御札の謎と、天気の闘士。あとは妖精みたいな絶対的強さを持つ苦痛の生物。
◆◆◆
プリーア。
変身者の射山弥央は実にビューティー! そのスレンダーな体躯からは想像もつかない強さ! 魔物と戦う勇姿に見惚れた女性は数多! 不思議な霊力が宿った御札には、一体どんな秘密が隠されているのか? あらゆる敵を弓矢で射抜く様は、まさに一騎当千! そして、彼女が連れているあのタヌキのような精霊は何者だ! …んーとにかく、すごいグロリアス・リリーなんです。それと、御札ってしっかり持っておかないと、風で飛んじゃうのよね…。
ここで、変身シークエンスを見てみよう!
まずは「祈りの弦弧(=いのりのげんこ)」を呼び出して、中心部に「変化之御札(=へんげのおふだ)」を取り付ける!
”変化之御札(=へんげのおふだ)! 蒼海澄空望願邪気払給(=そうかいちょうくうぼうがんじゃきしょくきゅう)!”
お経を読んでいるような変身待機音声が流れたら、弦を引いて、叫ぶ!
『…討伐千手(=とうばつせんじゅ)!』
弦を弾いて光の矢を放つと、光の粒子となった矢が全身を包み込み、変身完了だ!
最後に、これまでに記録した彼女達の会話を聞いてみよう!
『こ、これも阿夜科士(=アヤカシ)?』
『そうだっポン! 早く伝説の戦士『プリーア』に変身するんだポン!』
…ん? なんだか少ない気が…。つ、次にいこうか!
続いてのグロリアス・リリーは、SFアクションと変身ヒロインのコラボレーション! キング・オブ・ガンナー、『エニグマ』!
◆◆◆
人工知能「エニグマシステム」に全神経を接続させた少女、柏崎結維が変身するグロリアス・リリーだ!
彼女の大きな特徴はなんといっても、変身前でも十分に強いことだ!
特殊なエネルギー供給ツール、「フューエルマガジン」を通じて、様々な武具をフレキシブルに取り回す! さらにそのパターンは片手拳銃、二丁拳銃、逆手短剣、電気ショックブラスター、大型シールド、ヘビーランチャー、マシンピストル、銃剣などなど、実に多彩。なんともダイナミックなグロリアス・リリーだ! 特に、「ダガーフューエルマガジン」を使用すると、諸刃状の弾丸を撃てたり、高圧縮エネルギーブレードを展開することができるのだ! まさに、切ってもダガー、撃ってもダガー!
ちなみに、彼女がエニグマシステムと繋がっている状態では、自らを「柏崎・エニグマ・結維」と名乗っているぞ! …なんだかミドルネームみたいだね。
ここで変身シークエンスを見てみよう!
まずはヘッドセット型アイテム、「エニグコマンダー」のダイヤルを回して、変身待機状態にする。そして、スロット部に「スパークフューエルマガジン」を装填!
“スパークフューエル!”
『チェンジ・モードアサルト!』
“コンストラクト!”
変身コードを叫びながら勢いよくそれを引き抜き、正面へ放り投げる! するとスパークフューエルマガジンが薄緑色の火花を散らして空中分解! さらに、背中に背負っていた折り畳み自転車もパーツごとに別れて、バラバラになったスパークフューエルマガジンと一緒に装着されれば、変身完了だ!
最後に、これまでに記録した彼女の音声を聞いてみよう!
『僕達のバージンロードは、僕達で決める!』
『か、柏餅だって!?』
『ゾクゾクするねぇ』
『僕は世界一の人工知能だからね。その気になれば、人類を一週間以内に絶滅させる自信があるよ』
『あ、やば、バッテリー切れだ…。あとはよろしく…』
『忘れているかもしれないけれど、僕は君を神経レベルで操ることができるんだよ? つまり、僕が君を乗っ取れば、君のあーんな姿やこーんな醜態を晒すことだって容易なんだよ。何が言いたいか、わかるよね?』
『やだね。やだねったらやだね』
自由奔放な言動に、監察部も少々手間取っていたらしいね。彼女の今後に注目だ!
続いてのグロリアス・リリーは…いやグロリアス・リリーじゃないね。
改めて次の人物は、晴れ晴れとした熱き戦士、『ウェーザ』!
◆◆◆
変身するから女性だと思っていたが…違うね。どうやら「晴れ」の力を使って戦うようだ。
変身シークエンスは…いらないね。カットで。…え、見たい? じゃあ短く説明しよう。「オテンキモニュメント」を「テンコウチェンジャー」にセットして変身。
『テンコウチェンジ!』
以上。
以下、過去に記録した音声。
『みなさん、おはようございます。本日の東京の天気は晴れ。午後からは少し雲がかかってくるでしょう』
終わり。
男性の調査はこれ以上必要ないと思うが…まあ、好きにしてくれたまえ。あ。あと、彼のようにテンコウチェンジャーで変身する人物が他に二人いるらしいよ。どうせ男だろうけどね。
記念すべき今回最後に紹介するグロリアス・リリーは、どんな業火にも勇敢に立ち向かうレスキュー幼女、『ファイト』!
◆◆◆
消火器召喚!
おっと、どうやら重いらしい。だが高圧水流を飛ばーす! そして、鎮めーる!
ファイトに変身する水無萌依留は、なんと小学三年生! 消防士の父親の影響を受けて、同じく消防士を目指すプリティーで勇猛果敢な少女だ! 変身後は消火器型の武器を携えて、燃え盛る炎と戦うぞ! 鉄も貫くほどの水圧。あの攻撃をまともに受けたら…オゥ…私は怖くない、怖くないぞ!
次に変身シークエンスを見てみよう!
まずは消防車のミニカー型のアイテム「サイレンシグナラー」を開いて携帯電話モードに変形。変身コード119を入力して、叫びながら掲げる!
『ファイト、エイヤー!』
これで、変身完了だ!
さらに、これまでに記録した彼女の言葉を聞いてみよう!
『また…また人が死んじゃう…そんなの、そんなのやだ!』
『パパが止めたって、もえは行くもん!』
人を助けようとするその気持ち、私も見習いたいものだねぇ…。
◆◆◆
「ここまで九組の紹介をしてきたが、これもほんの一握りだ。諸君、これからも『混沌に集いし百の塵が合わさる会』の活動に尽力したまえ。君達の力が、我々の未来を作るのだ!」
一通りの台詞を言い終えて、私はガイア君の方へ振り向いた。彼女は無表情ながらも、拍手を送ってくれた。
「…これで終わりか?」
「イエース。どうだったね、ぜひ感想を聞かせてくれないか」
「…あいつらの説明はいいのか」
「あいつら…ああ、君以外の部長についてかい? 君もそうだが、彼女達は基本的に姿を隠して活動しているからね。このような場に出すべきではないと思ってね」
「…まあ良い。これでやってみてくれ。日程は俺の方で決めておく」
「ありがとう。さて、ここを片付けて、そろそろアジトに戻ろうか…」
我々が帰り支度をしようとしていた時、上段の方から幼そうな少女の声が響いてきた。
「おっと、このナイスガールは誰だ!」
「!」
「…」
「水鉄砲に…給水ボトル?」
「君は…!」
「…お前か。密為碧葉」
「やっほー! サンクスマンさんもミナトちゃんも、なーんか面白そうなことやってるねー! 私と那緒ちゃんも混ぜてよっ!」
「マスターアオバは、遊びたいのでござる」
「違うよ那緒ちゃん。それだけじゃなくて、もうすぐここに来る人を待ってるんだよっ!」
「人を?」
「サンクスマンさんも興味あるの? じゃあその人のこと、教えてあげよっかなー。その人はすっごく強い女の人でね、確か名前が…あ、来たっぽい」
彼女の視線を追う。突如、劇場の出入口が開かれた。
「や、やめてやめてぇー!」
そこから飛び出したのは、高校生とおぼしき少女。何かから逃げているらしく、非常に慌てた様子だ。
「す、すみません。かくまってくださいっ!」
そのうち、私の背後に身を隠した。ガイア君が、密為碧葉に尋ねた。そういえば、先ほど密為碧葉がガイア君のことを「ミナトちゃん」と言っていたが、あれは一体…?
「彼女が、そうなのか。密為碧葉」
「残念。ほら、あの人だよっ!」
急いで先ほどの出入口に視線を戻す。すると今度は、人ならざる者の姿があった。
いや、あれは変身した姿か!
「先輩、あまり手間をかけさせないでください。おや、あなた方は…先輩の仲間ですか。先輩からどけていただけると助かります」
「いや、我々は…」
「ストップだサンクスマン。今はあまり関わらない方がいい。調査の時に支障をきたす可能性がある。ここは退くぞ」
超人から発せられた女性の声は冷静…いや、冷淡と表現した方が正しいかもしれない。その問いに私が答えようとすると、ガイア君がそれを制して、退却を提案した。
「この少女はどうするつもりなのかね?」
「捨て置け。素性は調べれば分かる」
「わかった」
ガイア君と方針を決め、退却しようとしたその時、光弾がこちらへ飛んできた。
「しまった!」
「くそっ。天宙変身!」
“Got_it!___Orber_GAIA!(ガティット!オーバー・ガイア!)”
「ガ、ガイア君!」
「くっ」
私を庇おうとして、変身したガイア君は爆風によって大きく吹き飛ばされた。
「何を話し合っているのです? 早く先輩を渡してください。でないとうっかり殺してしまいます」
「や、やだぁ…」
「先輩、ワガママ言ってもダメですよ」
「那緒ちゃん、よろしくっ!」
「ニンッ!」
相手が油断した隙を狙ったのか、「那緒ちゃん」と呼ばれた忍者風の怪人が小太刀を構えて超人へと襲いかかった。超人は気づくのが遅れ、左腕に攻撃が命中したようだ。「那緒ちゃん」はすぐさま翻り、密為碧葉の横に戻った。
「ありがとう那緒ちゃん! これで表皮サンプルが取れたよ! …それじゃあ、そろそろ帰ろうか。もう目的は済んだし、これ以上あの人に襲われたら本当に危ないもん。じゃあねミナトちゃん。また今度遊ぼ?」
「アオバ忍法、煙幕雲隠れの術!」
瞬間、密為碧葉と「那緒ちゃん」を煙が包み込み、二人は忽然と姿を消した。
「おや、二人逃しましたか…。まあいいでしょう。あなた方二人だけでも見せしめとして痛めつければ、先輩ももう逃げようなんて思…わ…」
途端に超人の動きが鈍り、超人は今も座席の陰に身を潜めている少女と同じセーラー服を纏った人間の姿となった。おそらく、変身が解除されたのだろう。さらに、超人だった人物の傍らには、これまた同一のセーラー服を着た少女が倒れていた。
「…少々乱暴に変身したせいで気絶してしまいましたか…まあいいでしょう。まだ手はありますから」
突然、天井が軋み、空いた穴から何かが飛び出してきた。それは…年端もいかない幼女であった。彼女のその頬は、赤く染まっている。
「ご主人様、今日のお散歩コースはここですか?」
「ええ。まずは、先輩を連れ戻す遊びをしましょう」
「はい!」
「あなたは従順なので、少しだけ好感がもてます。では…変身」
「んっ…くあぁぁぁんっ!」
“リッパーエルフ!”
まるで、飼い犬と飼い主のような会話を繰り広げていた二人の少女達。やがて冷淡なトーンで話す少女は、幼女の額に鳥の羽根のような物を突き刺した。すると幼女が嬌声をあげながら十字架に張り付けにされたような態勢で浮き上がり、少女の肉体に溶け込んだ。どこからともかく変身音声らしき音が響き、少女は右手にカットラス、左腕にバズソーを装備した超人へと変身した。
「き、君は一体…」
「そうですねぇ…『エルフ』とでも名乗っておきましょうか。さあ、お命頂戴します」
「百合素質を持っている可能性のある人間に危害を加えるわけにはいかない…が、どうやら戦うしかないようだ…」
「百合?」
「超杖変身!」
私は、右手に持っていた杖を思いきり床に打ち付けた。瓦礫の形をしたエネルギー体がフワリと浮かび、私の装甲として収束した。
「やれやれ、面倒くさい方々ですね」
「気をつけろ、サンクスマン!」
「オーケー、短期決着を目指そう!」
「そうですね。早く終わらせましょう」
「…どういう意味だね?」
「こういう意味です」
“フィニッシャーエフェクトフェザーリア!”
少女がそう言って羽根型のアイテムを正面で構えると、それはX字翼の形に変形し、少女の背中にそれと同じ形状のエネルギー体となって展開した。女性の悲鳴のような効果音が鳴り響く。
「文字通り、短期決着で」
“カミゴロシノ、ヤイバ!”
「なんだと!?」
「まずは、一人目撃破です」
少女が白い光と化して、私に襲いかかった。
瞬間、私のあらゆる痛覚が一斉蜂起した。世界が暗闇に包まれてゆく。
「ぐあぁぁぁっ!」
私が最後に聞いたのは、自分自身の断末魔であった。
◆
「次は、あなたですね」
「…どうやら、そのようだな」
変身した二人の少女が、劇場の座席を挟んで向かい合う。
「一対一ですが…私には、その状況を有利に変える切り札を手に入れました。いえ、取り戻しました」
そう言って座席の陰から持ち上げたのは、今までずっと隠れていた少女だった。
「まさか、サンクスマンに止めを刺した時にその娘を回収していたとはな。吹き飛ばされていて気がつかなかった」
「そうですか。なら、もう一度吹き飛ばして復習させてあげましょう。先輩、変身しますよ」
「やだやだぁ! もう気持ちいいのと気持ち悪いのが一緒に来るのはやだよぉっ!」
「ワガママな先輩ですね…変身」
「あっ…」
“オカルトエルフ!”
少女は、「リッパーエルフ」に変身した時と同じような行程で、今度は紫色を基調とした戦士「オカルトエルフ」となった。少女の肉体から吐き出された幼女が、不満そうに跪く。
「今日のお散歩はもう終わりですか、ご主人様ぁ…?」
「ええ。あなたみたいな変態さんよりも、糞ノンケ馬鹿の先輩と変身した方が強いので」
「そんなぁ…。悲しいです…」
「それが、お前の本気の姿か?」
「ええそうですね。今のところは、ですが」
“アポーツエフェクトフェザーリア!”
超人へと変身した少女、エルフは何もないはずの空間に右腕を突っ込み、そこから長槍のような武器を「取り出した」。
「そうか。なら、これ以上強くなる前に倒してしまえば、問題ないな」
「果たして、できるでしょうか」
「やってみなければわからないぞ」
先に硬直状態を打ち砕いたのはガイアであった。変身することで大幅に強化された跳躍力を生かして座席を飛び越え、エルフへとその右拳を伸ばした。だかしかし、それはエルフの長槍によってギリギリのところでかわされ、カウンターの刺突攻撃をその身に受けた。
「…ちっ」
「舌打ちとは、可愛くない人ですね。それでは、今度はこちらから」
“フィニッシャーエフェクトフェザーリア!”
「あなたも、私の踏み台になってもらいましょう…」
“オウマガ、ヨミ!”
極太の光線と化したエルフの必殺タックルが直撃したガイアは大きく吹き飛ばされ、転げ落ちた先で変身が解除される。
「くっ、かはっ…!」
「大見栄切っていたので、どれほど強いのかと思っていたのですが…案外大したことありませんね」
勝利を確信し、エルフは倒れた少女の元へと歩を進める。ふと、少女が落ちたであろう客席の向こうに近づくにつれて、エルフには話し声のようなものが聞こえてきた。
「…お前も随分と物好きな奴だな。本当は…」
「…? 一体、誰と話をしているのですか…?」
先ほど自身で打ちのめした中年男性は未だに遠くの壁際でのびている。もうこの場所には、大ダメージを負わせた少女と自分しかいないはず。エルフは一抹の不安を覚えた。自身でも気づかないほど、ほんのわずかに。
次第に少女は立ち上がり、音も鮮明に聞き取れるようになった。
「本当は、美海が作ったものでこの場を凌ぎたかったんだが…仕方がない」
「何をブツブツ言っているのですか」
「…エルフ。神に歯向かったこと…後悔するなよ」
少女の手には、今まで見たこともないアイテムが握られていた。少女は、それを右腕に装着したデバイスに装填した。デバイスから認証確認音声が鳴り響く。
“Creatseedling,gonna_act?(クリートシードリング、ゴナクト?)”
「天宙変身」
“Got_it!___Cosmos-land!(ガティット!コスモス・ランド!)”
デバイス側面のレバーを動かし、変身シークエンスを発動させると、少女の体は幾本ものツルに包み込まれ、それが爆散する。
少女は、コスモスの花をモチーフとした新たな戦士へと変貌を遂げた。
“Deadly_impact!(デッドリーインパクト!)”
“Got_it!___Grow_up,Cosmos!_over_bang!(ガティット!グローアップ、コスモス!オーバー・バン!)”
「…天誅だ」
「…やれやれ。『触らぬ神に祟りなし』というやつですか。仕方がありません。もう先輩も取り戻しましたし、ここは逃げるとしましょうか」
“トランスポーテーションエフェクトフェザーリア!”
エルフは自身の危機を察したのか、デバイスを操作して必殺技を発動させようとしている少女を前に、渦のようなものを背後に発生させ、素早く後ずさりした。エルフをはじめとする三人の少女が渦に吸収されたのを視認すると、残された少女は変身を解除した。
「サンクスマンを起こして帰るか…。今日は、少し疲れた」
◆
ワンボックスカーの車内。
ガイアと呼ばれていた少女が、目の前の運転席でハンドルを握っている中年男性…サンクスマンへと問いかけた。
「そういえば、この間のサエキアカネの映像、手ブレが全く無かったが、三脚でも立てていたのか?」
「ああ。通信しようと思って、その場を離れたかったからね。ほら、君に『密為碧葉が現れた』と報告していたときだよ」
「…お前はあの映像、見直したか?」
「いや、観ていないが…それがどうかしたのかね?」
「…なんでもない。今のは忘れてくれ」
「そうか…」
そう呟く少女の中で、件の映像が反芻される。その中でも、路上で起き上がって戦っていた少女の姿が、より鮮明に。
「やはり、似ているな…。当然だが」
少女は、自身でさえ走行音で掻き消されて聞こえないほど小さく、声を発した。
「…いい仲間じゃないか」