13
「あ、また罠」
「きゅ」
長い長い通路を進めば何度も色の違うタイル――罠を発見する。
点在していてそれほど多くないとはいえ、こんなに罠があったらどこかで絶対踏んでいただろうし、その結果どんな罠が作動するのかは想像したくない。
ううん、違う。罠自体が作動するのはいいけどその結果としてついてくる被害を想像するのがいや。
ルー君やロウ君が怪我をするのは出来ることなら避けたい。本当に出来るなら今すぐ家に帰って平和に暮らしたい。
それにしてもこの通路は本当に長い。
もう大分歩いてきたのにまだまだ先がある。
罠のほかにも『敵』にも何度も遭遇した。この階の『敵』は巨大ウサギの他には大型犬クラスの巨大ウサギの半分ほどの、それでも明らかに巨大なネズミが襲ってきた。
どちらも遠目に光の粒子が集まって出現するのを確認しており、あっちもきょろきょろしたあとこちらを発見してすぐ向かってきた。ルー君の射程に入った瞬間には燃えていたけど。
ロウ君の『罠探知』があるから罠に関しては問題ないと思う。
通路は一本道みたいで『敵』が来たらすぐにわかる。でもそれは前方だけ。
当然ながら光の粒子が集まって出てくる『敵』は後ろに出るときもある。
いくらロウ君の『気配探知』が結構広い範囲をカバーしているといっても『敵』の移動速度も結構速い。
スピードに乗って走ってこられるとあっという間に近づかれてしまうと思うので、後ろの警戒は怠っていない。
後ろを気にしつつ進む通路は普通に歩いているよりは遅い。
それでも上の階を進んでいた時よりはよっぽど早いと思う。
ウサギとネズミをルー君が燃やし、ロウ君の『罠探知』で罠を回避する。
魔力が5減って少しして――ウサギとネズミが還元してくれた魔力はどちらも20だったので計算は簡単だった――やっと通路を横断し終わる事ができた。
正直5時間以上もかかっているけれど、実際の距離はそんなでもないはずだ。普通に歩ければもっと早く……たぶん2時間もあれば横断できると思う。
「やっと角が見えてきたよー……」
「きゅぅ」
「ホォ~」
長かった通路が終わり、角の先に『敵』がいないことを『気配探知』で確認して一応手鏡でも再確認する。
そこでちょっと信じられない光景を目撃してしまった。
「えぇ~……」
「きゅ?」
「……はぁ。2人とも見てみて……」
「……きゅ!」
「……ホ、ホォ……」
角を曲がってその先を見た2人は私の心境がよくわかってくれたようだ。
なんと長い長い……本当に長かった通路の先にはまだまだ……それこそ先ほどよりも長い通路が待っていたからだ。
「これはちょっとないよぉ……」
「きゅぅ……」
「ホォ」
先に進むとは決意したけどコレはちょっと酷い。
5時間歩いてきてそこそこ疲れていたところにこれでは、精神的な疲労がずっしりときてしまうのも仕方ないんじゃないだろうか。
通路は右に曲がる角なので端っこの両方を監視できる隅で一旦休憩をすることにした。
2人には油揚げをそれぞれ食べさせて食事もしてもらっておく。5時間も経っているしお腹空いているだろうから。
油揚げは当然足りなかったので追加で購入しておいた。私は今回は食べない。正直油揚げ単品ではやっぱりちょっと……。魔力も1しか回復しなかったしね。
角の隅に座って『敵』の出現を警戒しながら体を休める。
脹脛をもみもみしながら、その間にこれからの事を考える必要があった。
今の体はご飯もトイレもいらないけれど、睡眠は必要だ。でもこの通路は『敵』が出てくる。滝のあった安全地帯のような場所を発見しなければとてもじゃないけど安全には眠れない。
ルー君も睡眠は当然必要だから寝ずの番というわけにはいかない。戦えるのはルー君だけ――ロウ君は戦えないみたい――だし、私が見張りをしても結局『敵』が来たらルー君を起こさないといけない。
通路を横断する際に5時間で8匹の『敵』を燃やしている。
それを考えると1時間に1匹以上は襲ってくるかもしれない。一箇所に留まっていればもっと少ないだろうけど連続して長い睡眠はとてもじゃないけど取れないだろう。
そんな状態じゃ疲れも取れない。
まだ眠気はないから大丈夫だろうけれど、これから探索してもし安全地帯が見つからなかったら上の階の安全地帯まで戻るのにこの長い通路をまた横断しなければいけない。
「……どうしたらいいんだろう……」
「きゅぅ?」
「ホホォ」
先に続く通路を警戒しているルー君が振り返って小首を傾げている。
ロウ君は逆側の通路を警戒してくれているのでそちらを向いていたけど同じく首をくりくり回している。
……もぅ2人ともすっごく可愛い。
なんだか思い悩んでいたのがだんだんと馬鹿らしくなってくる。
そうだよ、私にはこんなに可愛くて頼もしい2人がいるんだ。もうちょっと冒険してみよう。
先へ進むと決めたんだから!
「休憩が終わったら先に進んで見よう、ルー君、ロウ君」
「きゅい!」
「ホォ!」
その場で一回転して華麗な着地を決めるルー君。
翼を大きく広げて力強く鳴くロウ君。
うん、2人がいれば私は大丈夫。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
とかなんとか新たに決意した私を嘲笑うかのように、通路を進むとすぐ部屋を発見した。
階段の部屋から伸びていた通路には一切部屋なんてなかったのにこっちにはあるみたい。
その部屋は上の階の部屋とは全然違い、やっぱり大きい。
しかも中には変な彫像が部屋の入り口の反対側にいっぱい並んでいる。
ロウ君の『罠探知』が部屋の中に罠がないことを教えてくれているし、『気配探知』でも『敵』の反応はない。当然目視でも確認できない。
「なんだろうこの部屋……。変な彫像ばっかり」
「きゅぅ~」
「ホーホォ! ホォ!」
慎重に部屋に侵入し、彫像を遠巻きに眺める。
ルー君も私も立ち並ぶ変な像に首を捻るけれど、ロウ君だけがなにやら違う反応を示している。
もしかしてロウ君はこういうのが好きなのかな?
「ロウ君、どうしたの?」
「ホォ! ホォォ!」
「きゅ? きゅきゅい」
「ホホォ、ホ、ホォ!」
「きゅ、きゅぃ」
「あ……」
ロウ君とルー君との間で何やらやり取りが行われ、その結果としてルー君が部屋の隅にある彫像の方に走っていってしまった。
ロウ君は私の肩から離れず、ルー君が走っていく先をじっと見つめている。私もロウ君のそんな気配を感じながら、ルー君を目で追うだけしかできなかった。
……でも『気配探知』でわかっていてもルー君が側に居ないとやっぱり落ち着かないのですぐに追いかけたけど。
部屋の隅の彫像に走り寄った勢いのまま彫像を上ったルー君が彫像の頭の上でちょこん、とお座りして待っていてくれた。
途中から私が追いかけてきたことをちゃんとわかってくれていたようだ。さすがルー君。
「きゅい!」
「ホォ~」
「なになに?」
ルー君が器用に彫像の上で一回転して着地すると3本の尻尾で彫像の頭の側面を叩いている。
あんな足場の不安定なところで一回転とか、さすがルー君。格好いい。
ルー君が何度も尻尾で叩いた場所がちょっとずつ剥がれてパラパラ、と床に落ちている。
彫像を壊しているのだろうか? でもそれにしては今まで尻尾を攻撃に使うなんて事を1度もしていないので威力のほどはわからないけど、それほどの威力ではないように見える。
「ここを壊すの?」
「ホォ!」
「えっと……この彫像を押して倒したらいいかな?」
「きゅい!」
「あ、だめなのね。じゃあ……」
ルー君の尻尾攻撃では表面が若干剥がれるだけだったので私も参加することにした。
倒すのはだめらしいので銅の短剣の柄の部分でガシガシ殴って見ると、どうやら彫像はそんなに硬いわけでもなくすぐに皹が入って叩いていた部分がボロボロ、と落ちていく。
「……あ、もしかしてこれ?」
「ホォ!」
「きゅぃ」
何度も柄で叩いて彫像の頭を半分くらい壊したところで中から『古ぼけた鍵』が出てきた。
ロウ君はこれがこの彫像の頭に隠されていたのがわかっていたのだろう。
探知系のスキルを2つも持っているロウ君だけど、もしかしてもっと探知系のスキルを持っているのだろうか。
「ロウ君。もしかしてコレを見つけたのもロウ君のスキル?」
「ホォ! ホホ、ホォ!」
「そうなんだ……。すごいなぁ、ロウ君」
どうやら私に共有できるスキルではないみたいだけど、ロウ君のスキルで間違いないみたいだ。
ロウ君は探知系のエキスパートだ。本当にすごい。
手に入れた『古ぼけた鍵』を魔法の鞄に仕舞って他の彫像には何かないのかロウ君に聞いてみたが特にないみたいだ。残念。
でもなんであんなところに鍵が隠してあったんだろう? もしかして鍵のかかった宝箱とか扉とかあるのだろうか。あったら是非試してみよう。
「さてじゃあ先にすすもっか。
通路は3つ。私達が入ってきたながーーい通路に出るのと、左右に続く通路だね」
「きゅ……きゅい!」
「ホォ? ホホォ」
「きゅ? きゅ~……きゅきゅ!」
「ホォ……ホォ」
「決まった?」
「きゅぃ!」
2人に聞けばまた私にはわからない2人のやり取りが行われて結論が出たみたい。
ルー君が最初に決めた方――入ってきた通路側から見て左側――の通路に行くみたいだ。
ロウ君は逆側を提案したみたいだけどルー君が最終的に勝ったみたいだ。さすが先輩だね。
ロウ君も特に怒っている様子も不満に思っている様子もないので、気にしないでもいいかな?
「じゃあいこっか」
「きゅ!」
「ホォ!」
移動しようとした瞬間に『気配探知』に『敵』の気配が入ってすぐにルー君が警戒態勢を取り……現れた巨大ウサギはこちらを見つける間もなく燃え尽きた。
……さて進みますか。
GW連続投稿開始です。
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