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暁への導き手  作者:
第六話
39/68

(2)

『確かに、聞き届けました。

 私は貴方の決意が知りたかった。ただ、自分が死にたくないからという理由で王位にとどまりたいと願っていたら、契約を完全に切り、ミナさんを元の場所へ連れ帰ってミアの元へ戻っていたでしょう。

 ですが、貴方はちゃんと勇者の意志を継いでいる。貴方のためになら、勇者の時ほど完全には無理ですが、私に出来る限りの援助はいたしましょう。

 それでは、再契約を始めます。

 貴方のはめている指輪を、宝石の部分を前にして掲げて下さい』

「こ、これか?」

 セリクは戸惑いながらも、リオノスに言われた通り、拳を前に突き出すようにして、国王陛下から受け取ってきた指輪を向ける。深奈はそれを見て、国王はもしかしたらこうなることを予想していたのかもしれないと思った。

 セリクの言葉に、リオノスは頷くような仕草を見せ、宝石がはまっている場所にゆっくりと額を近づけた。リオノスの額が、指輪の宝石と触れた瞬間、閃光が弾けた。

 深奈は小さく悲鳴を上げて目をつぶる。

 しばらく経ち、目の痛みが消えるまではそのままでいた。もういいかな、と思って目を開けると、指輪が光輝いている。深奈は感嘆のため息をついた。

「綺麗」

『これで契約は完了しました。傷が癒えるまでは応じられませんが、治ればすぐにでも参じます。それより、王子は早くここを出た方がいい……異界を渡れる力のあるもの以外が長居すると、魂がこちらに引きずられて帰れなくなる』

「そ、そうなんですか!」

 深奈はリオノスのセリフに驚いた。アレフゲルダは、他の人間はそもそも異界の扉をくぐることが出来ないと言っていた。だが、セリクなら来られる可能性があると言っていたことは覚えている。しかし、そんなリスクがあることは今初めて知った。

 リオノスが今言ったことが本当なら、早く帰らなければならない。

「でも、どこに帰ればいいかな? ミアセラの町や離宮に戻っても、私を突き落とした誰かがいるだろうし、危なくないかな」

「それもそうだな……いっそのこと、王城に戻るか。そうすれば、ルグルー神官長に『ミアの涙』を預ける事も出来るし」

 セリクの言葉に、深奈は頷いた。

「わかった。じゃあそうしよう……」

 答えて、頭の中に王城の光景を思い浮かべる。特に鮮明に思い浮かぶのは、神殿の光景と、アミラにモフオンだ。同時に、ヴェインのことを思い出す。深奈は不安を覚えて集中を解いた。

「でも、ヴェインさんやアスルドさんを置いて行っても大丈夫かな?」

「わからない。アスルドは大丈夫だと思うが、ヴェインは怪我してるからな……けど、どれだけ心配しても、今あいつを動かす訳にはいかないから、少しでも早く呪いを解くことが必要だと思う」

 不安そうなセリクだったが、きっぱりとそう言いきった。確かに、彼の言う通り、早く呪いの状態から解放されることこそが、彼らを守ることに繋がる。深奈は「そうだね」と頷いて、再び集中を始める。

 すると、どこか冷たい雪の匂いがした気がした。

 目を開ければ、空間に亀裂が出来ている。

 扉が開いたのだ。

『私がここで休んでいる間に、ずいぶんと色々なことが出来るようになりましたね。本来なら、私がお教えするはずでしたが』

「アレフゲルダというひとが教えてくれました」

 不思議そうに問うてきたリオノスの質問に、深奈はそう答えた。彼の助言がなければ、今でもまだどうしたら良いのかわからず、何も出来ない足でまといのままだったろう。そう思うと、彼には本当に感謝しなくてはならない。すると、リオノスは面白そうな声を上げる。

『ほう、それは珍しい。彼は非協力的で、予言が良かろうと悪かろうと常に傍観者としての位置を変えないのに……やはり、彼も懐かしかったのかもしれません』

 感傷にひたるように、リオノスは言う。

『さあ、早くお行きなさい』

「はい! それじゃあ行こう」

「ああ。傷が治る時を楽しみにしています」

 セリクはリオノスにそう言い残すと、深奈が差し出した手を握る。深奈はリオノスにぺこり、と頭を下げてから、セリクとともに亀裂をくぐった。



  ◆



 途端、冷たい空気が肌を刺す。

「さ、寒い……でも、上手くいったみたい」

 深奈はぶるり、と震えて呟いた。亀裂を抜けて出た先は、王城の中にある神殿だった。耳に、水が流れるささやかな音が聞こえる。

「ああ。凄い力だな」

「セリク、何ともない?」

 深奈は心配そうに尋ねた。セリクは少し間を置いてから答えた。

「何ともない。長く感じたけど、それほど経っている訳じゃないみたいだ。この明るさはまだ昼前だし」

 言いながら、窓から差し込む光を眺める。深奈は平気そうな様子に、心から安堵した。同時に、まだ手をつないだままなのに気づいて、動転する。

 何だかとても恥ずかしい。なのに、まだ離して欲しくないような気がした。セリクは深奈がじっと手を見ているのに気づくと、慌てて離した。

「あ、ごめん。何か離す機会がなくてさ」

「い、いいの。別に、嫌じゃないし」

 深奈はうつむいて言った。離れてしまった手に残る温もりが寂しい。けれど、そんなことは言えず、突然生まれた感情について行けない。一体これは何なのか。

 とりあえずそれについては保留だ、と内心言い聞かせて顔を上げると、深奈は言った。

「何か、ここに来ると無理矢理連れて来られた夜を思い出すね」

「ああ、そうか。あの時は必至だったから、色々とひどい扱いをしたと思う。でも、あの時お前が声を掛けてくれて、嬉しかったよ」

 セリクはそう言って、淡くほほ笑んだ。

 深奈の心臓は止まりそうになった。その時、神殿の入り口から、聞き馴染んだ声が掛けられた。

「そこにいるのは誰です? ……ま、まさか、殿下、ミナ様! どうやって、まだお帰りにはならないはずじゃ……」

 混乱したような声は、エレ・ルグルー神官長のものだった。彼女は驚いた様子でなかに入ってくると、祭壇の前に佇むふたりを交互に見る。

 深奈はすぐさま「ミアの涙」を取り出すと、言った。



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