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悪魔の問題、解決します!  作者: ぶたたけ
別章 アンドロマリウス 本編の過去編に当たります。
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別章アンドロマリウス4―堕天せし明星

奈落では星が降る。

かの神によって落とされた同胞たちの魂という名の星が。

受肉したあの日から、私は王と共に虚無の焼土を歩く。

何処かにいる我が同胞たちと相見えるため。

途方もない旅路に我が身は傷ついた。

焼け付くこの身に手を差し伸べたのは金色の髪をした…かつての敵だった。

我らがこの地へ落ちてから、幾つの時が経っただろうか。

王と再び邂逅したあの時から、王と私は虚無の焼土をひたすらに旅した。

同じく地に落ちた同胞たちと会うために。


焼けた岩の転がる大地を渡る間、天からは無数の魂が降り落ちた。

弱弱と点滅する光、その一つ一つが神体を剥がされた神々の魂だ。

かの神はは未だ民を、奈落に落ちる魂と同じ程の―もしくはそれ以上の民を殺しているのだ。


「友よ、また同胞が落ちてくる。旅を急がなくてはなるまい」


王は言った。

空を流れる魂が幾月も流れ落ちると言うのに、我々は未だ友の姿を見ることも出来ていない。

もはや友らは果ててしまったのだろうか。

この奈落に落ちて生きているのは私と王だけで……


「同胞たちは生きている、信じるのだ。歩みを止めてはならない」


王が私を叱咤する。


そうだ、我らが進み続ければ希望は消えない。

歩みを止めてはならない、友の為にも我らの為にも。


私は歩みを進めた。


この体になり、奈落を旅して初めて分かった。

民はこれ程の重い体で日々動いていたのか。 

民の体はこんなに脆かったのか。


焼土を踏む足は立っているだけで焼け爛れる、体は数日も経たずに疲れ果てる。

幸いにも民とは違い食事を必要とはしないようだが、睡眠は必要であるらしい。

強烈な倦怠感と遠くへ行こうとする意識を抑えながら、熱から身を守れる岩の影を探し眠った。


夢というものも初めて見た。

変わった服を着た少年であった。

聞いたこともない言語でアンドロマリウスと、私を呼んでいた。

ハザマ……私は彼をそう呼んでいた。

とても幸福な夢だった。


我々は大岩と大岩のの間にできた細い谷を進んでいた。

元は一つの岩だったものが割れてできた谷らしく、我らを挟む崖はまっすぐ遥か天井まで伸びている。

崖の断面は風化して滑らかであり凹凸も無い。

 

歩みを進めるうちに足が動かなくなってきた。

体が重い、息が荒れる。

しかし……

私は鉛のようになった足を無理やり動かす。


「友よ、休息をとろう」

「休息は先ほど取ったばかり、まだ私は……」

「無理をするな。その体は休めなければ動かん。動かぬ物を動かしても壊れるだけだ」

「王よ、我が為に歩みを止める必要などない」

「其方の為ではない。私が休みたいから言ったのだ。付き合え」


気さくに言う王に私の心は救われる。

私の緊張が自然と緩む。


「ええ。お望みとあらば」


歩みを止めたその時であった。

私の肌を熱い風が撫でる。 

熱波が来る


王が危ない。


「王!私の下に!」


私の声を聞いて、空を飛んでいた王が私の足元に集まる。


小さく固まった王の上に覆い被さると、劫火の如き熱が私を覆った。

皮膚が焼け溶ける!

背中が燃える!

熱い!熱い!



熱波はすぐに弱くなった。

しかし熱に蝕まれた身体は軋みを上げる。

体を支えられない。

体が地面に崩れつく、その前に王が私を支えてくれた。


「……王よ怪我…は?」

「全くない。しかし其方が傷ついている」

「王が私の身を案じる必要はない…すぐに再生する」


王に仕える身で、王に支えてもらうなどわたしはなんとおこがましい。

立て、軟弱者!

私は気力を振り絞って立ち上がる。


「無理をするなアンドロマリウス!」


私は首を横に振る。

せめて休める所までは、自分の足で歩かねば。


前に一歩足を踏み出すが、支えられない。

倒れる…


そう思ったとき、私をささえる者があった。

王ではない。


長い髪が私の体を撫でる。

金色をしている。


「大丈夫ですか?ふらついておられますが」


私は顔を上げてその者の顔を見た。

男とも女とも取れぬ精錬とした面…どこを見ているかわからぬその目…

私はその目に覚えがあった。

友を殺した畜生共と同じ目だ!


「貴様は!」


私はその畜生を突き飛ばす。

あれは我らが敵!!ともなればこの命消えようとも殺す!!

私は足を踏ん張って飛びかかった。

しかし、それだけだった。

自力で立てぬ体では、均衡が保てる訳が無い。

私は再び倒れこみ、また畜生に支えられてしまった。


「お怪我をしているのに無理をされてはいけません。いま私が治します」

「貴様の施しなど受けん」

「友よあまり我を張るでない」


王は私にたしなめるように言った。

なぜ王はこの畜生の肩を持つのだ!?

「王よ、なぜ!?」

「この者は其方を治療すると言っている。私は其方の傷を治したい」

「この者は敵だ」

「かつてはそうだ。しかしこの者は今奈落にいる。この者もまた我らと同じだ。この者もまた同胞なのだ」


王がそう言ったあと私の肩を持つ畜生が私の顔を見て口を開く

「罰ならあなたが治ったあとにたっぷり受けましょう。先ずは火傷を治しましょう」


畜生があどけなく笑う。

敵に情けを掛けられるのは腹ただしいがこの体ではどうしようもない。

それに王の命は絶対だ。


「王に従う。貴様はあとで殺す」

「ええ、どうぞ。アザゼル、パイモン」


相変わらず焦点の合わぬ目で笑う畜生は後ろで控えていたらしい従者らを呼び出し、両腕を持たせて私を支えさせる。

畜生は背後に回って私の背中に手を当てる。


畜生共にベタベタと触られるのは不快でならない。

しかし不快感に反して、己の体はみるみる生気を吹き返している。


「楽になってきましたか?」


背中の畜生が背中をさすりながら聞いてくる。


「……不愉快だ、腹立たしい。」

 

腑抜けになっていた足にも芯が入るようになった。

私は腕を掴む畜生の手から逃れようともがく。

しかし力を入れる度に畜生共が腕をキツく締め付けるので逃れられない。


「友が暴れてすまない。此奴は少々愚直すぎる所があってな」

「元気なのは体が回復している証です。もうすぐしたら完治するでしょう」

「かたじけない」


なぜ王はあれに礼を言うのだ。

糞、あの熱波さえなければ喉元を引きちぎってやったものを…!


「はい、治りましたよ。」

 

畜生の手が背中から離れる。

背を焼く痛みは跡形もなく無く、それどころか全身をのさばっていた疲労も消え去っていた。

 

「元気になりましたか?」


畜生が私の背後から顔を出して私の顔を覗き込んでくる。

私は咄嗟に髪で顔を隠した。

あの畜生に悟られては絶対にならない。


怒りで錯乱していてよく考えていなかったが、敵とは言え助けられた手前礼は言わねばなるまい。

しかし、喉頚を噛み殺そうとした挙句、殺すと文句を言っておいて今更素直に礼など言えるはずもない。

第一このまま頭を下げれば私が三下のようではないか……


私の顔は混乱と羞恥で紅潮していたからだ。


「治療したばかりなのに全身が真っ赤です。」

「はは、此奴は考えてることがすぐ体に出るのでな、本人は気づいてないと思っているようだが。」

「王よそれは、本当か!」


はははと笑う二人に対し私は思わず叫んでしまった。


「ああ、手に取るように解るぞ」

「お礼を言うのが恥ずかしいのですね、気になさらなくてもいいですよ。お気持ちだけいただきます」


ふふと声を出して畜生が笑う。


かの神よ今だけ思う―私を殺してくれ!



これが堕天使ルシファーとの最初の出会いだった。
























 



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