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悪魔の問題、解決します!  作者: ぶたたけ
○○問題、解決します
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出会いの問題、解決します! その1

僕、間一人はどうしようも無い人間だった。

就職失敗、アルバイトもクビ。

生きていく自信も無い。

そんな僕が出会ったのは黒髪碧眼の耽美な男だった。

主人公 間一人がソロモン派遣協会と出会う過去編の前編です。

死にたい。


僕は重いカバンを抱えながらずるずると当てもなく街を歩く。

まただ、また失敗した。


一年前、僕は就活に失敗しまくり、新卒のカードを失った。

底辺Fラン大学出身で、アルバイトの経験も無く、資格も英検4級とパソコン検定くらい。

就活も4年生の8月から始めた。

働くなら辛いのは嫌だと思って、中小企業の事務なんかを目指した。

もちろん就職出来る筈はない。

僕は一年を無碍にした。


親からの圧力は凄かった。

父には穀潰しと罵られた。

母には屑を産んだ私が悪かったと謝られた。

とにかく親の目が怖かった。


僕は正社員としての就職を諦め、アルバイトを始めることにした。

どんな形でも、働いていれば親に罵られる事はない。

それに、僕も普通に街を歩きたかった。

罪悪感にかられることなく、人間として堂々と生きたかった。


でもそれも僕には望みすぎた夢だった。

僕は屑だった。

まともに働くことが出来なかった。

メモを取れなかった。

覚えようとして書き込むも整理が出来ない。

覚えようとして整理しても、メモの保存が悪すぎて紛失するのは日常で。

メモは仕事のあとで取ってと指示されても、メモすべき内容を覚え続ける事が出来ず、結局分からないままになる。

仕事配分も上手く出来ず、手当り次第に手を付けては2、3コ仕事を忘れる事もザラだった。


とにかく、常人と比べて僕は程度が低すぎた。


今日もバイトを首になった。

間違いなく、僕に生きる資格はない。

僕の頭の中はどうやって死ぬかでいっぱいだった。

甘ったれてると思うけど、せめて楽に死にたい。


頭の中で死に方がぐるぐる回る。

飛び降り、首吊り、リストカット、練炭自殺。

首吊りって死ぬ時楽って言うけど、本当だろうか?


頭の中で暗い考えが巡る中足だけが、目的地も無く前に進ませる。


何処まで歩いたかは知らない。

周りは雑居ビルが光を掻き消す様に乱立しており、路地はビニール袋から漏れ出たゴミが散乱している。

生ごみの腐臭がキツい。


どうやら、歩いている内に裏路地に入ってしまったらしい。

今の僕には相応しい場所だ。

なんとなく居心地が良くて、僕はそのまま足を進めた。


路地を突き進めると、そこは行き止まりだった。

行き止まりの壁には汚い路地に相応しくない、木目調のお洒落な玄関扉が付いている。


奇妙だ。


そう思いながら、僕はその扉に惹かれていた。

普段なら、興味はあっても引き返しているだろう。

不思議な物の正体は大抵つまらない。

どうせ正体はビルの勝手口だ。

そう思っていても、扉の先に何かあるそんな気がしてならない。


どうするか、開けるか?


僕の手がドアノブを持つ。

僕は意識していない。

しかし体は僕をこの先へ連れて行こうとしている様に動く。


開けなくてはならないのか?

開けるべきなのか?


ドアノブを持ったまま僕は静止する。


思考を巡らせていると、ドアノブから押し出す力を感じた。

ドアが開かれるのと同時に、僕の体も押し出される。

急な事にバランスが取れない。

僕は足を絡ませてしまい、後ろに倒れて尻餅を付いた。

痛い。

「大丈夫か?」


男の声が扉の方からする。

ジンジン痛む尻をさすりながらそちらを見ると、端正な顔立ちの長髪の男が立っていた。


青い瞳に黒い髪、外国人だ。

取り敢えず僕は、尻餅を心配してくれている彼に返事を返す。


「大丈夫です、まだ痛いですけど」


男は僕の顔を見た瞬間、驚愕の面持ちを浮かべた。

何故だろう?


「名は何と言う?」

「間 一人と言いますが……」

「ハザマ!」


男は見開いた目を更に見開いた。

そして突然僕の腕を掴み、強引に引き上げた。


「わっと⁉」


思わず声が漏れる。

僕の体が一気に引き上げられる。

僕はその力で立ち上がった。


「えっと、ありがとうございます」

「来い」


男はそう言うと僕の腕を引っ張って、扉の中に連れて行こうとする。


「何するんですか⁉放して下さい‼」


僕は腰を下ろして踏ん張った。

ヤバい!

ヤクザだ‼

扉の中に入ったら、殺される!


先程まで死にたいと思っていたにも関わらず、僕は生きる為必死に抵抗した。

しかし男が片腕で、僕の腕を持つ手をヒョイと引っ張ると、物凄い勢いで体が起き上がり、扉の中へ吹き飛ばされた。


壁に真正面から当たる。

鼻が壁で潰れる。

衝撃に火花が飛ぶ。

鼻から出た生暖かいものが顔面を汚す。

鼻血だ。

鼻折れたかもしれない。


僕、殺される。


「立て」


冷徹な男の声、男の手がまた僕の腕を掴む。

そして引っ張りあげられる。

壁に当たった衝撃で立ち上がる気力のない僕の、片腕だけに全体重がかかる。

肩に鋭い痛みが走る。


「イ"っ⁉」


僕は思わず顔をしかめた。

男が手を離す。

僕は再び床に崩れ落ちた。


「大丈夫か⁉すまない!」


男が慌てた声を出して僕の肩を掴む。

突如として男は心配する様な言葉を掛ける。

不審な振る舞いに、僕は勇気を出して男の顔を見る。

男は凛々しい眉をハの字にさせて慌てふためいていた。


「手当しなければ……!」


男は慌てふためいて何処かに消えて行った。


男が居なくなって、辺りを見る余裕が出来た。

鼻をぶつけた壁の正体はカウンターテーブルであったようだ。

テーブルの上には小物が置かれているのが見える。

僕の体は痛みでボロボロだ。

鼻は未だズキズキ痛む。

歩けはするが、遠くに逃げる力はない。

ならば。

テーブルの上に場所が解るアイテムがあれば、警察には連絡できる。

僕は両手でテーブルのへりを持ち、体を引き上げる。


テーブルの上には蘭の鉢植えと、ロゴマークの印刷された受付と書かれた札が置いてあった。

ロゴマークの下には“ソロモン派遣協会”の文字が刻まれている。


ソロモン派遣協会の名は聞いたことがある。

ネットで有名な都市伝説だ。

神出鬼没の派遣会社で派遣する人材はすべてエリート。

噂によれば悪魔を派遣する会社らしいが、まさか。

まさか本当にあったのか⁉

夢かもしれない、そう一瞬思った。

だが、漫然と蝕む痛みは少なくともここが現実であることを教えている。


……いや、待てよ。

ここがあの“ソロモン派遣協会”であると示すのは、今のところこのロゴマークの文字だけだ。

本当のところ、やっぱりヤクザの事務所で僕はボコボコにされてバラバラにされて、裏ルートで売られたりされたりするのではないだろうか?

背筋が急に冷たくなる。

身に起こるかもしれない恐怖に青筋を立てていると、カウンターの奥から足音が聞こえた。

音は段々と近くなる。


カウンター奥の通路から先程の男と金髪で柔和な顔付きの美人が現れた。

彼女は誰だ?

二人はカウンターテーブルの横を抜けて、並んで僕の前に立つと深々と頭を下げる。


「此度は我が社の従業員が多大なるご迷惑をお掛けしました。申し訳ございません」


テーブルのふちを掴んで踏ん張りながら立ってるところで頭を下げられる。

その姿を想像するとなかなか滑稽な状況だ。

そんなことを思う中、男と美人の二人は一向に頭を上げようとしない。

そうか僕がいいよって言ってあげないと、顔を上げられないんだ。


「顔を上げて下さい」


僕が告げて、ようやく二人は顔を上げた。

二人とも苦い顔をしている。


「鼻血が出ていらっしゃいますね。お拭きします」


美人はポケットから白い綿のハンカチを取り出して、僕の鼻にあてがう。

白色のハンカチがどんどん赤く汚れていく。


「すみません。綺麗なハンカチを汚しちゃって」


僕が言うと、彼女は首を横に降った。


「気にしないで下さい。私共が悪いのですから」


彼女は申し訳なさげに微笑んだ。

綺麗だ。

僕、彼女に鼻押さえてもらってるんだ。

そう気付くと心臓が急にバクバク言い始めた。

心なしか体温も上がって……ヤバい鼻血がもっと出そうだ。


「体も痛むでしょう?手当致しますので、応接室までお連れします。アンドロマリウス!」


名を呼ばれた男は、一歩踏み出し彼女の近くへ寄る。


「なんだ?」

「彼を応接室までお運びして」

「了解した」

「ハザマさん、ハンカチをしっかり持っていて下さいね」


今なんて言った?

そう思っていると僕の体が急に浮いた。

男が僕の脇から腕を通して僕を抱え込んでいるのだ。


「じっとしていろ」


加害者らしからぬ言動で男がのたまう。


「おい、何をする気だ!」

「危害は加えない」


そう言い終わると男は器用に手を組み替え、僕をお姫様抱っこの状態に持ち替えた。


「これならば、辛くなかろう」


男はそう言うが、僕は別の意味で辛い。


「では行きましょう」


僕は男に抱えられたまま応接室へと連れて行かれた。


応接室に着くと僕は猫脚の高そうなソファーの上に下ろされた。

床にはペイズリー柄のペルシャ絨毯が敷かれ、壁紙も白の花柄と豪勢さが見て取れる。


「アンドロマリウス、救急箱を持って来て下さい」


金髪の彼女が言うと、軽く頷いて彼は部屋から出て行った。
























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