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リーオ君。
蒼い瞳と青い鬣と尻尾が綺麗な子馬。
子馬なので立ち上がった私の腰くらいのサイズしかない。私を乗せて歩く事は難しいかも。
でもルー君やロウ君くらいのサイズなら楽勝なようで、ルー君を頭の上に乗せたままだ。
ルー君も器用にバランスを取ってお座りしている。3本の尻尾がそれぞれ独自に動いてバランサー代わりになっているのに気づいたのには驚いたけど。
『使い魔知識』によるとリーオ君の情報はこうなる。
種族名は守護馬。
ランクアップは0回。生まれたばかりだしね。
持っているスキルは『固定結界』、『球形結界』、『騎乗者重量軽減』、『駿足』、『金剛不壊』。
名前の通りに防御系のスキルを2つ持っている。
小さいから乗れないかと思ったけど『騎乗者重量軽減』があるからもしかしたら大丈夫かも?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルー君が攻撃で、ロウ君は探知。リーオ君は防御と三拍子揃った感じだ。
今まで攻撃を受けたのはミミックとコウモリだけだ。でもこれからはもっと増えるだろう事は想像に難くない。
攻撃を受けて怪我をして、ポーションや軟膏を使って治してはい次、なんてことは多分私ではできない。
怪我をしてすぐ治せても後遺症や怪我による弊害、心的疲労なんかを心配してしまう。
リーオ君の結界のスキルは『固定結界』はその場を動く事ができないけど、強力な結界を張って攻撃を受け止めてくれるみたいだ。
『球形結界』は逆にそれほど強い攻撃は受け止められないけれど、動いても結界がそのままついてくるみたい。
ルー君は『球形結界』。私達は『固定結界』といった感じになるんだろうか。
リーオ君の結界のスキルがどのくらいの強度を持っているのか検証したりするべきなんだろうなぁ。でも攻撃をわざと受けるのはやっぱり怖い。それが私じゃなくても。
「リーオ君、あなたの結界はどのくらいまで耐えられるの?」
「……ブルゥ、フシ~」
「きゅきゅい、きゅ?」
「ホォホホ」
「バルッ……ブルル」
……うん、やっぱりわかんないや。
でもルー君達には通じてるし、前に出て戦うのはルー君だからルー君がしっかり理解しておくのはいいことだよね。
結局私は守られる側なわけだし。リーオ君を信じよう、うん。
3人の話し合いが始まったので私は大人しくリーオ君の防具を取得するためにカタログを捲っていく。
リーオ君は馬なのでルー君のようにコートも、ロウ君のように足輪も装備できなさそう。
でも思ったとおりにカタログの『防具カテゴリー』にリーオ君用の鞍が追加されていた。
……私も乗れそうだ、やった!
残っている魔力も1000ちょっとなので取得できるのは『硬皮の鞍』だけかな。
さっそく『硬皮の鞍』を取得するとリーオ君のサイズにぴったりな鞍が出てきた。
鞍には鐙がついているけど手綱とかはついていない。
本格的な速さで走ったらリーオ君にしがみ付く形になっちゃいそうだ。
リーオ君は『駿足』を持っているからきっとすごく早く走れると思う。『騎乗者重量軽減』もあるから私の重さもあまり気にならないと思うし。……別に重くないよ?
私が『硬皮の鞍』を取得した事に気づいた3人が話し合いを終えて集まってくる。といっても近くで話していたのでそのまま『硬皮の鞍』を珍しそうに見ているだけだ。
「これがリーオ君の防具だよ。つけてみるね?」
「ヒヒィン!」
わっ、すごく嬉しそう。ルー君もロウ君も防具が大好きみたいだし、リーオ君もやっぱり好きなのかな。男の子だねぇ。
リーオ君に鞍をしっかりと固定してあげるとかなり格好いい。
ルー君もリーオ君の頭の上じゃなくて鞍の上に移動して乗り心地を確かめている。あ、満足そう。
「ブルルゥ」
「ん? なぁに、リーオ君?」
「ブルゥ、バフッ」
『硬皮の鞍』を装備してご満悦だったリーオ君が私のローブの端を咥えて引っ張ってくる。なんだろう?
……あ、もしかして?
「いいの?」
「ブルゥ」
どうやらリーオ君は私に乗るように言ってるみたい。お言葉に甘えて乗ってみることにした。
乗馬の経験なんてまったくないからちょっと怖いけど、そこはリーオ君だ。
あの蒼く澄んだ瞳を見てしまえばリーオ君が暴れたりするなんてことは絶対にないというのはすぐわかる。
それどころかとても優しいいい子だと私は知っている。
初めての乗馬体験にちょっとおっかなびっくりしつつ、鐙に足をかけて鞍を跨ぐ。
鞍に乗っていたルー君はすでにリーオ君の頭の上に移動している。
「わぁ……」
初めて乗ったリーオ君の上はなんていうか……ちょっと目線が下がった感じだった。
でも安定感がすごい。なんだかどっしりとしていてとても頼もしいし、リーオ君を凄く近くに感じる事が出来る。乗馬ってすごい。
「きゅ~い!」
「ホホォ」
「ブルルゥ、バフッ!」
「わゎ……おぉ~……すごぉい」
リーオ君がそのままルー君とロウ君の合図に合わせて歩き出すと、思っていたよりもずっと振動もなくてお尻が痛くなることもなさそう。
確か乗馬って初めてだとお尻と腿? が大変なことになるって聞いたことがある。でもリーオ君なら大丈夫そうだ。不思議。
カッポカッポ、と馬独特の足音を出しているけどそこまで気にするほど大きくはない。
元々『敵』は静かにしててもこちらを発見してくるから音に関してはそんなに気にした事はない。
リーオ君の首を撫でているとすぐに仕切られていた壁を抜けて、開けた部屋に戻ってくる。そして『気配探知』にすぐに反応があった。
「ルー君!」
「きゅ~」
すぐに『敵』がいることをルー君に教えたけど、ルー君はリーオ君の頭の上でのんびりしている。
真ん中の尻尾がうねうねしていてなんだか癒される。……ってそうじゃなくて!
「ホホーホォ」
「ヒヒィン!」
「えっ」
ロウ君の合図と共にリーオ君がすでにこちらを発見して突進してくるウサギに向かって啼くと私達の周りよりも少し大きい範囲を半球状の薄い膜が包み込んだ。
「あっ」
結構なスピードで突進してきたウサギがその膜にぶち当たると安全地帯の膜のときと同じように弾き飛ばされてしまった。
「これが『固定結界』……すごい」
ウサギのスピードの乗った突進でも小揺るぎもしない。
私が驚いている間にもウサギは何度も何度も突進しては跳ね返されている。
ウサギの突進くらいなら何度やられてもリーオ君の『固定結界』は壊される事がなさそうだ。
リーオ君もルー君もロウ君もみんな自信満々といった感じで自然と笑みが零れる。
「ホホ」
「きゅ? きゅぃ!」
ロウ君が10回に届きそうになったウサギの攻撃に飽きたのかルー君に声をかけると、後ろ足で耳の裏をパタパタしていたルー君が『紅蓮灯火』を放つ。
なんとこの『固定結界』の中からルー君が放つ『紅蓮灯火』は弾かれる事なくすり抜けて『敵』を燃やしてしまったのだ。
これはすごいアドバンテージだと思う。
結界で守りを固めた上でルー君が一方的に攻撃できるのだから。
「すごいよ、リーオ君!」
「ブルルッ」
私の掛け値なしの賞賛にリーオ君がちょっと照れくさそうに啼いた。可愛い。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リーオ君に乗ったまま私達は仕切りの壁で区切られている部屋の残りを探索してみることにした。
『固定結界』はそのままだと移動できないので移動する時には解除されている。
『気配探知』には反応もないし、『罠探知』にも反応はない。
仕切りの壁で部屋は区切られているので中に入るときにはちゃんと手鏡を使って中を調べる。その時はリーオ君からちゃんと下りる。
手鏡の情報から特に問題が無いことを確認して中に入るとリーオ君がまたローブの端を咥えて蒼い瞳で覗き込んできた。
どうやらリーオ君は私に乗っていて欲しいみたい。綺麗な瞳で見つめられちゃうと断れないよ……。
危険なことがあったりしたら、リーオ君が私を乗せたまま走った方が多分圧倒的に速く逃げれると思うし、リーオ君に乗っているととても安心できる。私に否やがあるはずがない。
お尻も痛くならないしね!
リーオ君に跨って部屋を探索する。
残りの部屋には特に宝箱もなく、通路が左右に2本あるだけだった。
私のおぼろげな脳内マップではたぶん最初の長い長い通路を抜けた先にあったもっと長い通路が右側の通路と繋がっている気がする……たぶん、恐らく……かもしれない。
自信がないのはここまで結構な距離を歩いてきているから、正確なところがよくわからないのだ。
そして左側の通路は今日の探索を始めて、最初にスルーした通路に繋がっていそう。
右側の通路よりはマシな程度の信頼度で自信がある。まぁそれでも微妙なところだけど。
左側の通路はスルーした通路に繋がっている場合、正直あまり行きたくない。
だってスルーした理由もあまりよい予感がしなかったから、なんだし。
一先ず予定としては右の通路か、部屋の前半部分にあった通路のどちらかかな。
「みんな、いいかな?
私は左の通路は後回しにして右側か、さっきの部屋の残りの通路を行くべきだと思うんだ。
どうかな?」
「きゅい! きゅきゅ~きゅぃ」
「ホホォ、ホホ」
「……バフ」
「きゅい!」
「ブルルゥ……ブフ」
「ホホォホ」
「きゅきゅぃ!」
なんとなくリーオ君が遠慮したのをルー君がお叱りになったように思う。なんとなくだけど。
でもそのおかげかリーオ君も意見をきちんと述べれた……かな?
相変わらずわからない彼らの会話だけど、なんとなくその雰囲気だけは伝わってくる。
いつかは私も参加できるようになるといいなぁ。
「きゅきゅい!」
「あ、決まったの?」
「きゅ~い!」
「ふむふむ、じゃあ戻ろっか」
3人の王子様達とお話しするところを妄想していたら話し合いは終わって結論が出たみたい。
その結果として前の部屋の通路を行く事になった。
リーオ君のカッポカッポ、という足音を聞いているとなんだか恐ろしいダンジョンにいるなんて思えなくなってくるから不思議だ。
……いかんいかん、気を緩めすぎだ、私。
とても安定感があって頼もしいリーオ君の上でぶんぶん、と頭を振って気合を入れるとたまに後ろを振り返りながら通路へと足を踏み入れた。
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