱいは正義!」

あ、ルシファーさん久しぶり。


コード「ご飯に合うし、うまいよな生姜焼き。」

アルファ「私は魚の方が好きよ。でも生姜焼きもおいしいわね。」

ゴッド「つまりはオレがミラクル・ゴッドである証明。」

タヌキ「肉なんて久々に食ったよ。おかわり!」

麗しのミルキーウェイ「ついついたくさん食べちゃうわね。」

信者「一生大切にします!」

食べてください。

まぁ好評でよかった。

カレーを焦がしたことがある俺としては、ちょっと不安だったけど・・

まぁすぐそばにメイドさんがいたから失敗しようがないか。


ルシファー「お礼にいい話をしてやろう。実は魔界というものが存在しているんだ。」

ルシファー「そこでは神を殺すための自動人形が研究されている。」

うーん、聞く意味あるのかこれ?

魔界とか小説でしか聞いたことない。


アルファ「ところで、なんでメイド服着ているわけ?」

俺は黙秘を覚えた。

メイドというものは、主より目立たず影の存在であるべきなのだ。

というわけで隠れます。というか着替える!><!


・・

・・・・


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