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伯爵家のメイド 11
(疲れた…)
モリーを見送り、どっと疲れが出て椅子に寄りかかる。
(あんなおせっかいなことを言うなんて、まったく私らしくない…)
あの男に会ってからというもの、どうも調子が狂う。
我関せずを貫く、というのが私のモットーなのに…。
「男前だな」
小屋の外から、あの男の声と小さな拍手の音が聞こえる。
どうやらまた小屋の外に潜んでいたらしい。
また盗み聞きされたのかと思うと気分が悪い。
「…モリーとアレックは駆け落ちするかもしれないわ。それで屋敷が大騒ぎになって、あなたたちの計画が狂おうと、私の知ったことではないわね」
壁越しに声をかける。小屋の中に入れてやる気はまったくない。
「あなたたち貴族は、私たち使用人のことなんて同じ人間と思っていないんでしょう。取替えのきく消耗品だと思ってる。
それと同じ。私だって、貴族の世界がどう動こうと、爵位が誰の手に渡ろうと興味がないわ」
「…」
壁をはさんだ内と外でわずかな沈黙が流れる。
「…駆け落ちを邪魔する気はねぇよ」
一言をのこして、小屋の外から気配が消えた。