表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

予想通りの長い展開


「羽ペンはドミティッラ嬢の仕業だったわけだが」


 仕業とは人聞きの悪い、とルドヴィカとドミティッラは同時に思ったが、敢えて口にすることはなかった。


「他にも嫌がらせの証拠はあるんだ。ルイズの魔法実技試験の際にカードに細工をして魔法をわざと失敗させたな。ルイズにぶつかってカードを落とさせ細工をするところを見たとアドルノ伯爵子息ほか3名が証言している。これをどう説明するんだ? 授業時間だからな。ドミティッラ嬢ではないだろう」


 小太りなアドルノ伯爵令息やひょろっとした背の高いグイサ子爵令息が確かに見たと証言した。

 そして細工をされたと言うカードを高らかに掲げた。あまり上手とはいえない魔法印が描かれており、そこに明らかに上級者が手を加えた痕跡がある。見るものが見れば、それはルドヴィカの癖のある痕だという事がわかるだろう。


「どうだルドヴィカ。観念したらどうだ」


 ドヤ顔で笑うアンリ。上手とはいえない魔法印をさらされて少し恥ずかしげなルイズ。

 ルドヴィカもドミティッラも心当たりはないわけだが、どうしたものかを思案する。


「あぁこれ描いたのあたしだー」


 ひょいっとアンリからカードを取り上げカードを覗き込んだ少女がこともなげに言った。

 そしてその顔は、


「ルドヴィカ…?」


 ルドヴィカにそっくりだった。

 驚いて目を見開くアンリたち。


「ヴィ?」


「んー? なあにー?」


 ルドヴィカと同じ顔なのに、とろんとした眠たげな瞳が違う人物であることを印象付ける。


「ヴィがカードに細工をしたのですか?」


「細工っていうほどのものじゃないよー。なぁんか間違ってたからさー。親切心でー?」


 語尾を延ばしたゆるーい話し方はアンリをイラつかせた。


「というか貴様は誰だ!? ルドヴィカの姉妹か?」


「えー? アンリひどーい。ヴィ泣いちゃうー」


 手を顔に当てて泣きまねをする。王子たるアンリを呼び捨てにするなど不敬罪も甚だしいと騎士たちが騒ぎ立てる。


「アンリ様。こちらはスフィーア家3女、『ルドヴィカ・ヴィオラ・スフィーア』。ヴィオラとも面識がおありかと」


 アンリは記憶を手繰る。だが思い出せない。


「もー。アンリひどいよー。毎月国境結界の報告でお城に行ってるのにー」


「何?」


 ヴィオラの言葉にアンリは記憶を手繰り寄せる。

『ルドヴィカ・スフィーア』は強力な結界魔法が使える。それは周知の事実である。

 そのため冷戦状態にある北の帝国・トーサとの国境警備、結界を維持・強化するために学生の身ながら特例として国境に派遣されている。その報告を毎月城で行っている。そのときにはアンリも立ち会っているし、詳しい説明が必要なときは、王太子とともに執務室で報告を受けることもある。

 ただ、学生であることをわきまえているのか、報告は責任者たる国境警備長官が行っており、ルドヴィカは黙って脇に控えていた。


「あ、あれはルドヴィカだろ?」

「うん。あたしだよー」


 眠たげな瞳でヘラリとヴィオラが笑う。


「国境の結界もさー。いいかげん正規の魔術師たちで維持できるように改良してきたからさー。そろそろ正式に学園に戻るってこないだの定例報告でしたよねー? アンリも頷いてたじゃん」


 相変わらず語尾の延びた気の抜けた話し方でヴィオラは自身がここにいる経緯を語る。だが聞きたいのはそんなことではない。


「ヴィ、オラ…? 君が国境結界を?」


「そだよー。さっきから言ってるじゃん。アンリおバカさん?」


 ヘラリと笑ったまま自国の王子にさらりと暴言を吐くヴィオラ。その視線がパーティの食べ物に向くと、「おいしそー」と歩いていってしまう。


「ヴィオラは結界魔法に優れています。ゆえに、幼い頃よりトーサとの国境の守りに尽力させていただいております。そのことはアンリ様もご存知かと思われますが」


 『ルドヴィカ・スフィーア』は強力な結界魔法が使える。

 その担い手は『ルドヴィカ・ヴィオラ・スフィーア』である。


 その2つが繋がる。


「なっ!? ルドヴィカが結界を張っているのではないのか!」


「ええ。『ルドヴィカ』が結界を張っております」


「そうではない! 貴様ではなかったのか」


「ええ。私ではありません。私でも可能でしょうが、ヴィオラほどの見事な結界は難しいでしょう」


 自身の妹の持つ結界魔法の美しさを知るルドヴィカはそれを思い出して笑みを浮かべる。

 普段のだらけたヴィオラからは想像できないほど精緻で完璧な結界を作り出す。


「そうやって私を騙したんだな。同じようにルイズのカードにも細工をしたんだろ!」


「何を騙すことがあるのでしょうか? すべてご報告させていただいておりますのに。ヴィオラのこともスフィーア家の貴族籍や学園の学籍簿に名があります。逆にご存じないアンリ様に私は驚いております」


「それにねー。あの子のカードは間違ってたんだよー。よく見てよー。あたしの描いた部分を消すと魔法発動しないよー」


 皿一杯に料理を載せてフォークで豪快に食べているヴィオラが戻ってきた。もしゃもしゃとおいしい料理を頬張りながらアンリに反論する。

 ルドヴィカにさりげなくバカにされ激昂するところにヴィオラの言葉が重なり、アンリは先ほどまで掲げていたルイズのカードを確認する。

 ルドヴィカの癖のある…、正確にはヴィオラの癖のある描き足されたところをなくしてみると…


「あ…」


 アンリは気がついた。少し遅れてルイズも気がついたようだ。


「あたしが直してなかったら、威力が弱いどころか発動すらしてなかったんだよー」


 一口ステーキを頬張ってヴィオラが笑う。


「学園に戻るからさー。クラス分けってあるじゃん? 今の実力をーって言われてさー。実技試験一緒に受けてたのー。あたし結界魔法以外はあんま得意じゃないからさー。柄にもなく緊張しちゃっててー? ぶつかっちゃってごめんなさいだわー。でもさー、カード直してあげたからトントンだよねー?」


 得意ではない、とヴィオラは言うがそれでもすべてにおいて上位成績をたたき出している。さすがは『ルドヴィカ・スフィーア』である。


「私はドミティッラとともにオクターの大公閣下を歓待するために試験は休んでおりました。そのことは学園長以下先生方にもご報告しており、後日試験を受けております。当日に私を見たというのならば、ヴィオラのことで間違いないでしょう」


 ルドヴィカが付け足す。試験会場にルドヴィカが2人いたらうわさになっていたはずだ。今まで学園で二人がそろうことなどなかった。とろんと眠たげな表情をしているとはいえ、それ以外はそっくりなのだ。実際にはうわさなんて出ていない。試験結果も上々。間違えないほうが無理というものだ。

 ヴィオラのことを知っている人でも間違えるのだ。よく知らない令息たちならなおさらだろう。だから責めてくれるなと暗に伝えるが、果たして伝わったかどうか。


 アンリは証言をしたアドルノ伯爵令息たちをにらみつけるが、彼らは気まずそうに会場の人波にまぎれていった。

 口いっぱいにローストビーフを頬張りながらヴィオラは満足そうにしている。





 証言者に逃げられたアンリは苦々しく顔をゆがめていたが、まだあるんだと気持ちを切り替えて顔を上げた。だが完全に切り替えられておらず、眉間の皺は取れていない。


「まだあるぞ。貴様ルイズの机に炎の魔法陣を描いて火傷させようとしたな。なにやら全身黒装束の怪しげな格好で机に描いているところを学園の清掃員が目撃したと証言したぞ。一瞬目を離した隙にいなくなったが、その横顔は確かにスフィーア家のご令嬢だったと証言してくれた。『ルドヴィカ・スフィーア』は有名だからすぐに分かったと言っていたぞ」


 さすがにパーティ会場に清掃係はおらず、アンリが聞いたことを伝えるだけだがその証言が事実であると義弟を含む取り巻きたちが首を縦に振って加勢していた。


 ルドヴィカは『全身黒装束』の時点で心当たりがあった。そのような格好をしているのは…


「それは小生でござる」


 一瞬にして現れた黒い塊。もとい、黒装束の人間がアンリとルドヴィカの間に片膝を立てて座っていた。アンリは驚いて一歩下がる。


「カー。今までどこにいたの?」

「ルゥの護衛をすべく、会場内にいたでござる」

「護衛は必要ないといつも言っているでしょう?」

「任務のないときは護衛をすると決めているでござる」

「それよりもきちんと授業を受けてくれるほうが嬉しいのだけれど」

「あ、カーだー。久しぶりー」

「ヴィよ。久しぶりではござらぬ。小生は常にヴィのそばにおるゆえに」

「えー。気付かないよー。顔を合わせてないから久しぶりでいーよー」

「わたくしとは久しぶりでよろしいのかしら?」

「ドゥも久しぶりではござらぬ。こちらへ戻ってからは常に見ていたでござる」

「立派なストーカーですね」


 アンリを無視してきゃいきゃいと話すルドヴィカたち。同じ顔が4人揃った。


「ル、ルドヴィカ…?」


 勢いに押されて何も言えなくなるアンリ。ぽつりと零れた言葉をルドヴィカは優しく拾い上げる。


「アンリ様。スフィーア家4女『ルドヴィカ・カールラ・スフィーア』です」


 紹介とともにカールラは黒頭巾をはずしてアンリに頭を下げる。それは淑女の礼ではなく、配下が主に向ける礼だった。


「このように変わり者ゆえあまり他者と接触することはないのですが…。カー? なぜルイズさんの机に魔法陣など描いたの?」


「小生は描いてはおらんのでござる…」


 カールラは唇をかんで下を向く。


「カー。正直にお話しなさいな。ルゥの名誉がかかっているのよ」


 ドミティッラの言葉にカールラは慌てて顔を上げる。そこには焦りが浮かんでいた。


「ち、違うのでござるよ。姿を見られたことは恥ずべきことだが、それ以上にルゥが窮地に陥ることは小生の矜持に関わることゆえ、すべてお話しするでござるよ。小生はただ机に魔法陣が描かれているところに偶然遭遇してしまい、大事になる前に処理しようとしたところを清掃員の方に見られてしまっただけでござる。小生の姿を捉えるとはその清掃員は只者ではござらぬぞ」


 王侯貴族の令息令嬢が通う学園である。清掃員といえど礼儀と防犯技術は一級品だ。

 とはいえ、スフィーア家直属の諜報部に教えを受けているカールラの身のこなしはそれ以上である。なにせナナイ王国の諜報機関に匹敵する、あるいはそれ以上かもしれないと噂されるスフィーア公爵家だ。


「白を切るのか!?」


「本当でござるよ。小生は嘘は語らぬと誓っているのでござる。嘘をつくくらいなら黙秘を選択するでござる」


 国内の諜報活動とルドヴィカたちの護衛任務に精をだしているカールラ。学園にいることは多いが、授業を受けたり自身の教室にいることはほとんどない。ルドヴィカの傍にひっそりと控えている。主に天井裏とか。


 その日もこっそり天井裏に潜んでいたが、ついうっかり寝てしまい気がついたときにはルドヴィカは帰宅した後だった。そこで複数の令嬢が机に魔法陣を描いているところを目撃した。彼女らが帰った後でたちの悪いいたずらだと判断し、消そうとしたところを目撃されてしまったのだ。


 普段ならそんな失態は侵さないのだが、ドミティッラが帰国しヴィオラが学園復帰を果たすなど護衛として忙しい日が続いていた。それを言い訳にしないくらいの矜持はカールラにもある。だから言いたくなかったのだが、それよりもルドヴィカを守ることのほうが大事である。


 言い訳をするなと言おうとしたところでアンリのそばに年かさの男性が近寄る。男性は恭しく書状を差し出し、アンリがそれを受け取るとすぐに去っていった。王家の簡略化された封ろうからそれが正式な書状であることを知るとすぐに中身を確認する。

 読んでいくうちにアンリの顔色が悪くなっていく。ぐしゃっと手紙を握りつぶしたアンリを心配そうにルイズが見上げている。


「証言した清掃員が北の帝国・トーサの間諜であったことが判明し拘束された」


 眉間に皺を刻みつける勢いで苦々しくアンリが吐き捨てた。ざわりと周囲が色めき立つ。身近にスパイがいたことに驚きを隠せない。


「やはり只者ではなかったでござるな」


 一人カールラだけが腕を組んでうんうんとうなずいている。


「『ルドヴィカ・スフィーア』の情報をトーサに報告するところを拘束されたそうだ。ついては間諜の前に姿を現しわざと・・・怪しい動きをして囮になった『ルドヴィカ・スフィーア』に話を聞きたいそうだ。当日の本人の行動は国家公安機関が害意ないことを保証するそうだ」


「ふむ。では小生は報告に行ってまいる」


 ぽむっと煙に包まれるとカールラが消えた。本人が雲隠れの術と称する転移魔法である。普通の転移魔法で煙は出ないがそこは様式美だとこだわっている。


 一瞬の出来事にアンリも含め周囲に沈黙が下りる。


「えーっと? どういうこと?」


 空気を読まないルイズが首をかしげる。


「カールラの無実を国が保証してくれたのです」


 黙りこんでいるアンリの変わりにルドヴィカがとても親切に偏った答えを差し出す。国の機関が動いたと言うことはこの件に王太子であるアレクが関わっているのだろう。そしてカールラの話しと若干違う点があるのは庇ってくれたからだろうと推測する。


 ルイズは「へーそーなんだー」と理解できているのかいないのかよく分からない返事をしただけで、身近にスパイが紛れ込んでいたとか自分の机に魔法陣を描いた令嬢が誰かとかそういうことは気にならないようだった。すでにカールラの仕業ではないことを国が保証してくれたし、自分たちにあらぬ疑いがかけられてもきちんと調べれば分かるだろうとルドヴィカは放っておくことにした。


 残念ながらアンリに諜報機関を動かす権限はない。スフィーア家のように独自に情報収集に当たる部下もいない。王子としての責務に関することであれば王太子にお伺いを立ててから借りることは出来るだろうが、アンリ個人として出来ることは公になっている側近たちとともに学園内で地道な聞き込みをして目撃者を探すくらいだ。このあたりもさしたる成果を持たぬ第2王子といわれるゆえんであろう。






 大きく息を吐いてから、アンリは小さく、ここで引くわけにはいかないんだ、と呟く。存外響いたその言葉はルドヴィカに耳にも届いた。引くべきときを見極めることも必要なのですよ、と助言するような親切心はとうに失われていた。


「これまでのことを認めて謝罪していたらこのことを持ち出す気はなかったのだが仕方あるまい。ルドヴィカ貴様ルイズを階段から突き落としたな。何より私自身がその現場に居合わせている。申し開きもできないだろう」


 今までのことは何一つルドヴィカに、『ルドヴィカ・スフィーア』に非がないので謝罪など出来るはずもないのにおかしなことを言う。

 そして『ルドヴィカ』の存在を知らなかったアンリが、現場に居合わせた『ルドヴィカ』をルドヴィカだと断じる根拠が欲しいものである。


 意地になってるな、とルドヴィカ達は視線だけで通じあう。口いっぱいにサーモンマリネを頬張るヴィオラでさえ同意見だった。

 そしてその視線だけで、ルドヴィカ達に心当たりがないことが知れた。カールラである可能性もあるが、いつも黒装束を纏うカールラを、階段から突き落とした『ルドヴィカ』であると指摘する可能性は低い。


 そうするとルドヴィカの出す答えは限られる。


「それは…」

「ぎゃっ!」

「うわっ!!」


 測ったようにアンリの真上に少女が降ってきた。べしゃっとつぶれるアンリ。突然の出来事に騎士以下側近達も呆気に取られている。

 臀部をさすりながら少女は立ち上がる。下敷きになったアンリを踏みつけながら。


「いったーい」


 文句を言いたいアンリはまだ潰れたままだ。ようやく騎士が己の責務を思い出し、アンリに駆け寄る。


「スー。貴女はそれほど転移魔法が得意ではないのだからむやみに使用しないようにと常々話しているでしょう」

「だって今日は大丈夫だと思ったんだもん」


 上目遣いであざとく頬を膨らます少女の顔は、やはりというかルドヴィカにそっくりだった。化粧の加減かまぶたも頬も唇もルドヴィカよりもきらきらしていることが違いと言えば違いだろうか。髪を高い位置のサイドテールでくくり、毛先は幾本に分かれてクルクルとカールしている。ルドヴィカたちの着ているドレスと意匠は似ているが、圧倒的に丈が短くフリルが多い。


「そう言って先日も何もない中空や壁の間に転移してしまって大変なことになっていたでしょう。いい加減使用を禁止しなければならなくなりますよ」


「そんなこといっちゃいやーん。ルゥのいけずぅ」


「そうやって人様に迷惑をかけたのではないですか? 例えば階段の上に転移してしまい今のように人の上に落ちたりしたのではないですか?」


「げ!? なんで知ってるの?」


「ここに被害者が」


 ルドヴィカがルイズを示すとスーと呼ばれた少女は傍までうさぎのようにぴょこんと跳ねて近づいた。


「わお! あのときのお嬢さん。ごめんね。大丈夫だった? 一緒に落ちる前に転移したから怪我はないはずだけどびっくりしたもんね」


 手を取りぶんぶん振り回している。ルイズは両手を上下に激しく揺さぶられながら「誰ですか?」と言うのがやっとだった。


「自己紹介がまだだったね。わたしは『ルドヴィカ・スザンナ・スフィーア』。スーって呼んでね」


 ニコニコ笑って自己紹介をするスザンナ。


「また『ルドヴィカ』か…」


アンリはようやく立ち上がり、腰に手を当ててトントンしている。


「スー、スザンナは攻撃に特化した魔法の使い手です。そのため国内外の戦、反乱、賊の鎮圧に協力することがあるのですが、転移魔法が苦手であることと本人に放浪癖があるものですからあまり学園には通っていません。ですからご存知ないかもしれませんね」


「そんなことないよ? わたしアンリ君と時々会うよ。直近だとそうだな。3ヶ月くらい前の王都の街道にでる盗賊の討伐についてった時に会ったかな。アレク君に護衛頼まれたもん」


 アンリはもとよりアンリの兄であり王太子であるアレクを君呼ばわりするスザンナ。ちなみに言いづらいので本人を呼ぶときは「アレッ君」になっているが、アレクは気にしていない。


「確かに3ヶ月ほど前に盗賊討伐の任務に当たったが…」


 任務、と言っているが後方から様子をうかがい、前線部隊が討伐して戻ってきただけのお飾り大将である。万が一前線部隊がやられた場合、アンリの命を守るための保険としてスザンナについていくようアレクが依頼したのだ。

 そんな裏事情を知らないアンリは一緒に行ったのはルドヴィカのはずなのだが、と顔をしかめる。


 いまだルイズの手を握ったままのスザンナに離して欲しいとルイズが言うとスザンナは貴女の名前を聞いていないもの、と言う。


「わ、私はルイズ・ローと申します。スザンナ様」


「スーでいいよ。お友達だもん。ルイズちゃんかー。かわいい名前だね。ルゥと似てるね」


 ニコニコ笑って手を離した。


「それに転移魔法だってちゃんとできるもん。ルイズちゃんとぶつかったときもちゃんと下に転移できたもん」


「距離が短かったことと運がよかったのでしょう。そもそもぶつかったことが転移魔法の失敗だったのではなかったのですか」


「ぐぅ」


 スザンナは反論してみるがすぐにルドヴィカにやり込められる。攻撃魔法が得意なことからわかるようにスザンナは魔力量も高く一気に放出する魔法は得意だが繊細な作業を求められることは苦手である。総じて深く考えることが苦手である。

 転移魔法も座標特定が雑すぎたり、魔力が足らなかったり多すぎたりして妙なところに出現してしまう。それでも生来の能力の高さで瞬時に別の魔法を使用し大事に至らないところはさすが『ルドヴィカ・スフィーア』と言ったところだろうか。


「ルイズを突き落としたのはスザンナ嬢なのか?」


「突き落としてないもん。ちょっと失敗してぶつかっちゃっただけだもん。ていうかアンリ君あの場に居たじゃん。アンリ君の目の前に転移したの見てたでしょ? 突き落としてたら一緒に転移なんかしないよ」


一緒に転移するには対象に触れていなければならない。突き落としたのならその時点で手は離れているので転移できない。だから突き落としていない。

 腰に手を当ててぷりぷりと怒るスザンナの言葉に一同「確かに」と納得してしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ