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暁への導き手  作者:
第三話
17/68

(3)


 深奈は、どう反応したら良いかわからずに硬直した。

 エレの丁寧な説明で、何をしたら良いかはわかったが、本当に出来るのかどうかなど、行ってやってみなければわからない。

 現在の深奈に出来たことは、セリクの腕の呪いを抑制したことだけだ。それが出来ただけでも、自分にはちゃんと彼らに必要な力があると確信を持てたので嬉しい。

 と言っても、本題の「銀竜の眠る地」を探せるかどうかは半信半疑だった。今聞かされた「ミアの涙」についても同様だ。そもそも、異界などという場所は見たことすらないのだから。

 深奈が何も答えられないことを見てとると、セリクが言った。

「とりあえず、グレマール湖に行ってみるしかないだろう。それと、俺も同行しようと思う」

 途端に、ロイゼ宰相をはじめとしたその場の全員の顔が渋いものに変わる。

「殿下、さすがにそれは……」

 無理だと言おうとしたロイゼ宰相に、セリクは厳しい表情で告げた。

「もし俺だけ残して行く場合、呪いが進行してしまう。この進行を遅らせられるのは導き手であるミナだけだ。彼女には側にいて貰わなければ困る。だが『ミアの涙』を探せるのは彼女だけ、それなら、俺の方がついて行けばいい、違うか」

「それは確かに……でも、殿下がお出かけになるには何か理由がなければ」

 そこで一同考え込む。

 深奈には色々とさっぱりなので、彼らが結論を出すのを見守るしかない。

「では、視察というのを口実にしたらいかかでしょう?」

 それまで、深奈と同じくほとんど発言していなかったアウローネが口を開いた。

「陛下も病にお倒れになる以前は、よく視察に出掛けられていました。この王都クース以外の領地は、各領主に自治権がありますが、中には圧制を行ったり、隣の領主同士による争いが絶えない場合もありましたから。

 将来の国王となるために、視察も経験しておくのは良い事でしょう。本当は、陛下がご命令なさるおつもりだったと思いますが……」

 そこでアウローネ王妃は口をつぐむ。

 深奈は、国王の病はかなり重いのだろうと思った。だからこそ、世継ぎに関わる話がこれほど出ているのだ。そうでなければ、セリクにはもう少し猶予があったはずだ。

「俺は賛成だ。あの辺りはリュトリザとの国境でもあるし、グレマール湖の水利権を巡って争いが絶えなかった場所だ。リオニア国王が目を光らせていると思わせた方がいいだろう。

 丁度、リュトリザ北部の州を治めている部族長が代替わりしたばかりでもあるしな」

 ラガザン将軍はアウローネ王妃の言葉を肯定しつつ、そう言った。

「そうですな……これ以上殿下の呪いが進行するのは良くない。それでは、護衛は?」

「俺が行く。軍の中でも、貴族出身の奴らがいる隊は信用出来ない。エヴァルトに抱き込まれてしまっている可能性が高いからな」

「ですが、貴方が王都を離れてしまっている間に、王城が彼らに乗っ取られたらどうします」

 エレが不安そうに言う。ラガザン将軍は唸って沈黙した。

 事情がわからないので、ただ話を聞くしかない深奈は、事態の重さをひしひしと感じていた。これほどまでに悪い状況だったなんて、と改めて感じる。

 リオノスが焦っていたのは、このこともあったからなのだろう。

 けれど、疑問も残る。

 こんなになるまで、なぜリオノスは動かなかったのだろうか。何か理由があったとしか、深奈には思えなかった。

「そうですな、将軍に王都を離れられては困ります。ですが……」

「俺なら、ヴェインとミナ、それからごく数人いればいい。何も大々的に行進しながら向かう必要がある訳じゃないだろ。派手な式典が必要なのは向こうについてからだ。護衛なら、グレネス伯の騎士や私兵に頼めばいい」

 セリクが述べれば、深奈を除いた全員が顔を見合わせる。やがて、ロイゼ宰相が疲れたような嘆息をしてから、言った。

「他に、方法はありませんか?」

 沈黙がその場を包んだ。

「仕方がない、それではそのように致しましょう」

 仕方がないといった風情で、ロイゼ宰相は言った。セリクは全く不安のない顔で頷くと「決まったな」と言って席を立ち、問う。

「宰相、父上の様子はどうだった。話くらいは出来そうだったか?」

「そうですね、話をする程度でしたら大丈夫かと。何かお話があるのですか?」

「『導き手』が現れたことと、心配はいらないということを伝えておきたいんだ」

 セリクの言葉に、宰相は切なげな顔をして頷いた。

「それなら大丈夫でしょう。一応、医師に聞いてから行けばなおよろしいかと」

「わかった。ミナ、一緒に来てくれ」

 唐突に話を振られ、深奈は困惑しつつも立ち上がった。

 どうやら話し合いはこれで終わりらしい。深奈は自分を指差しながら「私も?」と問うた。セリクが頷いたので、深奈はとりあえずエレやラガザン将軍にお辞儀しつつ、もう歩きだしてしまった彼の後に続いて会議室を出る。

 他には誰もついて来ない。自分が一緒に行ってもいいものなのだろうか。廊下を行く途中、深奈は聞いてみた。

「私も一緒にご挨拶していいものなの?」

「お前を見せなきゃ意味がない。ずっと、待ち望んでいたんだ……アレフゲルダの予言を受けてから。

 父上自身も、呪いを消そうと奮闘はしてきたんだ。でも、結局だめで、俺が生まれて呪いが代替わりするまでの間に、かなりの体力が削られて、結果として病に倒れてしまったんだ」

 深奈はふっと息をついた。

 あの時のセリクの苦しみようを思えば、どれほどの苦痛かは想像に難くない。それが、国王の寿命をも縮めたのだろう。

 この時も、深奈の中では疑問が生まれていた。

 なぜ、リオノスはセリクの代になってから現れたのか。どうしてもう少し早く現れなかったのか。知りたいと思った。リオノスは、この国を守護する者だと言っていた。なのに、こんな状況になるまで手を出せなかったからには、何か理由があるのだ。

 深奈はセリクについて歩きながら思った。

 どうしても、もう一度リオノスに会う必要がある、と。



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