litmus-6-
「うぁーーーーふざけんなー」
「あ、どうだった」
「どうもこうもねぇよ。なんだあれ? 放任主義? 言ってはくれるんだけど、動くのはお前だ、みたいな? ほんとは隠された実力があるんだからできるだろ、みたいな? ついていけねぇよ。サム、お前もそう思うだろ?」
「ああ…むり」
「エルザは?」
「私は、一応強くはなれたし、明日の昇級試験が楽しみではあるかな? D級、受かりそうだから」
語尾が上がっていることからもエルザのテンションが上がっていることが周囲にも容易に察せられた。
「そういえばザヴァは?」
「あー、あいつ。初日にコーンムカデに噛まれたろ? クエストクリアできてないからって、今補習中」
「補習とか。あいつ、大丈夫かよ? 明日だろ? 今日またやられたら明日の試験に参加すらできないじゃん」
そう言って笑う。
「さぁね? でも自信満々だったよ。なんでかパチンコ見せびらかしてきたけど」
「パチンコ?」
「うん、どう使うのか聞いたけど。パチンコはパチンコだろって」
サリーは肩をすくめる。
一か月前にはなく、今ある空気。
互いの情報をもやり取りし、相互が高め合っていく。
そこに在るのは確かな自信。
マスターは安心する。
正直ここまでの効果は期待していなかった。
聞いている限り教え方はうまくなさそうだが、それでも彼らは成長している。
それが嬉しかった。
仕方ないとはいえ、申し訳なかった。
街の住人にも。
他の街に要請することにも。
だから今回のことはチャンスと思っていた。
ダメでもともとの気持ちだったのだが……
半分以上が明日の試験でランクがあがるだろう。
これまで以上に受けるクエストにも余裕が出てくる。
自分がここに固定されずにクエストを受けることも可能になるかもしれない。
「みんな、今日は早めに帰りなさい。明日に備えてしっかり体力を回復させておかないとね」
「えー、やだよ。ここのお酒美味しいし」
「そうそう。ここの酒を飲んでつぶれるのが楽しいんだよ」
………どうやらおいしく作りすぎたらしい。
マスターの胸に明日への一抹の不安がよぎった。
癒希は昇級試験の結果を見届けることなくリトマスを去った。
リトマスに菜摘の友人は見つからなかった。
どうやら最近引っ越したそうだ。
とりあえずクロロフィルへ向ったということだから癒希の目的地も自然とそこへ向うことになる。
―――少しだけ、わかった気がした。
彼らに教えているとき、じゃあ自分はどうなのか。
そう考えた。
自分は自分が対処できない相手と決めたらその瞬間に立ち去った。
それも一つの選択ではある。
近くにいる時間が長ければ長いほど気づかれるリスクも上がり、戦闘が避けられなくなる。
けれど、そのままでいいのか?
おそらく自分の成長が見込めない。
自分と同じ強さの敵と戦って、
実際に命のやり取りをして、
そこで得られるものもあるのだろう。
教えていた彼らもそうだった。
もちろん、そばで見守られていて死にそうになったら助けるつもりではいた。
自分がこれから命のやり取りをする時にそういった存在はいない。
私は、一人だ。
「光がいれば変わってたかな?」
ポツリ、呟く。
彼がいれば、相互に高め合う道もあったかもしれない。
旅に出ることもなかったかもしれないけど、
それでも。
いないから、いてほしいと望む。
いないから、探しに行くのに。
共にありたいと。
「会いたいな……」
その言葉は風に運ばれ―――
その時、一人の少年はとある女性と会っていた。
その女性の名は、未弥。
癒希の探し求めていた女性。
その少年の名は、光。
癒希の追い求めている少年。
少年は、女性に問う。
「俺は、誰なんだ?」
こっちは比較的ストックが少ないのでそろそろ…
そもそも更新頻度は遅いのだけれど。
ついに光が登場。
癒希の思い出の中ではなく。
しばらく主人公交代で。