contract-1-
「何が知りたいの?」
俯き、少しためらった後で続ける。
「俺と『雷神』との関係は? あるやつに言われた。さすが、雷神の……と。俺は誰なんだ? 『雷神』との関係は? 俺があの街、『雷神の街』、デルフィニジンにいたことは必然だったのかっ!?」
少年の想いを正面から受け止め、女性は―――
その女性は、
未弥は静かに告げる。
「私はあなたが誰だか知らない。あなたは誰なのか聞きたいのは私のほう」
「けど、あいつは。あの男は確かにそういったんだっ! 俺が、あの世界的な犯罪者ともいえるやつとの関係者だって! だったら俺は誰なんだよっ! 俺の両親が誰だか、お前ならわかるんだろう?」
漏れだすままに喋りつづける光の言葉。
それに、未弥は―――
「黙りなさい」
怒っていた
「何も知らない子供が。何もわかってない子供が。かぁくんとなっちゃんの悪口を言わないで。世界的な犯罪者ですって? 確かにある側面から見たらそうかもしれない。むしろそう見えるように動いてた節もある。けど、すべては…… あなたが誰であろうと、あの人たちを、彼らを馬鹿にすることは許されない。あなたが誰か? そんなの過去を調べればわかることでしょっ!?」
とても、怒っていた。
未弥は結局、「あの時」の真相を知らない。
知る勇気がなかった。
未弥の能力を使えば知る術もあるというのに。
それでも、腹が立った。
過去を汚された。
そう思った。
あの時期未弥は一番満ち足りていた。
それが幸か不幸かに関係なく。
だから、コイツの正体を明らかにしてやることにした。
「そんなの言ったって、俺の過去は俺にもわからないんだ…」
「誰もあんたに聞くなんて言ってない。私の能力を使えば過去が視える。それがモノだろうとヒトだろうと。その場に起きた記憶を視ることができる。だからあんたは黙ってじっとしてて」
「あ。ああ……」
少年は信じられなかった。
この女性は光の過去を視ることができるという。
そんな簡単にわかっていいのだろうか。
そんな簡単に辿り着いていいのだろうか。
少年の肩に、女性の手が置かれる。
・
・
・
・
「…………これってどういうこと?」
少年の耳に、女性の声が少し遠く聞こえた。
少しの間をおいてようやく尋ねる。
「……なんだって?」
「あなたはなっちゃんと一緒に暮らしていたの?」
「……なっちゃん?」
「菜摘。なっちゃん。あなたはなっちゃんと、ずっと一緒に? あなたは………だれなの?」
呆然とする未弥。
それ以上に混乱する光。
未弥は光が、雷神は世界的な犯罪者だと糾弾したときにそれを否定した。
かぁくんとなっちゃんの悪口を言わないで、と。
そしてなっちゃんは菜摘だとも言った。
自分の、母親は―――
雷神だとでもいうのだろうか。
『どういうこと……』
言葉が重なる。
この少年は菜摘と一緒に過ごしていた。
つい最近まで。
しかもこの少年の記憶に残っている限り昔から。
けど、わからない。
誰の子だ?
菜摘と………彼方?
いや、ありえない。
だって、あのとき、菜摘と彼方は………
だったら…どういうことになる?
この少年の記憶はどこまであるのだろう。
「あの場所」へ行けばわかるのだろうか。
この女の人は何を言ってるんだろう。
記憶を読んだのには違いない。
菜摘の存在など伝えていない。
しかし、菜摘が、雷神だと?
ありえない。
雷神とは、その名が偽りでなければ、能力者であれば、
それは〈雷〉だろう。
光は知っている。
菜摘の能力は〈氷〉だ。
施設にいるとき、かき氷には困ったことがないのだから。
しかし、雷神と無関係ではないのかもしれない。
雷神は複数との伝説もあるのだから。
だったらこの人の能力は相当役に立つに違いない。
二人の利害が一致した。
両方読んでいる人が何人いるのかはわかりませんが、
期せずして、
完璧ともいえるタイミングでこの話が。
あれ?
と思う人もいるかもしれませんが、それがいつ明かされることになるのか。
今自分が見つけたのでミスリードさせる部分が三か所くらい。
ホントに偶然。
まだあるかもしれませんし。
逆に他にあれ? って部分あるかもしれませんが、それは
私のミスやもしれません。