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精霊戦記 -黄昏、そして輝き-  作者: osm_tkg
第1章 第4節
18/27

Ⅲ.精霊魔法

~ 精霊の森 ~


「清き水の精霊よ。その身霧と成りて、悪しき炎を消しさらん! ディエンセ・フォルガ!」

 レミューリアの突き出した両手から大きな水球が放たれ、直後に水の精霊リョウコによってそれは数倍に膨れ上がった。そして異形の火の精霊たちが踊り狂う大木の手前で、まるで爆発したように濃霧に姿を変えて、異形の精霊たちを次々に飲み込んで消滅させていく。

 並の精霊使いならば、その一発だけでかなり精霊力を消費してしまうが、レミューリアは並ではなかった。息を一つついただけで平然としている。しかも今はリョウコが手伝ってくれているため、精霊力の消費が少ない言葉による初級スペルを用いているのでなおさらだった。

「さて。次はと。ん? リョウコちゃん、どうしたの?」

 見るとリョウコが別の方向の空を見上げていた。

≪……来た≫

「? なにかあるの?」

 優以外には精霊の声は聞こえないので、レミューリアはリョウコが見上げている方角を見やった。そして空の異常に気付いた。

 始めは何か黒い雨雲のように見えた。そして徐々に近づくにつれ、何か巨大なものが渦巻いてこちらに向かって来ているのが判った。

「・・・ま、まさか」

 そして更に近付いてきて、陽の光をキラキラと反射させて大粒の雫を垂らしているのを見て取って、レミューリアはこの場にいない一人に毒づいた。

「ユウのバカ! またやったわね!」

 あれは大量の水の塊だ。あのままでは森が壊滅してしまう。懸命に消化活動をしている騎士たちも無事では済まないだろう。

「みんな逃げて!!」

 レミューリアは大声で叫ぶと、すぐに呪文に入った。さすがにあの量では、中途半端な呪文では間に合わない。レミューリアはオーバーラップ・スペルを発動させた。

 水を霧に変えるイメージを頭の中に描く。スペルを一音一音ばらばらにして、さらに母音と子音にばらす。それを発動させる呪文の数だけ行い、最も効率の良い順序に並べ変える。同時に風の精霊魔法を喉に発動し、自らの声を精霊魔法に昇華させ、オーバーラップ・スペルを紡ぎ出した。

「yhhhhhー! ffffrrrー!」

 それは既に人の耳では聞き取れない。しかも今回は全く同じ呪文を、実に30も重ねたため、紡ぎ出すスペルがハウリングを起こして空気が振動している。

 そしてそれは見えない力となって、森を飲み込もうとした水流にぶつかり、尽くを霧に変えていった。しかし状態を変えたとしても、その勢いと量を変えられた訳ではなかった。

 大量の濃霧が森を包み込んだ。消火にあたっていた騎士たちは突然のことにパニックに陥ってしまった。息をするのも苦しいほどの濃い霧に、一寸先も見えない。

「な! なんだ!? この霧はっ!?」

「て、敵の魔法攻撃か!? どこだ!?」

 何も見えないということが、より恐怖感を募らせる。無闇に逃げ惑う者や、堪え切れず剣を抜いて闇雲に振り回す者も出始めた。

「いけない! このままでは同士討ちになってしまうわ!」

 レミューリアは慌てて声を上げた。

「みんな落ち着いて! これは敵の攻撃じゃないの!! これは…」

「落ち着かんか!! 馬鹿共!」

 濃霧の中を大音声が響き渡った。サベンジ将軍だ。霧を吹き飛ばすかのような大喝に、皆ピタリと動きを止めた。

「無闇に動くな!! 精霊魔法隊! 風で霧を払え!」

 将軍の指示の後は、みな落ち着きを取り戻して、行動は迅速だった。精霊魔法隊の面々が、一斉に突風の精霊魔法を発動させ、霧吹き飛ばしていく。レミューリアも手伝ったこともあって、霧は急速に薄れていった。霧が晴れて辺りの様子が見えるようになると、どしゃ降りでもあったかのように濡れそぼった木々と、全身びしょ濡れになった騎士たちが呆然と立っていた。幸いなことに火はほとんど消火され、異形の火の精霊たちも姿を消していた。

「…まったく、もう!」

 レミューリアは濡れて頬に張り付いた金髪を、煩わしげに後ろへ払った。戻ってきたら盛大に文句を言ってやろうと、心に決めた。


 優は重い足取りで現場に戻ってきた。そしてその惨状を見て、深い溜息をついた。どうやら火災の方は鎮火したらしいが、森も騎士たちも濡れネズミ状態になっていた。

「ユウっ!!」

 予想していた声に、優は首を竦めた。そして振り向き様に頭を下げて謝った。

「ごめん! 悪かった!」

 先手を打って深々と頭を下げた優に、レミューリアは文句を言い掛けた口をパクパクさせて、二の句が継げなくなってしまった。言いたい事はいっぱいあるのだが、何となく気が削がれてしまって、結局何も言えずに大きな溜息をついた。

「……まったく、もう… 少しは加減してよね!」

「悪かった。まさか、あんなになるとは思わなかったから…」

 優は身を小さくして申し訳なさそうにした。そこへ笑いを含んだ声がした。

「やはり、おぬしの仕業か?」

 サベンジ将軍が、湿気を含んだ顎鬚を絞りながら近付いてきた。

「申し訳ありません。また加減を誤ってしまいました… とんだご迷惑を…」

 優が恐縮して言うのを、サベンジ将軍は笑い飛ばした。

「はっはっは! まあ、とりあえず火は消えたようだから、結果良しとするか! どうせ夏場だ、すぐ乾くだろうて」

「申し訳ありません… もう少し制御ができればいいのですが…」

「そうですね。本当にもう少し何とかして頂かないと」

 感情がこもっていないような抑揚の少ない低い声に振り返ると、宮廷精霊使いのサヴァントが立っていた。サヴァント・ロッド・スウ・ルーベルク。五大伯爵家の一つ、ルーベルク家の者である。ルーベルク家は、優れた精霊使いを良く輩出させてきた家系で、宮廷精霊使いを過去に何人も拝命してきた。サヴァントはそのルーベルク家の次男で、かの大精霊使いサリアの弟子でもあり、ルーベルク家の過去最高の精霊使いと言われていた。ひょろりとした長身で、痩せ過ぎなくらいの細面に、灰褐色の目だけは強い色を湛えていた。

「あなたの場合は被害が大きくなり過ぎます」

「そうよ! サヴァントさんの言う通り。いつも後始末が大変なのよ!」

 レミューリアも便乗して文句を言った。サリアの孫であるレミューリアにとって、サヴァントは言わば兄弟子のようなものだった。

「すみません……」

 肩を落として落ち込む優に、サベンジ将軍は励ますように言った。

「まあまあ、そう責めるな。その大き過ぎる力で救われたこともあるのだからな。ところで、サヴァント殿は今来たところですかな? 濡れずに済んだようだが?」

「…私は騎士団より前に到着して、この奥の方で消火しておりました。濡れなかったのは、直前で気付いて障壁を張ったためです」

 サヴァントは淡々と答えた。

「ほほう、さすがですな。…して、此度の火災はどう見られる? とてもまともな輩の仕業とは思えぬが…」

 サベンジ将軍は顔を顰めて言った。異形の精霊のことは部下から報告を受けていた。

「そうですね…私もあのような精霊は見た事がありません。もしや…」

 言い掛けたところに、付近の捜索に当たっていた騎士が慌てた様子で駆け寄ってきた。

「サベンジ将軍! 不審者を発見しました!」

 皆にサッと緊張が走った。

「む! 何処だ? 捕らえたか?」

「あちらの森の境界付近です。しかし、発見した時には既に息絶えておりました」

「そうか… とりあえず案内せい」

「はっ! あ、いや、しかし…」

 敬礼を返して行こうとしたが、その騎士は一瞬躊躇した。

「どうした?」

「いえ、あの、死に様があまり尋常ではないので…」

 そう言うと騎士は、レミューリアの方をチラッと見た。レミューリアはその騎士が自分に気を使っているのが判ると肩を一つ竦めて言った。

「私のことはお気遣い無く。尋常でないものはいくらでも見てきたから」

「…そうですか。では、こちらです」


 案内されていったのは、森の境界、一歩出れば“乾きの地”という所だった。

 その死体を見た時、皆一様に息を呑んだ。

 それは、ミイラだった。しかし、長い年月を掛けてミイラ化したものではない。死体の口元や衣服に染み込んだ吐血の跡は、まだ鮮明な色を残しており、死んで間もないことを物語っている。しかし、肉体はほとんどが骨と皮だけの状態に干乾びていた。断末魔の叫びを上げたように極限まで見開かれた眼球が、恨めしげに優たちを見上げていた。

「…これは、いったい…」

 優は愕然と呟いた。戦場で無残な死体は数え切れないほど見てきたが、このような死に方は初めてみた。さすがのレミューリアも直視していられず、顔を背けた。

 サヴァントは表情も変えずに落ち着いて近付くと、その死体を検分した。

「…どうすれば、そのような死に方になるのだ? サヴァント殿?」

 検分が終わって立ち上がったサヴァントにサベンジ将軍は訊いた。

「どうやら、精霊力を全て吸い取られたようですね」

「精霊力を? では、この者は精霊使いだったのか? 何処の手の者だ?」

「このローブは帝国の精霊使いが好んで着用しているものです。断定はできませんが、恐らく間違いないでしょう」

「うむ。では、あの異形の精霊たちも、この者が? しかし、何故…」

 サベンジ将軍の問いに、サヴァントは少し考えるように腕を組んだ。

「以前、何かの書物で読んだ覚えがあります。いにしえに世に災いをもたらした混沌の精霊魔法。それは自らの精霊力を糧にして用いられると… 精霊使いにとって、精霊力は生命力と等価です。混沌の精霊魔法を発動させるのに、自らの精霊力を奪われたのでしょう」

「混沌の… では、やはり、あの噂は本当なのですね? 再び“封印の扉”が開かれようとしているという…」

 厳しい表情で言うレミューリアに、サヴァントは無言で頷いた。

「でも、そんな邪悪な力を持った者を、“森”が易々と通すとは思えないけど…」

 精霊の森には、精霊王の意志が働いていると言われている。森自身が強力な結界を張っていて、決まった場所以外からは森に入ることはできない。また森に害を為そうとする者も察知して森に入ることを拒むのだ。

「それについての答えは、既に見付かっています」

 淡々と答えるサヴァントに、レミューリアは問い掛けるように首を傾げた。

「これから案内致しましょう。その前に…」

 サヴァントは死体に右手をかざすと、短くスペルと唱えた。直後にその死体は白い炎に包まれた。炎が白いということはそれだけ高温であり、死体は見る間に形を失い、灰となって消えていった。

 サヴァントの案内で現場に着くと、皆再び愕然とさせられた。

 森に穴が穿たれていた。幅10メートルほどが、まるで爆発でもあったかのように根こそぎ抉り取られ、向こう側の“乾きの地”が見えていた。

「ひどい……」

 レミューリアは悲痛な囁きを洩らしたが、すぐにそれは激しい憤りに変わった。確かに森の結界は、森の木々によって形成されているので、結界を破るには、その木々を排除すればいい。しかし、全ての精霊の源である精霊の森に、そのような不届きな行為を行うとは信じられなかった。

「帝国のれ者どもが! なんたることを!!」

 サベンジ将軍も許されざる行為に及んだ帝国に対して、怨嗟えんさの言葉を吐き出した。

 優もこちらの世界にとって精霊の森がどれだけ重要であるかを理解しているので、信じられない思いでその惨状を見ていたが、ふと気付いたことがあった。

「これは、内側からですね」

 良くみると、折れた草花や、薙ぎ倒された木々が、一様に外に向かって倒れている。これは森の内側から外に向かって力が働いたことを示している。それを聞いたサベンジ将軍は更に声を荒げた。

「なにっ!? ということ、手引きした者が王国内にいるということか!」

 サヴァントも僅かに眉をしかめた。

「しかも、かなりの精霊魔法の使い手ですね。これだけの範囲を一撃で吹き飛ばすのですから」

「うむむ。すぐに王国内を詮索させるか」

 サベンジ将軍は早速同行してきていた騎士に、城に戻って、各関所から最近入国した者の中で、特に精霊使いを洗い出すように指示を出した。

「しかし、ここはどうしますか? この結界の綻びからまた潜入してくるかもしれませんが。警備を派遣させましょうか?」

 優が提案すると、サベンジ将軍は腕を組んで考え込んだ。

「致し方ないな。 木々が生え揃わなければ結界は修復されんからな… しかし苗木を植えるにしてかなり時間が掛かる話だな。詰め所も近くに設けなければならんな……」

 優とサベンジ将軍が今後の騎士団の配置について話している間、レミューリアは折れた草花を悲しそうに見詰めていたが、不意に何かを思い出したように顔を上げた。

「そうだわ! あれがあった! ユウ、サベンジ将軍。いい手があったわ!」

「どうした? レミューリア? いい手って?」

 優の問い掛けにも答えずに、レミューリアは辺りの茂みを忙しなく探し回った。

「あっ、あった! これがいいわ。 ちょっとユウ、手伝って!」

「なに? 何があったんだ?」

 優が近付いて、レミューリアが示している茂みを覗き込むと、そこには背丈が30センチほどの小さな木が一本あるだけだった。

「この木か? これがどうしたんだ?」

「いいから。とりあえずこの木を、根を傷めないように掘り起こして」

 何が何だか判らないが、優は他の騎士達と協力して、その小さな木を慎重に掘り起こした。そして、レミューリアに言われるままに、それを穿たれた森の傷跡の所に、丁寧に植え返した。

「これでいいのか?」

「ええ。いいわ。じゃあ、ちょっと下がっていて」

「どうするんだ? この小さい木で結界が戻るのか?」

 優が不思議そうに訊くのを、レミューリアは小さく首を振った。

「もちろんこんな小さいのじゃ無理よ。だから大きくする(・・・・・)の」 

 さらりと言ったレミューリアに、優は一瞬キョトンとしたが、意味が判って驚きの声を上げた。

「ええ?! 大きくするって、この木を?? 精霊魔法ってそんなこともできるのか??」

 話を聞いていたサベンジ将軍も驚いて、隣に佇むサヴァントに問い掛けた?

「そんな精霊魔法あるのか?」

「いえ。私もそのようなものは聞いたことはありません」

 サヴァントも無表情のまま、小さく頭を振った。

「私もできるかどうかは正直判らないわ。でも小さい頃に一度だけサリアおばあちゃんに見せてもらったことがあるの。それを試してみるわ」

「一度だけ? まだ覚えているのか?」

「…たぶん、ね。確か五大要素に働き掛けてやっていたわ」

「五大要素っていうと…えーと」

 確か前に聞いたことがあるような気がするが、はっきり思い出せないでいると、レミューリアが呆れたように言った。

「もう! 忘れちゃったの?? ちゃんと教えたじゃない!」

「うっ。悪い……」

 優は精霊魔法の取得はほとんど諦めていたので、あまりちゃんと覚えていなかった。

「空、土、火、水、風、ですよ」

 サヴァントが助け船を出した。

「あ、ありがとうございます。で、何か手伝えることはあるか?またリョウコたちに手伝わせるか?」

「ううん。今回はいいわ。ユウがいてくれるだけでもだいぶ違うから」

 優が居るところには自然と精霊たちが多く寄ってくるので、あえてリョウコたちを呼ばなくてもよかった。

「じゃあ、やってみるわ」

 そういうとレミューリアは表情を引き締めて、植え替えた木の傍らに立った。大きく深呼吸すると、ゆっくりと両手を足元に翳した。

<…大地を司る慈悲深き地の精霊よ…この小さきものに命の肉を与えたらん……>

 それを聞いた優たちは訝しげな顔になった。何故ならレミューリアの唱えた呪文が聞いた事のない言葉で全く理解出来なかったからだ。

 そして聞き慣れない呪文が終わると、地面から鈍いオレンジ色のぼんやりとした光が現れて、レミューリアの両手の直下で停滞した。

「これは…ハイエルフの古代精霊魔法…」

 サヴァントだけは、それが一般的には失われたハイエルフの古代精霊魔法であることに気付いて驚愕していた。確かサリアはハイエルフの血を受け継いでいると聞いたことがあった。それで古代精霊魔法も知っていたのだろう。しかし、それをたった一度見ただけで再現できるレミューリアの精霊使いとしての才能に舌を巻く思いだった。

 次にレミューリアは両手を開いて水平に翳した。

<水脈を司る清浄なる水の精霊よ…この小さきものに命の血を与えたらん……浄化を司る紅蓮なる火の精霊よ…この小さきものに命の力を与えたらん…>

 右手に水色の光、左手に赤い光が現れた。そして、レミューリアは両手を頭上に掲げた。

<息吹を司る疾風なる風の精霊よ…この小さきものに命の吐息を与えたらん…運命を司る荘厳なる天空の精霊よ…この小さきものに命の時を与えたらん……>

 さらに、白い光と、金色に輝く光が現れて、ちょうど五角形の頂点を示すような形になった。レミューリアは両手を胸の前で組むと祈るような形で、目を閉じて呪文を続けた。

<我は、創世はじまりの民に連ぬる者なり……我は願う。この小さきものを成長せしめんことを…>

 すると、空中に留まっていた光たちが、五角形の中心を軸に、ゆっくりと回り始めた。そして、それらは回りながら移動して小さな木を取り囲むと、回転速度を上げて、遂には光の輪となった。

 それからの変化は劇的だった。光に囲まれた小さな木が、一度ビクリと震えたかと思うと、徐々に成長を始めた。背丈の伸び、次々に枝が別れて生い茂っていく。そして見る間に仰ぎ見るほど大きくなってしまった。

 皆呆然として声も出せなかった。目の前の出来事が信じられなかった。

木の幹も大人が一抱えするくらいまで太くなり、森の他の木々と同じくらいになったところで、光の輪は弾けるように消えていった。

 森に静けさが戻った。その大木はまるで最初からそこにあったかのように、風に葉を揺らしていた。暫くは誰も動けなかった。しかし、祈るようにしていたレミューリアがぐらりと体勢を崩したのを見て、優は反射的に飛び出して、地面に倒れ込む寸前でなんとかレミューリアを受け止めた。元々白い顔が更に青白く見えた。

「レミューリア! 大丈夫か?!」

 優が同様して言うと、レミューリアは薄っすらと目を開けて、弱々しく微笑んだ。

「…大丈夫よ…ちょっと…疲れただけだから…でも、うまく、いったでしょ?」

 返事が返ってきたことに少し安心した。

「ああ。すごいな! まだ信じられないよ!」

「うん…よかった。間違えてなかった。…もう大丈夫よ。あとは森が自分で結界を修復するわ」

 レミューリアは立ち上がろうとしたが、再びふらついて、慌てて優が支えた。

「無理するな。だいぶ力を使ったんだろう? ほら、背中におぶされよ」

 すると優は有無を言わさずレミューリアを背中に背負った。レミューリアは赤くなって慌てて言った。

「ちょ、ちょっとユウ! 自分で歩けるったら! 降ろしてよ!」

「そんなにふらついてて何を言ってる。遠慮するな。ほら、行くぞ。ちゃんと掴まってないと落ちるぞ」

 そう言って歩き出したユウの背中に、レミューリアは慌ててしがみ付いた。

「もう! 強引なんだから…」

 一応文句を言ってみたが、本当は嬉しくもあって、優の背中に身を預けた。そうして暫く行くうちに、優の広い背中が気持ち良くて、レミューリアは安らかな寝息を立て始めたのだった。

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