没 異世界問題、解決します!導入編
久々の休みの日、家でゴロゴロしていた僕の元にダンダリオンから電話がかかってくる。なにやらゲームの世界に入れる装置を開発したらしい。僕にテスターになって欲しいとのことで、ゲームが好きな僕は早速テストに参加するのだが……ゲームに入ったは良いがゲームの外に出られない‼どうやら、ゲームの外に出るにはクリアするしかないらしい。明日は仕事、制限時間はリアルタイムで18時間!アンドマリウスも加わって、果たして仕事が始まるまでにゲームがクリア出来るのか⁉
オンボロアパートの一角、和室四畳半の我が家。
西日が強く、きつね色に日焼けした畳の上で、陽気に当たりながら僕は久々の休日を堪能していた。
買ったまま放置していた漫画を傍に、寝っころがりながら読む。
読書の友にパーティーサイズのポテチうすしお味を手元に置いて……。
何と素晴らしい至福の時……!
僕はその時を噛み締めていた。
あと数十ページで読み終わるという時に、テーブルにおいていた携帯が鳴った。
悪◯くんのオープニングテーマということは、知り合いの悪魔の誰かからの電話だろう。
僕は着メロを電話の相手によって変えている。
ちなみに会社からの電話は地獄の黙示録だ。
会社からでなければ放置してても問題ないだろう。
僕は電話を鳴らしたままにして、漫画を読む作業に戻る。
エロイム◯ッサイム♪エロイム◯ッサイム♪
携帯は鳴り止むことなく、耳に残るあのフレーズを繰り返す。
三回くらいリフレインされた所で、いい加減漫画に集中できなくなり、僕は飛び起きて携帯を取った。
感動のラストだったのに、あの陽気なメロディーが流れてちゃ感慨もクソもない!
「はい、間です!どなたでしょうか!」
僕は感動のフィナーレを邪魔された腹いせに、ちょっと切れ気味に言った。
「ハザマ、出るのが遅いぞ。ダンダリオンじゃ。読書を邪魔されたからって八つ当たりはいかんな」
「心を読むなよ!」
「フォッフォッフォッ、早く出んのが悪いんじゃ」
悪魔ダンダリオン、序列71位ー地獄の科学者であり人の心を見通す力を持つ、他称マッドサイエンティストである。
「僕に何のようですか?」
「新しい発明が完成したのでな、お主今日は非番じゃろ?早速試させてやろうと思ってな」
「絶対に嫌だ」
僕はきっぱり断わった。
他称マッドサイエンティストの名の通り、この耄碌爺は奇怪な発明ばかりを作る。
ハツカネズミの死体を一瞬でキドニーパイにする装置だとか、生きたゴミ箱とか。
遠くのものが取れるようにと、手足を自在に伸ばせる薬を開発した事もあった。
さすがにこの薬は諸事情で社長が破棄したが……
失敗はしないが碌な物を作らない。
ここは自分のためにも毅然とした態度で拒否しておく。
「残念じゃな。ゲームの中に入れる装置を作ったんじゃが、嫌なら仕方ない……では」
「待って‼」
僕は話を終わらせようとするダンダリオンの言葉を切る。
今なんと言った?
「じゃから、ゲームに入れる装置を作ったんじゃ」
「だから、心を読むな耄碌爺が!」
「済まぬな、しかし若者のお主は興味があるじゃろう?」
この爺には言われたくなかったが、ゲームの中に入るのは興味がある。
「儂の家に来い。扉は開けてある」
僕は電話を切った。
急いで財布と鍵をポケットにいれて、家を出る。
塗装が剥げ落ち、サビの塊になった階段を駆け下り、急いで自分のバイクに飛び乗る。
向かうはダンダリオンの屋敷、待ってろ冒険の世界!
市街地からすっかり離れた山奥、間引く者も居らず鬱蒼と茂った木々の間を通る山道は昼間なのにも関わらず、夜のように暗い。
この道を通るのは山頂の館に用事のある者ーつまりは僕だけである。
意気揚々と来たのは良いものの……
多湿な空気がねっとり纏わり付く中、ずっとバイクを走ってるとそんな気持ちも萎んで行く。
せめてやる気が残ってるうちに、と思っていると薄っすらオレンジの明かりが見えてきた。
ようやくついた、安堵にホッと息を漏らしつつバイクで走り続けた。
走らせ続けると西洋式のレンガ建ての大きな屋敷が見えてきた。
オレンジの明かりは窓から漏れるランプの光だ。
ダンダリオンが言っていた通り門は開け放たれている。
門を通り抜け玄関前にバイクを止めると、既にダンダリオンが待っていた。
「待ちくたびれたぞ、さあ儂について来い」
そういうとさっさと館に入ってしまう。
僕は急いでバイクから降り、ダンダリオンの後に続いた。
屋敷の中は整然とした外観と反して、曲線に富む歪な空間が広がっている。
洞窟を人口的に作った感じと言ったら伝わるだろうか。
家具も空間に合わせ湾曲してるため、幻覚を見ている錯覚に陥る。
僕はすっかり慣れたけど。
ダンダリオンが扉の前で止まる。
鉄製の無骨な扉だ。
「装置はこの中じゃ」
ダンダリオンが扉を開くと部屋の中にみっしりと機械が詰まっていた。
機械の中央には手術台が設置されている。
「これが儂の発明した次世代体験型ゲーム機、その名も“ナイトメア01”じゃ!どうじゃ素晴らしいじゃろう?」
ダンダリオンは胸を張って息巻くが、どう見たってモルモットの実験装置にしか見えない。
何かされる前に逃げよう。
「そうはさせんぞ」
ダンダリオンが指を鳴らす。
どこからともなく現れたアームが僕を捉える!
「何だこれ⁉離せよ!」
僕はもがいてアームから抜けようとするが、ビクともしない。
「じっとしておれ、若造。無駄じゃ」
アームは僕の体を持ち上げて、手術台に押さえつけた‼
「グッ……!この糞爺!」
「若造よ、お主を科学の礎にしてやるのじゃ精々喜べ」
「嫌だ!」
「年寄りを労わるのが人の礼儀じゃぞ、ハザマ」
ダンダリオンが僕の頭にごちゃごちゃとした機械のついたヘルメットを取り付ける。
くそう、死んだら祟るからなこの悪魔!
「死にはせんわ。そら、いって来い!」
ダンダリオンが機械に付いたレバーを下ろす。
体中に電流が走る!
目の前の機械が!ダンダリオンの顔が!直線に引き伸ばされてゆく……!
音は増幅を重ねる。
増幅、増幅、増幅
身体は引き伸ばされ、凝縮され……
全ての感覚が頂点に達した時、それ等は二点の光になった。
感覚がゆっくりと正常に戻って行く。
辺りの風景が段々と明瞭になる。
僕の見た光は目だった。
鮮やかなターコイズブルーの瞳
凛とした目、凛々しい眉……見たことのある顔。
「起きたか、ハザマ」
そこにいたのはアンドマリウスだった。