171THE FIRST ENCOUNTER(出会い)
A国に帰ってからずっとなにか感じる。
誰かに見られている。
きっと俺に強運を授け馬たちと話せるようにした者。
俺は運命に逆らった。
恐らくこの国で罰を受けるだろう。
でも・・他の人を巻き込みたくない。
みんなに別れを告げたいけど、そしたらダークエルフさんたちは俺をひとりで行かせてはくれないだろう。
せめて馬たちにはお別れしよう。
双星「みんな元気してた?」
馬「おうよ!」
馬「食べまくり運動しまくりだぜ!」
馬「健康が一番!」
あれ・・なんで喋っているの?
馬「え・・今更?(困惑)」
馬「前からだろ?(困惑)」
馬「記憶喪失か?(困惑)」
いやその、俺は運命に逆らったわけで。
お前らと話す力も剥奪されたんじゃないの?
馬「勘違い星人現る。」
馬「人間が運命に逆らえるわけないだろ。」
馬「お前が皇帝になれと言われて、それに反発するのも既定路線だ。」
ど、どういうこと?
馬「わざとお前が嫌がることを言われたんだよ。それくらいわかれよ。」
馬「子供を殺せと言われてお前が違う道を選択する。その結果全部うまくいきました、ちゃんちゃんっていうのが当初の予定だぜ。」
馬「お前が皇帝になるっつーのはミスリード。騙されたのはお前な、OK?」
あれー?じゃあ・・ん?どういうこと?
俺・・運命に逆らったから処刑されるんじゃないの?
馬「バカだねぇ。猿の手のときにお前もう逆らってるじゃねーか。」
馬「今更王国。」
馬「アホはアホだからアホなのではない。学習しないからアホなのだ。」
うーん散々言われている。馬に。
馬「・・お前が処刑されるとしたら、お前の都合とはまったく別の論理で行われる。」
馬「人の常識で”あの方”を語ることはできない。」
馬「終わりは突然やってくる。すべては・・いや、なんでもない。」
最後まで言ってほしいな。
でも俺もわかっている。馬たちの言っているあの方のこと。
C国での悪魔騒ぎ。あれはフェイクだ。
俺の強運が無くなっていないことからまだ存在している。
人より遥かに恐ろしい力を持つ。
C国の亡くなった王様の見立ては正しかったんだと思う。
俺の近くにいて、直接手伝わない者。
あの方とは、受・・パチン!
馬に叩かれた。うーん2回目だ。
顔にちょっと土ついた。
馬「言ってはいけない。」
馬「捜してはいけない。」
馬「見つけてはいけない。」
・・わかってるよ。
わかっているけど・・
・・
・・・・
馬たちと話をして遅くなってしまった。
みんな気さくで話しやすいんだもん。
夜。人通りがないのは珍しいな。
街灯が照らす。街灯が俺を見ているような気がする。
そんな町中で、ふと路地裏が気になった。
街灯の光が照らされない闇の世界。
俺はふと、誘われるかのように足を踏み入れた。
月の光がない今日は一段と暗い。
闇の中は心が休まる。
覆い隠された心が露わになる。
俺は、困った人がいたら助けなければならないと思っていた。
苦しむ人を助けなければならないと思っていた。
A国へ来る前はそんな力なんてなかった。
困った人、苦しむ人がいてもなにもできなかった。
でもA国へ来てから助けたいと思ったら助けることができた。
相手が個人だろうが国だろうが魔王だろうがなんとかなった。
助けてきた。
助けてきた。
みんな助けてきた。
だから・・誰か俺を助けて・・
俺が本当に助けたかったのは、俺自身なんだよ・・
どう生きるのが正しいの?
なにが正しいの?
みんな仲良くって、ひとりに嫌われたらそれだけでダメなの?
悪人とも仲良くしないといけないの?
お金くれたら仲良くしてやると言われたらどうするのが正しいの?
仲良くしないといけないのに競争社会なの?
仲のいいライバルとか変じゃない?
他人の悪口言ってる人を注意したら、俺が悪口言われるようになったけどなんで?
俺の悪口言う人とはどうやって仲良くなればいいの?
みんなの幸せって、自分が犠牲にならないとダメなの?
苦しんでいる人を助けていたら自分を助けられないよ。
でも苦しむ人を助けないとダメなんだよね?
なんで俺を助けてくれないの?
ずっと苦しかったのに。
ずっと悩んでいたのに。
ずっと辛かったのに!
考えないようにしていた。
考えたら辛くなるから。
でも、もう限界・・答えがほしい。
絶対の真実が!
信じられる正しさが!
抽象的ではない具体的な真理が!
誰か俺を助けて!!!
「双星さん?」
後ろから声が聞こえた。
声の主を俺はよく知っている。
A国へ来たその日に知り合った。
明るくて、綺麗で、トラブルメーカーで・・でも・・その正体は・・
俺は振り返った。
受付「珍しいですね。こんなところにいるなんて。」
受付のおねーさん。
双星「あ、はい。なんとなく行ってみたくなったんですよ。不思議な感じですよね路地裏って。」
受付のおねーさんとは5歩くらいの距離。
遠すぎず、近すぎず。
その顔はいつも通り・・綺麗な顔でにこやかにしている。
受付「暗くてワクワクしますよね♪」
受付のおねーさんが1歩近づいた。
双星「中二病ですか?」
受付「違いますよ。闇は恐怖と同時に安らぎを与えてくれるんですよ。」
受付「明るいと眠りにくいでしょ?人間に闇は必要なんです。」
受付のおねーさんが1歩近づいた。
双星「そうですね・・そうかもしれません。」
受付「双星さんは、闇に何を求めますか?恐怖?それとも安らぎ?」
受付のおねーさんが1歩近づいた。
受付のおねーさんとは2歩の距離・・
緊張で心臓がバクバク言ってる。
双星「・・安らぎが・・ほしいです。」
受付「そうですか。」
受付のおねーさんが1歩近づいた。
すぐ目の前に受付のおねーさんがいる。
安らぎって・・どういう意味でとられただろうか。
受付のおねーさんは変わらずニコニコしている。
受付「なら安らぎあげちゃいます♪」
受付のおねーさんの手が俺の首・・いや、頭の方へのびた。
双星「!?」
受付のおねーさんの手は、俺の後頭部を包むように抱きしめて来た。
俺の膝が曲がった。
膝立ちになり、俺の頭は・・吸い寄せられるように受付のおねーさんの胸にフィットした。
受付「よしよし。」
受付のおねーさんの手が俺の後頭部をなでなでする。
こ、これは・・・・あれ?
なんか・・すごく落ち着く。安心する。
肩の力が抜けて、受付のおねーさんの胸により顔をうずめた。
エッチな気分にはならなかった。
受付「いい子いい子、双星さんは溜め込んじゃうタイプなんですよね。」
双星「うん・・」
受付「どうしたらいいかわからないんですよね。」
双星「うん・・」
受付「なんでこんなことになったかわかりますか?」
双星「・・それもわからないです・・」
受付「それはね・・あなたががんばって来なかったからよ。」
え・・
声のトーンが変わった気がした。
顔をあげてみた。
・・いつもの受付のおねーさんじゃなかった。
美しい・・だけど、鋭い目がこちらを捉えていた。
背筋が寒くなった。
受付「あなたはいつもその場しのぎしかして来なかったわ。」
受付「無計画だからいつも準備不足。必要なときに必要な力が身に付いていない。」
受付「その日の気分でやることを決めているから、気が付くと楽な方へ楽な方へと堕ちていった。」
ごめんなさいと言いたかった。
でも言ったら堕落を認めるようで、罪を認めるようで・・
それは・・罰が待っているような気がして・・
あまりの恐ろしさに口をパクパクさせ、涙が出て来た。
受付「どうすればいいかわかる?」
双星「・・わからない・・です・・」
瞬きしたら目に溢れた涙が頬を伝っていった。
終わった・・俺は間違っていたんだ。
双星「あ・・」
俺の後頭部を撫でていた受付のおねーさんの手が、再び俺の顔を胸にうずめさせた。
受付のおねーさんの顔が見えなくなる。
受付「これからがんばればいいの。」
ん?
受付「今まで、あれができれば、これができればって思ったりした?」
双星「・・戦う力があればよかったと・・思い・・ました。」
受付「なら戦うための訓練をしなさい。」
双星「えっと・・?」
どういうこと?
涙は止まっていた。
受付「あなたは今までがんばって来なかった。だから、これからがんばればいいのよ。」
双星「今から何をがんばれば・・」
受付「今さっき言ったでしょ?戦う力がほしいって。」
双星「は、はい・・」
受付「あなたは貴族になったとき、礼儀作法が必要だと思わなかった?」
双星「あ・・思いました。」
受付「目標を持ちなさい。そして目標に必要な力を身につけなさい。そのためにがんばるの。」
双星「俺・・もうすぐ30歳だけど・・」
受付「例え50でも80でも遅くはないわ。でもがんばることを諦めたらあなたの人生はそこで終わり。」
受付「他人があなたを見捨てても、あなたはあなた自身を諦めないで。」
受付「死ぬまでがんばり続けなさい。死ぬ気でがんばりなさい。がんばらない言い訳を考えないで。」
頭を押さえつけられているから顔をあげることができない。
受付のおねーさんは・・今、どんな顔をしているんだろう?
受付「でも、がんばっても結果が出るとは限らない。」
受付「武闘大会の参加者が全員がんばっても、優勝できるのはひとりだけ。」
受付「人の世はがんばっても結果が出ないことの方が多い。」
受付「やっても無駄だからって、苦しくなる。がんばることをやめたくなるわ。」
受付「それでも・・私はあなたにがんばってもらいたい。」
受付「もしあなたが結果を出せないまま亡くなったら、私があなたを褒めてあげる。」
受付「もしあなたが結果を出せないまま亡くなったら、私があなたを認めてあげる。」
受付「もしあなたが結果を出せないまま亡くなったら、私があなたを救ってあげる。」
受付「だからがんばることを諦めないで。」
受付「私があなたのがんばりを見ていてあげる。」
受付「楽な方に逃げないで。」
再び受付のおねーさんが俺の後頭部を撫で始めた。
俺を殺すわけじゃ・・なさそう?
質問とか・・大丈夫かな・・
双星「あの・・俺、全然才能とかないかなって思うんですが・・」
受付「戦う才能が無くても、人付き合いが苦手でも、アドリブが苦手でも、女の子が近くにいても手が出せないヘタレでもいいのよ。」
受付「才能だけで結果が出るわけじゃないわ。」
受付「自分に足りないものがあれば仲間に補ってもらったり、訓練してみたり。」
受付「道具に頼ってもいい。良い靴は足を疲れにくくしてくれる、良い馬はより早く安定して目的地へ行ける、良い鎧はあなたの命を守ってくれるわ。」
双星「・・俺自身が優秀になりたいと思ったら、どうすればいいですか?」
受付「早く行動しなさい。」
受付「多くの事柄は時間をかければより有利に事が進めるわ。でも時間制限がある。」
受付「より多くの時間を用意するには1にも2にもまず動き始めること。誰よりも早くね。」
受付のおねーさんに従っていれば、なにもかもうまくいくような気がする。
ならもう・・
双星「・・受付のおねーさんならみんなを幸せにできますか?」
受付「できるわ。でも、私に管理された自由のない世界がお好き?」
双星「自由はなくなるんですね。」
受付「自由にやってうまくいかないから私に管理されたいんでしょ。」
受付「なにもしなくても幸せになれるわ。自由なんて必要だと思わないくらいにね。」
双星「ははは、素敵ですね。」
受付「でも飽きたらやめるわ。私は人間の奴隷じゃないの。人間のために働くなんて気が向いたときしかやりたくないわ。」
受付「すべての生き物は、自分か、自分の種族のための行動しかとらないのよ。」
うん。
受付「そうそう、死ぬ気でがんばるのと無理をするのは違うから。無理をしたら心や体が壊れちゃうわ。」
受付「最初は自分の限界がわからないもの。プロに教わりなさい。」
プロ?
受付「お迎えが来たようね。」
お迎え?
ダークエルフ「双星!」
え?ダークエルフさん?
顔をあげると、受付のおねーさんの顔が目に映った。
・・いつもの受付のおねーさんだ。
ダークエルフ「なにをしている!?」
受付「いつもがんばっている双星さんにサービスです♪」
ダークエルフ「・・双星、帰るぞ。」
ダークエルフさんに手を引かれ、路地裏を出た。
ダークエルフ「・・あの女にはあまり近づかない方がいい。」
ダークエルフさんの顔は真剣だった。
ああ・・そっか、ダークエルフさんも気付いていたんだ。
受付のおねーさんのこと。
双星「・・うん、わかってる。ごめんね。」
でも・・そんな危険な存在とは思えなかった。
もっと・・んー、どう説明すればいいかわからなかった。
最後に後ろを振り返ってみた。
路地裏にいる受付のおねーさんは、暗闇の中なのにはっきり見えた。
・・
・・・・




