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四葉のクローバー 6

翌朝。

(今日はついに祭りの日だわ。忙しくなるわね)

昨日よりもっと忙しくなるだろう、とエプロンを付け腕まくりして気合いを入れていると、後ろからメイフェアさんの声がかかった。

「今日は食堂の方はいいよ、エレイン。祭りに行っといで」

「えっ、でも―――」

「いいから!食堂の方は何とかなるよ。近所の主婦たちが手伝いに来てくれることになってるからね。それにあんた、“花娘”になるんだろ?」

「はっ!?」

(“花娘”っ!!そういえば、そんな話あった…。すっかり忘れてた)

全身の血の気が引く。

そんな私の様子に気づかず、メイフェアさんがにこにこと私を廊下に押しやる。

「ラルフがエントリーしといたって言ってたよ!今、二階の作業部屋で他の娘たちが衣装に着替えてる最中だから!ほら、あんたも行った、行った!」

ぐいぐいと強い力で階段に追いやられる。

力でメイフェアさんにかなうわけがない。

(い、いや~~っ!!)



(“花娘”だけは勘弁してほしい…)

どうやって断ろうか、と頭を悩ませながら階段を上っていくと、

「あ、エレインさん!」

と、若い女の子が駆け寄ってくる。

昨日一緒に花束づくりをした女の子だ。見ると、二階の廊下には白いドレスを着て花冠をかぶっている若い女の子たちの集団がたむろしている。

みんな15,6の若々しい女の子たちだ。

ドレスも、腕や足の露出の多い、若い娘じゃないと抵抗があるデザイン。

(この中に混じってパレードに…絶対無理!!)

「エレインさんも一緒にパレードに出るんですよね!衣装と冠は作業部屋に用意してますよ。他のみんなはもう着替えちゃったんで、早く着替えて階下に下りてきてくださいねっ」

にこにこと教えてくれる。

「…はぁ、いや…まぁ…」

私は思いっきり顔を引きつらせながら、前を通っていくキャピキャピした集団を眺めた。


「あ!そうそう!」

階下に行きかけたその顔見知りの女の子が、思い出したように私の前に戻ってきた。

手に持った巾着から、小さな紙袋を取り出す。

油紙でできたそれから取り出したのは、真っ赤な小さな塊。

「練り飴です。祭りの日に屋台でたくさん売られるんですよ。色んな色の飴があるんです。これ、エレインさんにおすそわけ」

指先でつままれたその飴は、着色料をふんだんに使っているらしく、毒々しいほど真っ赤っ赤だ。

練り飴を油紙に包み直し、「ハイ」と手渡してくれる。

そして耳元でこそっと囁いてくる。

「この飴を舐めて恋人とキスすると、お互い唇が同じ色に染まっちゃうんですよ」

誰と誰がキスしたのかバレバレになって、みんなから囃し立てられる。祭りの風物詩の一つだという。

「祭りの間、カレの浮気を防ぐのにも最適です♪」

と、可愛らしく片目をつぶる。

つまり、マーキングというわけだ。

(若い女の子ってのは、可愛い顔して策士だわ)

今日の祭りでも、可愛い恋人にねだられて、唇を色んな色に染める若者が後を絶たないことだろう…。





(あれっ?ユーグ?)

女の子たちがいなくなった廊下の先を見ると、こそこそと辺りをはばかりながら作業部屋に入り込むユーグの姿が。

何か怪しい…と思い、壁に身を寄せて隠れていると、しばらくしてユーグが廊下に出てきた。

(!?)

ユーグは女の子の着替えを勝手に拝借したものか、小花柄の黄色いワンピースを着て、薄いピンクのチーフで短い髪の毛を隠している。もともと小柄で女顔なので、違和感なく15,6の可愛い少女に見える。

(何てわかりやすい…)

おそらく、ラルフ殿下に認めてもらうために、女装して賊の中に入り込んで一人で事件を解決するつもりなのだろう。

隠れている私に気づく様子もなく、こそこそと、音を立てないように階段を下りていった。

(危なっかしくて、ほおっておけないわ…)

ここで声をかけると、口論になってしまい階下にいるみんなに気づかれてしまうかもしれない。

(女装姿をみんなに見られたくはないだろうなぁ…)

せめて人目のつかないところで話をしよう、と私もこっそりと彼のあとを追った。




「ねぇ、ユーグ」

「う、うわっ!!」

街外れの空き地の傍までついてきて、私はユーグに声をかけた。

ここまでくると、祭りの日とはいえ、人通りもなく閑散としている。

ユーグは飛び上がらんばかりに驚き、振り向いた。

「な、なんだよっ!!お前かっ!!なんでついてきたりしたんだっ!!」

「戻りましょう。一人で無茶をしてはダメよ。賊は何人いるのかわからないんだから」

「うるさいなっ!ほっとけよっ!ラルフ兄だって一人で事件を解決してきたんだからっ」

ユーグは顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

頬が赤くなって、子どもっぽさが増した。

「あの方は普通じゃないのよ…。とにかく戻りましょう。潜入するにしても、みんなと話し合ってからでないと…」

「話し合ってからじゃ遅いんだよっ!こうしてる間にも、奴らは逃げてしまうかもしれないじゃないか!」

「ユーグ…」


唾を飛ばす勢いでまくしたてるユーグはもちろん、私も説得に夢中でまるで気がつかなかった。

怪しい気配が近づいてきているのを。


バサバサッ!


「きゃっ!な、なにっ!?」


いきなり目の前が真っ暗になった…と思ったら、あっという間に天地が逆さになる。

誰かに担ぎ上げられたのだ。

どうやら大きな麻袋を頭からかぶせられて、荷物のように持ち運ばれているらしい。

体がぐらぐらと揺れる。ユーグがギャーギャーと騒ぐ声がくぐもって聞こえた。


「ちょっとっ!!降ろしてっ!!離してよっ!!」


手足をバタつかせると、暗闇の外から下品な笑い声が聞こえた。

「へっへっへっ。おとなしくしてな、可愛い子ちゃんたち。こんな人気のないとこに来たのが運のツキだったな。これからお前らは外国に売られるんだよ」

「!!」

すると、こいつらは賊の一味…!


(期せずして、ユーグの無謀な計画があたってしまったらしい…)



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