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部屋から伸びる通路はすぐに右に曲がっており、その先には長い通路が待っていた。
とはいっても5時間かけて踏破した通路よりは大分短い。それでもそれなりには長い通路だ。
今までの経験上、『敵』に遭遇するとその周辺ではすぐには次の『敵』には遭遇しない。
でもそれはあくまでも経験上でしかない。今後どうなるかは決してわからないので慎重に行く事に越した事はないと思う。
通路を警戒しながら進む。
どうやらこの通路は罠の数が先ほど通ってきた長い通路とは違うようだ。今のところ1つもロウ君の『罠探知』にはひっかからない。
2階は罠がたくさんあるのかと思ったのだけどそうでもないようだ。
ロウ君が探知できない罠なら私ではどうしようもないので警戒のしようがない。ここはロウ君を信じて探知されないなら罠はないと思って進まないと足が動いてくれないのだからしょうがないだろう。
背後を警戒しながら進んでいると、光の粒子が後方に集まっているのを発見した。
背後を警戒していてよかった。
すぐにルー君に教えて『敵』が出現するのを待つ。
「きゅ!」
光の収束と共にルー君が鋭いひと鳴きで出現した巨大ネズミを燃やし尽くした。
接近さえ許さなければ単体でしか現れない『敵』は今のところルー君の敵じゃない。
わかっていてもホッと息を吐いてしまう私は本当に小心者だと思う。
ルー君という心強い王子様がいるのに『敵』が怖い。これだけはたぶん慣れる事はないんじゃないだろうか。
1つ深呼吸をして気分を入れ替えてから通路を進む。
怖いのは怖いのだけど、やっぱりルー君とロウ君がいるから前へ進める。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
1時間ちょっとくらいかけて『敵』をもう1匹燃やし、やっと通路の終わりまで辿り付く事が出来た。
通路の終わりはすぐに右に入り口のある部屋になっているようだ。
『気配探知』と手鏡で部屋の中を確認してみると、先ほどの彫像のあった部屋よりも広い部屋のようだ。
『敵』の姿は確認できない。
でも……部屋の中央に宝箱が鎮座していた。
「宝箱だ。またポーションとか入ってないかな。
それとも新しい子が入ってたりして……」
「きゅきゅぃ!」
「ホーホホォ」
宝箱からはルー君やロウ君みたいな『使い魔の卵』が手に入っているし、『消費魔力』1500もする中級ポーションも手に入れている。嫌でも期待してしまうのは仕方ないというものだ。
特に新たな仲間が増えるのは非常に嬉しい。
ルー君は戦闘には欠かせないし、ロウ君は罠や気配の探知で大活躍だ。
何よりも2人とも可愛い。次の子もきっとさぞかし可愛いに違いない!
安全は確認してあるので部屋に入ってウキウキしながら宝箱に近づくと……ロウ君の『気配探知』と『罠探知』が同じ箇所で反応を示した。
「……え?」
これは一体どういうことだろう。
宝箱の下、もしくは宝箱自身に罠が仕掛けられている可能性はわかる。
でも、それと同時に『気配探知』に反応があるのがわからない。
ウキウキしていたさっきまでの感情は一気に困惑と不安に取って代わってしまい私の足は自然とその歩みを止める。
ルー君もどうやら気配を感じたようで一緒に歩みを止めているけど、警戒態勢は取っていない。
『敵』……ではない?
「ルー君、あの宝箱から気配するよね? あと……罠の反応もあるんだ」
「きゅ! きゅぅ~」
ルー君もやっぱり気配は感じるようだ。
でも罠はわからないので首を傾げて宝箱を凝視している。
考えられるのは中身が気配を発するようなモノだということだろう。
つまりは『使い魔の卵』? だったらすごく嬉しい。でも決め付ける事はできない。
……もしミミックとか人食い箱とかそういう類の『敵』だったら危険だ。
「うーん……。どうしよう?」
「きゅぅ~」
「ホォ~」
宝箱を眺めて考える事しばし。
結局開けてみない事には正解はわからない、という結論に達した。
『使い魔の卵』という可能性がある以上、このままスルーするという選択肢は存在しない。
でも開けてミミックだったら、至近距離での戦闘になる。これはすごく怖い。
でもルー君では宝箱は開けられない。
灯火を当てたら中身が無事ではすまないだろうからコレも却下だ。
どうやって開けようかと悩んでいると部屋の逆側にある通路から巨大ウサギが姿を現した。
部屋の逆側までは『気配探知』が微妙に届かない位置だったのでいきなり現れた『敵』にびっくりしてしまった。
私達を発見してすぐに走り出した巨大ウサギとは宝箱を挟んでいる。
ちょうど巨大ウサギの進路には宝箱があるけれど、どうやら意に返していないようだ。
巨大ウサギの突進力がどのくらいかわからないけど、宝箱に激突したら宝箱を壊して突っ込んでくるくらいは出来るんじゃないだろうか。
もし壊されてしまったら中身も当然無事じゃすまない。
「きゅ!」
直進してくる巨大ウサギが宝箱で微妙に見えなかったルー君は射界を確保するために斜め前方に跳躍すると、着地する前に灯火を巨大ウサギに打ち込み燃やし尽くそうと試みる。
「あ!」
「ホォ!」
ルー君が斜め前方に飛んで宝箱に近くなったからだろうか、宝箱が突然開いてルー君に向かってその口から伸びる巨大な牙で襲い掛かってきた。
ルー君は跳躍から巨大ウサギに攻撃したところで一瞬の虚を突かれてしまっている。
私もロウ君も声をあげることしかできなかった。
巨大ウサギが燃え、光の粒子になる前に宝箱――ミミックの攻撃はルー君に到達してしまった。
牙が並ぶ宝箱の口が激しい音を立てて閉じ、宝箱がガタガタと音を立てて着地する。
その光景に私は呆然とし、足の力が一気に抜けて冷たい床にへたり込んでしまった。
何が起きたの……?
ルー君は?
ルー君はどうなったの?
さっきまで感じていたルー君の気配がまったく感じられない。
どうして? なんで?
同様にロウ君の気配も……。
……ロウ君の気配も? 私の肩にいたロウ君の気配も?
混乱しかけた私の思考が一気に冷静になっていくのがわかる。そこで気づいた。
ロウ君が肩に乗ってない。
ロウ君が肩に乗っていなければ、ロウ君のスキルである『気配探知』は発動しない。
「ホォ!」
「あ……」
どうやら私が急にへたり込んでしまったのにびっくりしてロウ君は留まっていた肩から飛んだみたいだった。
肩に戻ってきたロウ君により再び『気配探知』が発動し、ソレと同時にミミックが燃え上がった。
「よかった……」
だが燃え上がったミミックは光の粒子にはならず、再び跳躍して口を開いて攻撃を再開しようとしていた。
もちろん相手はルー君だ。
だけど今度の攻撃は不意を突かれたわけでもない。そんな攻撃にルー君が対応できないはずがない。
燃え上がっているミミックがルー君の2発目の灯火によって弾き飛ばされ、大きく炎上しながら壁にぶち当たって盛大な音を立てる。
激しく燃え上がりながら床に落下したミミックは今度こそ光の粒子となって燃え尽きた。
「ルー君!? 大丈夫!?」
「ホホォ! ホォ!」
今度は腰が抜けたわけではなかったみたいですんなり立てた。
だからすぐにルー君のところまで駆け寄る事が出来たけど、ルー君の様子がおかしい。
後ろ足をひょこひょこさせて駆け寄る私達に近づいてくるのだ。
やっぱり最初の不意打ちで怪我をしてしまったんだ。
ルー君が『敵』から攻撃を受けるなんて初めての事だ。
あの大蛇の攻撃だって避けれたルー君に攻撃を当てるなんて……なんて恐ろしい『敵』だったんだ。
でも今はそんな事を考えている場合じゃない。
「ルー君! 今治してあげるからね。えっと……これを飲ませるの? それとも傷口にかけるのかな……」
「きゅぅ~」
「かければいいのね? いくよ?」
鞄から取り出した中級ポーションのコルクを抜くと、すぐに硬皮のコートも若干切り裂いている傷口に振りかけてみる。
すると大きく切り裂かれていた傷口がみるみるうちに塞がっていった。
「す、すごい……」
「きゅぅ」
「ホォ~」
すぐに塞がった傷口はまるで怪我などなかったかのように完全に跡形もなくなってしまった。
でも硬皮のコートも無残に切り裂かれていて、毛も若干薄くなってしまっているので怪我をした場所はわかる。
中級ポーションの回復力にただただ唖然とするばかりだったけど、そんなことはどうでもいい。
ルー君が元気になってくれればどうでもいい。
今はとにかくルー君の怪我がきちんと治ってくれた事が嬉しい。
「本当によかった……」
「きゅぅ~」
中級ポーションのおかげで怪我が治ったとはいえ、あんな大きな傷口が出来るほどの怪我だ。傷口が開かないように震える手でそっとルー君を抱き上げ、優しく抱きしめる。
本当によかった……。
しばらくルー君を抱きしめて、温かいルー君の体温を感じ続ける。ロウ君も寄り添うように私の頬にふかふかの顔を摺り寄せてくれている。
ルー君がいなくなったりしたら私は1歩も進めない。『敵』と戦えなくなるだけじゃなく、ルー君という存在が私にとって何者にも変え難い大きな存在となっているのをはっきりと感じる。
あぁ……ルー君……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルー君を抱きしめて、ルー君の存在を肌で感じて安心していたら『気配探知』にひっかかる反応で現実に引き戻された。
ルー君もロウ君も同時に反応している。
ルー君はすぐに私の腕の中から飛び出して走ってくる巨大ネズミに灯火を放っている。
私の腕の中から床に着地したルー君は怪我の後遺症もまったく見られず、いつも通りに動けているようだ。
燃え尽きて光の粒子となった巨大ネズミの事はどうでもよくて、ルー君の心配ばかりしてしまう。
だってあれほど大きな傷だったんだ。治ったとはいえ、安静にしていなければいけないんじゃないだろうか。
……そういえば気になる事が他にもあった。
それはルー君の傷口からは血が一切出ていなかった事。
ルー君の赤というよりは紅といった方が近い綺麗な毛並みには一切血の跡がない。石造りの床にも血痕は一切残っていない。
でも確かに気になる事だけど、それを言い出したら私に食事が必要なかったりトイレが必要なかったりするのも気になる。
たぶんこれは同じレベルの事なんだろう。気にしたら負けというレベルの。
だから気にしても無駄な事を気にしても仕方ない。
今はルー君の体調と足の具合だ。
「ルー君、足の具合はどう? 痛くない? 変な感じしない?」
「きゅい!」
「本当? でも……」
「きゅぅ~い!」
「ホォ~」
心配する私に問題ないことを示すようにその場で一回転して華麗に着地してみせるルー君。
今までも同じように一回転して華麗に着地してみせていたけど、今回のソレは今まで以上に美しい一回転だったと思う。
本当になんともないみたいだ。
それでも初のルー君の怪我という大事件でずいぶんと精神的に疲れてしまったので、一旦休憩することにした。
部屋にある2つの通路のどちらも監視できる場所――部屋の中央の壁際――までルー君を抱いて移動し、警戒しながらもしばしの休息を取る事にした。
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