ゆるぼ:親友が意識し始めた時の対処法
デート後の話です
しずく視点
「しずくー、おひさ」
「ん?あやめじゃん。おひさって程でもなくない?」
机に座っていると、手を振りながらあやめがやってくる。何か意味ありげな目でじっと見てくる。えっ、なに?
……こういうときってだいたい透関係なんだけど。
「なんかさ、豊月がさ。心ここにあらずって感じなんだけど」
あやめは顔で、透の方を示した。
ほら来た。にしても、どういう状態なんだろ。パッと透の方を見ると、ぼーっと窓の方を見ている。そんな物憂げなキャラだったか、お前。
……俺が絡むまではあんな感じだったっけ。
今日は一緒に登校したわけでもないんだけどなんかあったかな。
いや、いつも一緒に行ってるわけではないけど……!
「こういうのってしずく絡みでしょ」
「なんもないけど」
「そう?なんかたまにほっぺ擦って変な顔してるんだけど」
ほっぺ?なんかあったっけな。最近したことと言えばデートか。楽しかったな。
その時にほっぺ…………あっ。
顔が少し熱くなる。
……あいつ、俺のキスのこと思い出してないか!?
――思わず、唇に手が触れた。あの感触を思い出す。
「あー……そういうことか」
あやめは納得したように深く頷いた後、にやにやと目を細めて笑う。
「……なんだよ」
「いやー、しずくもやるなあって」
「うっさい」
プイっと、顔を背ける。透の方を見ると確かにたまに頬に手を当てている。なんかこっちも恥ずかしいだろ。
「しずくさあ、そろそろ豊月のこともらってあげたら?」
透のことを眺めてると、普段と違って真剣なトーンであやめは言う。椅子に座って、背もたれに顎を乗せながら。
「もらうってなんだよ」
「いや、はよ告りなよ。もう豊月のこと、しずく色に染め上げちゃってるんだし」
「……言い方どうにかならない?つーか、俺たちは親友だから」
「え、それまだ言い訳にしてんの。悪女過ぎ」
……悪女、悪女かあ。透の人生はめちゃくちゃにしてやりたいから、あってるんだけど。
っていうか、人のことをでかい犬って言ってたんだから舐められたみたいなもんだと思えばいいのに。
……まあでも、虜にしてやるって言ったしな。それと、俺を意識してくれているなら嬉しいかも。少し頬が緩んだ。
「なんか豊月の前でそういう表情見せるだけで、コロッと行きそうだけど」
「何の話?」
「恋する乙女の表情だねってこと」
「してないけど」
「いーや、してるよ」
椅子を普通に座り直して、あーあ暑い暑いと言いながらパタパタと顔を腕で扇いでいる。
なんか日を追うごとにこいつうざくなってない?
「つーかさ、あやめは作らないの?恋人」
「うーん、どうだろうね?」
「なんで曖昧なんだよ」
「いやー、さすがにしずくと豊月見てると、ここまでラブラブにはなれないなって」
「誰がラブラブだ」
「んー、糖度高すぎて糖尿病になるかな」
「オタクのツッコミ?」
あやめの方が美人なのに、そういった噂を聞いたことがない。改めて、こいつの綺麗な顔をまじまじと眺める。じっとしていると、本当に綺麗な人形みたいだ。
あやめと目が合う。頬杖をついて、口を開く。
「で、実際何があったの」
「へ?」
「豊月と。いや、頬にちゅーしたのはわかったけど」
「はっきり言うなよっ……デートしただけだよ」
あやめがピシリ、と固まった。頬杖をやめて、「え」と言いながら小首を傾げている。
「デートしてほっぺにちゅーしたの?」
「………………そうだけど」
「しずくもわかってると思うけど、もう親友のラインを越えてるでしょ」
「……まあ」
……それはもう正直わかってる。でも、まだ三か月の期限まではそれ以上踏み込みたくはない。
あと、デートの時の……キスは衝動でやったし。その、ほっぺだし。
「今の関係が壊れるのがいやってやつね」
まるで心を透かしたみたいに、あやめの視線が刺さる。そういうところも性格が悪い。
「……悪いかよ」
「んーん、なんか青春っぽくていいね」
「そうかよ」
なんか、生暖かい視線になってきた。親じゃないんだから。
誤魔化すようにシャーペンを出して、芯の長さを確認する。カチカチ、と伸ばしてから戻す。
「そういやさ、もう少ししたら夏祭りあるけどしずくは行くの?」
「……浴衣着て、透に見せに行けって?」
「はは、そこまで言ってないけど」
深読みしすぎ、とあやめはけらけら笑う。
でも、どうせそういうこと言うくせに。少しイラッとしたのでデコピンしてやる。
「いたっ……ひどい」
「うっさい。……夏祭りは行かないんじゃね」
「なんで?」
「あれって最後に花火上がるじゃん」
「そだね」
「だからその……」
透のやつに浴衣を見せて反応を見たい気持ちもある。今の透ならすごい反応してくれそうだし。
そのまま屋台を回って、間接キスとか匂わせて……そしてそのまま最後に人気のないところに行って花火を見ることになると思う。
そしたらさ、なんか気持ちが高ぶったとか、その場の雰囲気できっと……俺は我慢できなくなってしまうから。
……だから、その言葉の先を言えなくて黙り込んだ。
あやめも何か察したみたいで、それ以上は踏み込んでこなかった。
ただ、最後に一言。
「思い出なんか作り得でしょ」
と呟いた。
あの時に買ってもらったイルカのネックレスを思い出して、それもいいかもしれない、と思い直した。
◇◇◇
それにしても、もう妖精に直談判してもいいかな。透、明らかにあれだし。ほら、またほっぺ触ってちょっと赤くなってたし。
「おはよう、契約者!」
「うわっ、うるさっ」
学校から帰って部屋でぼーっとしてると急に妖精が出てきた。乙女の部屋に急に入ってくるなんて。
「お前が契約について考えてそうだったから来ただけだが」
「そういうのわかるのかよ」
「そうだな。ちゃんと契約するのか?」
「んー……してもいいかなと思うけど。ちゃんと契約したら、やらないといけないことってあるのか?」
そう、気になってるのはここだ。透の情緒を乱すことに必死であんまり考えていなかったけど、戦いに巻き込まれたりとかはしたくないし。
「ないぞ」
「ないのかよ」
あっさりと解決してしまった。じゃあ、なんで魔法少女にしたんだよ。
「契約者は幸せそうだからな」
「……ん?」
「魔法少女にしてほしいことは幸せを集めてもらうことだが、契約者は普通の人間よりも数倍幸せそうだ。だから問題ないぞ」
「…………どういうこと?」
えっ、幸せだといいの?っていうか、数倍幸せって何?
「だって魔法少女じゃなくなると、今みたいにラブラブできないだろ?」
「ラブラブじゃねーよっ!」
「えっ、あれが……?」
「ってか、何見てんだよっ!」
えっ、俺が透にあれこれしてたのとか全部見られてんの?
……抱きついたり、ほっぺつねったり、デートの時のそのあれも……?
「まあ、ともかく。幸せをたくさん集められるなら問題ないってことだ」
「……そうかよ」
「まだ来るから、正式に契約するか決めとけよ」
「はいはい」
妖精はパッと消えていった。急に出てくんなよな。
これさ……俺が透といると幸せすぎるって言われてる……?顔が熱くなる。
あーもう!人の心を揺さぶってくんなこいつら!
いやでも、正式に契約伸ばすならこれ以上のラインを踏み越えてもいいのかな。
……余計なことを考えそうだったので、一度ベッドに身を沈めた。夏祭りは行ってもいいかもな。
あいつと二人で花火に行く景色を脳裏に思い浮かべて、目を閉じた。
なんかこの案ぐらいで終わろうかなと思ってたのに夏祭り回が始まりそうで横転しています
気長に待ってくれると助かります




