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 コウモリ地帯へと通い、安全地帯で体力をつけるためにトレーニングをする毎日が続く。

 あんまりやったことのないゲームだけど、RPGなら少しやったことがある。これはそれに準えるとレベル上げだ。

 でもゲームみたいに簡単にはいかない。それでもゆっくりと少しずつ体力がついてきてるのがわかるのは嬉しい。

 魔力も着実に溜まってきているし、もう少ししたら目標も達成できる。


 だからここからは日課にもう1つ追加を行う事にした。


 戦うのはルー君がやってくれるけど、私も『声援魔法』でサポートするんだからこの前みたいに震えて何もできないような状況にはなっちゃいけない。

 だから少しでもあの鬼になれておかなければいけない。


「じゃあ今日からトレーニングが終わったらあの部屋に行ってみよう」

「きゅい!」

「ホホ」

「ブル……バフッ」


 ルー君はやる気満々だ。ロウ君はいつも通り。

 でも……リーオ君だけが違う。私があの鬼の殺気のようなものにあてられてまた酷い事になってしまうんじゃないかと心配してくれている。


「大丈夫、だよ、リーオ君。無理はしない。

 今日は鬼を覗いたりしないであの空気になれるところからはじめるから」


 私も無理をするつもりはない。

 最初から出来るとはとてもじゃないけど思っていないから。

 何せあの強烈な殺気のような悪意のような何かを受けて何もできなくなったのは私なんだ。

 嫌というほどわかっている。


 でも慣れなくっちゃいけない。

 私にはルー君のサポートっていう大事な仕事があるんだ。

 だから……。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 あの鬼を見た部屋まではすぐについた。

 安全地帯からはそれほど離れていないし、道も知っているし、リーオ君もいる。


 あの嫌な感じは部屋に近づくに連れてどんどん大きくなっていく。

 正直怖い。

 でもやらなきゃ、慣れなきゃいけない。この空気の中でもルー君のサポートを行えるようにしないといけない。

 10分間を計るのにはアラームがある。

 でも怖いから9分30秒くらいでかけ直す予定だ。


 でも今日はまずはこの空気になれること。

 部屋の中で待機して少しずつ慣れていくつもりだ。

 魔力が溜まるまではまだもう少しかかる。この日課を取り入れたからその分魔力の溜まり具合が遅くなった。

 でも必要な事だ。


 部屋の入り口でいつでも逃げられるようにしながら待機する。

 喉がもうカラカラだ。

 新しく取得した水筒の水も飲み過ぎないようにしないといけない。


 普段なら喉の渇きすらもないのに、こういうときだけ喉が渇く。変な体だ。


 そのまま1時間ほど待機して今日は終わりにした。

 安全地帯にまで戻ってくると普段よりもずっとずっと疲れていた。

 それこそ安全地帯に入ったらへたり込んでしまうくらいに。


 ……やっぱり必要だ。


 『声援魔法Lv3』と『声援魔法知識Lv3』を取得して、準備を整えてもきっとあの鬼の前に出たら何もできなくなってしまう。

 それではまったく意味が無い。

 だからこの慣らしは重要だ。


 慣れて慣れて……ルー君のサポートをしっかりやるんだ。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 新しく加わった日課は着実に効果を示してくれた。

 初日は戻ってきた時にはへたり込むほど疲れてしまったけれど、次の日、また次の日と繰り返していくうちにそうでもなくなった。

 やっぱり人間は慣れる生き物なのだろう。


 でもまだ部屋の入り口で待機しているだけだ。それも1時間だけ。


 明日からは鬼を手鏡で確認してみる。

 鬼が何か動きを見せたらすぐに逃げられるようにして慣れていく。


 リーオ君に乗ったまま部屋の中央近くまで行ってぎりぎり鬼が見えないところから手鏡を使う。


 鬼はやはり最初見たときと同様に胡坐をかいてずっとこちらを凝視している。

 あの時感じた息が詰まり心臓を鷲掴みにされるような恐怖が襲ってくるが、今日までこの部屋で慣れさせたおかげか前回のようなことにはならなかった。


 ただやっぱり怖い。今すぐここから逃げ出したい気持ちは変わらない。

 でも私は逃げない。逃げたらいけない。


 手鏡に感じる視線を5分くらいなんと耐えていると――。


「ホォ」

「ブルル」

「きゅ!」

「えっ」


 ロウ君の合図でリーオ君が移動を開始してしまった。

 呆気に取られながらも部屋を後にして通路に出たところで私は自分がどれほど疲弊していたのかを実感した。


 嫌な汗をすごくかいて呼吸も荒くなっている。

 心臓の鼓動も凄く早い。

 どうやら私は相当疲弊していたのに自分でそれに気づけなかったみたいだ。


「ありがとう、ロウ君……」

「ホホ」


 優しく翼で頬を撫でてくれるロウ君。


 そして実感した。

 まだ実際に対峙しているわけでもないのにこれだけ疲弊してしまうほどあの殺気と悪意は強烈だ。

 まだまだ私は慣れないといけないらしい。


 怖い。


 でももう思い出して震えて縮こまるようなことはない。

 まだ対峙しているわけではないからか、あの鬼も動かないし少しずつ慣れていこう。


 毎日手鏡越しに鬼の強烈な殺意と悪意を感じる訓練をする。

 5分が10分になり、15分になる頃には魔力も溜まり、遂に『声援魔法Lv3』と『声援魔法知識Lv3』を取得した。


 それにより得られた魔法は『ガード』。

 そのまんま防御力を上げられる魔法だ。でもやっぱり真骨頂は『アタック』と同じように相手の防御力を100%下げられるところにあった。

 これで『アタック』でルー君の攻撃力を上げて、『ガード』で相手の防御力を下げる。


 勝機が見えてきた……と思う。


 そして私も手鏡越しじゃなく、アイツと向き合う時がきた。

 最初は恐怖で動けなくなるほどの相手だったけれど、ずっと訓練を繰り返した。私はアイツを乗り越える。


 乗り越えて、ルー君達と一緒にアイツを倒す!







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 思っていた通りに手鏡越しよりも実際に目を合わせた時の方がすごく疲れた。

 でもわかったこともある。

 どうやらアイツは距離があると動かないみたいだ。


 ジッと殺意と悪意で塗り固められた視線を浴びせるだけ。

 だけとはいってもそれはソレで強烈だ。排泄しない体でよかった。リーオ君が汚れちゃうもの。


 それと手鏡越しでは微妙にわからなかったけれど、アイツのいる部屋はどうやら大きな部屋で大蛇の居た部屋くらいはありそうだ。その中央にいる。


 ルー君の長い射程でも多分部屋に入らないと届かない。

 『アタック』では射程は伸びない。

 『スピード』でならその勢いを利用して伸ばすことはできるけれど、部屋の通路は一本道だ。常に見張られている。


 アイツは寝ないのだろうか。寝るのなら不意打ちをすることだって出来るかもしないのに。


 そんな風に実際に戦う時のシミュレートを出来るくらいには慣れた。もしかしたら現実逃避かもしれないけれど、震えて何もできないよりはずっとマシだ。


 魔力集めはずっと続けている。

 ポーションなどももっともって置いた方がいいと思ったからだ。

 ルー君が傷つくのは見たくないけれど、もし傷ついても治せるのと治せないのでは全然違う。保険はいっぱいかけておくことにする。




 中級ポーションを4つ取得し、作戦もロウ君達と一緒に練った。

 作戦に必要な物も取得した。

 私の訓練ももう十分なくらい行った。


 全ての準備は完了した……と思う。


 まだ他にも出来ることはあるんじゃないだろうか、そう思うこともあるけれどみんなで立てた作戦には撤退も視野に入れてある。

 言葉が通じないから作戦を練るのは大変だったけど、そこは私達の絆の深さでなんとかなった。

 主にロウ君が機転を利かせてカタログでアイテムを指差したり、地面に絵を描いたりしてだけど。


 ……き、絆だよ!



 とにかく無理そうだったら撤退。

 でももちろん勝つのを前提に作戦は立てられた。


 それなりに長い時間をかけて準備したんだ。絶対に負けない。


 ……負けそうなら逃げるけど。



 無理はしない。でも勝つ。


 さぁ行こう!




次回29話、30話同時投稿にて最終回です。


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