伯爵家のメイド 15
月明かりの中、3人頭を寄せ合って計画を練った。
「審査官は明日の正午ごろ屋敷に到着する。エレインは、その少し前に伯爵夫人を部屋から連れ出して小屋にかくまってくれ。見張りに見つからない抜け道は後で教える」
「わかったわ」
「問題は犬だな。犬を敷地に放しているのは夜だけだが、伯爵夫人の部屋の近くに犬小屋がある。近づいていって騒がれると面倒だ」
「殺してはダメ!料理婦のマーサさんがいつも残飯をエサに準備しているわ。そこに眠り薬を混ぜればいい」
「できるか?」
「ええ。やるわ」
男はニヤリと笑った。
「のみ込みがいいな。頭のいい女は好きだ」
「…」
無視。
貴族の男の甘い言葉は聞き流すに限る。
アレンさまの友人だというからには、この男も貴族だろう。
察するに、どこかの貴族の気楽な三男坊、といったところか。
アレンさまに対するのと同様に敬語を使うべきだけど、出会いが出会いだったから、ついぞんざいな言葉づかいになってしまう。男もどこかそれを面白がっているふしがある。
「協力するんだから、ウサギを返して欲しいわ。母の形見なのよ」
「お守りなんだろ?事がすべて済むまで俺に預からせてくれないか。俺のことも守ってくれるかもしれないだろ?あんたのかわりに」
厚かましい男だ。
「女性を口説くのは、すべて終ってからにして下さいよ」
またアレンさまが呆れ口調で口をはさむ。
「そうか。じゃあ、終ってからだな。エレイン、安心していいぞ。事は簡単に終るから」
「はぁ…」
伯爵家襲撃は明日だというのに、こんなに緊張感がなくていいのだろうか…。