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リーオ君の乗り心地は素晴らしいの一言。
抜群の安定感で移動してくれる。
リーオ君に乗ると若干目線が下がるけれど、それは大した問題ではない。問題があるとすればずっとリーオ君に乗って移動していると体力落ちちゃうんじゃないかなぁということ。
リーオ君は不思議な事に乗馬でよくある足腰が立たなくなるようなありがちな話は多分ないと思う。
だってものすごい安定感だもの。鞍もジャストフィットして私のお尻が痛くなることはないんじゃないだろうか。
まぁでも長時間乗ったあとに同じ事が言えるかどうかはまだわからないのでたまに降りて自分で歩こうと思う。
リーオ君の近くにさえいれば『固有結界』で守ってもらえるしね。
通路はすぐに左に曲がってそのまま少し長めの直線になっている。あ、でも先が角になっているかも? まだちょっと遠いので微妙だけど、たぶんそうだ。
カッポカッポ、と長閑な感じでまったく揺れないリーオ君の上で後ろや天井を警戒しながら進む。
ルー君もリーオ君の頭の上で3本の尻尾をゆらゆらさせているし、ロウ君は私の肩の上。
リーオ君だけが疲れるような気がするけど大丈夫かな?
「リーオ君、疲れたらちゃんと言ってね? 休憩は大事だからね?」
「ブルル」
リーオ君の首筋を優しく撫でてあげながらそういうと小さく頷いて応えてくれる。
その頷きで若干ルー君が動いたけど、ルー君のバランス感覚はすごいから全然平気みたいだ。
それにしてもリーオ君の首筋はなんだか撫で心地がいい。ルー君もロウ君ももふもふで素晴らしいけれど、リーオ君の首筋はなんというか筋肉なんだけど柔らかくて堅い。不思議。
ついついずっと触っていたくなってしまう。
「ホォ!」
「えっ?」
「ホホォ!」
リーオ君の首筋をさわさわしているとロウ君が一鳴きし、リーオ君が止まる。
ロウ君が再度鳴き私が通路に視線を向ければそこには色の違うタイルがちょっと先にあった。
ついついリーオ君の首筋ばかり見ていたので警戒がおろそかになってしまっていたみたいだ。私ってやつは……。
「ご、ごめんね、ロウ君。気づかなかった……ありがとう」
「ホホ」
何もできない私はせめて警戒くらいしっかりしないといけないのについついリーオ君の素晴らしいさわり心地に夢中になってしまった。気をつけなければ……。
リーオ君を触り倒すのは安全地帯に帰ってから……帰ってから……。早く帰りたいなぁ。
罠を避けて進むと『敵』が1匹だけ出ただけで特に何もなく角までついた。やっぱり角だったよ。こちらも左に曲がる角だ。
リーオ君から降りて手鏡で先を伺うと少し先に箱っぽいのがあった。
「……宝箱? また? 多いのかな……でもこんなにあるってことは……」
嫌な予感がする。
手鏡から見た角の先は見づらいけど行き止まりに宝箱があるみたいな感じだった。
一応『敵』の姿は見えなかったし、『気配探知』にも反応はない。
顔をソーッとだして再確認して先へと進むことにした。
とはいってもやっぱり行き止まりに宝箱があるだけだったのですぐに辿りつく。
「『気配探知』にも『罠探知』にも反応なし……。ミミックじゃないっぽいね」
「きゅ!」
「ホホホォ!」
「ブルル」
いつものように警戒しながら宝箱に近づき、突付こうとする。
でも今回はここからちょっと違う。
リーオ君に宝箱ぎりぎりまで『固有結界』を張ってもらったのだ。
もしこの宝箱がミミックだったとしてもリーオ君が守ってくれる。緊張がちょっとだけでも減るのは嬉しい。
『固有結界』から私達は攻撃できることは知っているから確認のために突付き、隙間に刃を入れる。やっぱりミミックじゃないみたい。
そのまま蓋を開ければ中に入っていたのは瓶詰めの液体だった。
でも中級ポーションの色とは違う色をしている。なので中級ポーションではないみたいだ。
でもだからといって何のポーションなのかはわからない。
首を捻っているとさっそくお3人さんが会議を始めていた。
私はとりあえず『敵』がこないか警戒かなー。あ、一応カタログのポーションの欄を開いておこう。カタログに載っていたら教えてくれるだろうし。
いつものようにルー君が疑問系でロウ君がきっぱりと言い切る。リーオ君は静かで何度かちょっと意見を出しただけみたい。
こういう時はロウ君が1番強いよね。博識だもの。
そしてやっぱりカタログを開いておいたのは正解だった。
みんなを代表して1番先輩のルー君が瓶詰めの液体が何なのか教えてくれた。
この瓶詰めの液体はやはり中級ポーションではなく、下級ポーションだった。
中級ポーションの1個下のポーションで、『消費魔力』は500の代物だ。軟膏や下級傷薬よりは高いのでそこそこ効果がありそう。
いや、中級ポーションが傷跡も残らず綺麗さっぱり治してしまうのだから私が思っているよりも効果があるかもしれない。よし、小さい怪我とかしたら使ってみよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
行き止まりで背後の警戒をしなくてもいい場所だったので、ちょうどいいので休憩を挟んでおくことにした。
念のためにリーオ君に『固有結界』を張りっぱなしにしておいてもらう。
もちろんずっと張っていて疲れないかも聞いておいた。全然大丈夫とフンス、と鼻息を荒くして頷いていたので大丈夫だろう。無理はしないでねってちゃんと念を押しておいたし。
ルー君とロウ君用の油揚げを新しく取得してお皿に盛り付けながらリーオ君は何を食べるのか聞いてみた。
油揚げを1枚食べさせてみたけどあまりお気に召さないみたい。
カタログを開いて何かないかなぁと探してみると、『飼葉』という物があった。
……もしかして?
「リーオ君、飼葉ってどう?」
「ブルルッ! ヒヒィン!」
「おぉ! じゃあ取得するね!」
リーオ君が油揚げの時とは全然違う興奮した姿を見せたのできっとこれで合ってる。
ルー君とロウ君はもう油揚げに噛り付いているし、早く食べさせてあげないとね。2人共待っててくれなかったみたいだし。先輩なのにひどいなぁ。でもお腹空いてたのかな……だったら私の責任だよね。ごめんね、みんな。
取得した飼葉は結構大きいけれどそこまで重くなかった。
さすがに飼葉を盛り付けられるお皿はなかったので桶を1つ新しく取得してそれをリーオ君用の食器にすることにした。
飼葉をほぐして桶に入れてあげるとさっそく顔を突っ込んでリーオ君がむしゃむしゃ、と食べ始める。
一心不乱に食べている様子にちょっと面食らってしまった。そんなにお腹空いてたの……?
これはちょっと由々しき事態かもしれない。
食事の管理は私がしている。ある程度の時間を置いて食べさせているけど私が食べなくても平気だからか、ちょっと時間の管理が甘かったかもしれない。
何も出来ない私の代わりにみんな戦ってくれたり、探知してくれたり、守ってくれたりしているんだ。
そんなみんなにひもじい思いをさせるのはだめだ。もっとしっかりしなければ。
新たに気合を入れてはみたけど……カタログを見るくらいしか時間管理はできない。
私のなんとなくの体内時計ではまた同じミスを絶対するし……。
何かないかなぁとカタログを見ていると、アラームがあった。
……え?
ちょっとポケっとしてしまったけれど『消費魔力』も凄く安かったので取得してみた。
出てきたのは100均とかで売ってそうな安っぽい感じのデジタルアラーム。
でも電池を入れるところはないみたい。何を燃料にしてるんだろう……?
とにかくタイマーを10秒にセットして試してみると結構大きな電子音が鳴り響いた。
ルー君達もびっくりしてこちらを凝視している。
「ご、ごめんね、びっくりさせちゃって。
ほら、アラームを取得してみたの。これで食事の時間を管理したりしようかなぁと」
アラームを止めてみんなに見せれば納得したのか食事に戻ってくれた。
音量調節できないのかなぁこれ……。
色々調べたら音量設定は出来た。
さっきの音の半分くらいの音量に設定して、クリップ付きだったのでローブに挟んでおく。
これで時間の管理はばっちりだ。一応3時間を目安にしよう。小分けにした方が探索中はいいしね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
みんなの食事も終わって食器を片付けて探索を再開する。
とはいっても今日はもう大分時間をかけたので安全地帯に一旦帰る予定だ。
リーオ君という新しい仲間も出来たことだし、みんなで友好を深めようというわけだ。
べ、別にリーオ君を撫でたいからじゃないよ? あ、でも撫でるよ? 撫でるけど……ほら、ね?
帰り道ではリーオ君のスピードというものをちょっと体験してみたかったので罠が無いことがわかっている場所で『駿足』を駆使して走ってもらった。
……すごかったです。ジェットコースターなんて目じゃないくらい怖かった。
全然揺れない普通の移動とは違ってこれぞ馬、といった感じのパカランパカラン、という感じの振動がすごくてとてもじゃないがそのまま座っているなんてできなかった。
走り出してすぐに首に抱きついたけど、横目に流れる壁が早さを伝えてくれる。
たまに光の粒子が通り過ぎていったりもした。
どうやらルー君はこの速さの中でも遭遇した『敵』をしっかり仕留めているみたい。
さすがすぎるよ……。
長い直線を一気に駆け抜けたリーオ君はまったく疲れた様子もなく、むしろもっと走りたいかのような感じだった。
ごめんね……。これ以上は私がもたないよ……。
たぶん明日は筋肉痛になっていると思うよ……。
行きとは比べ物にならない時間で帰ってこれた安全地帯で私はすぐに座り込んでしまった。
あはは……。リーオ君まじすごい。
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