デート
タイトル通りです。
本編完結後にデート回を載せる常識では考えられないラブコメ
鏡を見る。そこに映ってるのは俺……いや私、雨霰しずくだ。こうやって起きたら自分の顔をじっと見ることも習慣になってしまった。前は適当だったのに。
ペタペタと肌を触ってみる。いつも通りすべすべだし、髪だってさらさらだ。
美少女なはず、だよなあ……。あんまりあいつ――透はそういうことを言ってくれないけど。ちょっとムカつく。
っていうか、どうせあやめのことは綺麗とか思ってそうだし。……あやめのやつ、豊月のこと気になるとか言ってたけどそういうことじゃないよな?
……いや、あやめに振り回されてもあいつの人生めちゃくちゃになるけど。それは嫌だな。
「お姉ちゃん、いつまで鏡見てんの」
妹から呼ばれて、ハッと我に帰る。いかんいかん、考えすぎた。
「ごめん、もうどくから」
「デートなのはわかったからさっさとどいて」
そう、今日はあいつとのデートだ。……虜にしてやるなんて言ったけど、ずっと俺の方が揺れてるから今日はこっちから仕掛けてやる。
「……なあ、妹。俺ってかわいいかな」
……でもやっぱり不安になってしまう。あーくそっ、なんか最近こんなんばっかだ。
「かわいいからはよどけ、バカ姉貴。心配しなくても豊月さんはお姉ちゃんにしか興味ないと思うよ」
「……そっか」
こういうときに思わず頬が緩んでしまうのも、ちょっと嫌だ。
妹に無理矢理どかされて、部屋に戻って準備をする。
問題は服装だ。あいつに一撃かますぐらいのやつが欲しい。
狙い過ぎも違うんだよな。ちょっと油断も誘いたい。そうなると上はポロシャツでもいいかな。
下はショートパンツ。あいつぱたぱたさせたらめっちゃ見てるし、足好きだろうからさ。……ミニスカートはまだ慣れないし。
スポーティにまとめたいから、キャップを被って髪を後ろにまとめて……うん、たぶんいい感じだと思う。……いいよな?
深呼吸する。私はかわいい私はかわいい、よし。室内は寒いかもしんないから、薄手のパーカーでも羽織る。
「いってきまーす!」
そのまま勢いで家を出た。まだ時間はある。でも家でじっとしてられなくてつい出てしまった。デートで集合時間よりも早く来るのってこういうやつなのかもな。
行き先は水族館だ。あいつが出した案だし、やっぱペンギンとか見たいしさ。
水族館の前の時計で待ち合わせだっけな。まだ時間はあるしゆっくり行くと、そこにあいつが立っていた。え、早いだろ。お前、そんなタイプだっけ。
「おーい!」
手をぶんぶん振って、あいつに駆け寄る。顔を上げたあいつはこっちを見て固まった。……え、なんだ。俺って変だったりするか?
「おーい、聞いてますかー?豊月透くーん」
「……そのわざとらしいのやめてくれる?」
「お前が固まるからだろっ!」
いつも通りの透だった。さっき固まってたのはなんだったんだよ。
「つーかさ、集合時間じゃないのにお前早いじゃん」
「ん?いや、デートなら早めに来て今来たばっかりみたいなのやるべきかと思って。っていうか、お前だって早いだろ」
そんな、デートのテンプレみたいなことするために?暇かよ。
……でも、俺の理由も言いたくないし乗っかるか。
「私もそんな感じだよ、透くんっ。ごめん待った?」
「お前、どっちのキャラで行くつもりなんだよ」
「一応外だから、こっちの方がいいかと思ったんだけど」
「デートって他のやつのこと気にするようなもんじゃないだろ。素でいいぞ」
……こいつさあっ!自然にっ、そういうことをっ、するなっ!!!
とくんっ、と鼓動が跳ねる。その言葉に乗るのも癪だから今日は女の子モード全開で行ってやる。
「嫌です♡」
ぱちん、とウインクしたら、びくりと透が肩を震わせた。心なしか顔が赤い気がする。ははーん、効いてやがるな。
「ねえ、透ってもしかしてこういう私の方が好き?」
「なんだよ急に、離れろ」
ずいっ、と顔を近づける。少し顔を背けられた。少し楽しくなって、あいつの頬を指でつつく。指から熱が伝わる。
「透が照れてて、おもしろ」
「……あーもう、お前が可愛かったからびっくりしただけだろ。離れろ」
「あだっ……」
デコピンしなくてもいいだろー……って可愛いって言った?思わず頬が緩む。
……もしかして、さっき固まってたのって思ったよりも可愛かったからってことか?
「デートなんだからそういうのは先に言えよ、ばーか」
「めちゃくちゃ嬉しそうなお前を見てたら、俺もそう思ってきたわ」
「……別にうれしそうじゃないしぃ?」
「そんな、にへらって顔してるのにか?」
「うっさい、早く水族館行くよ!」
これ以上あいつに今の顔を見せたくなくて、無理矢理手を握って引っ張る。久々に触ったけど、ごつごつしてる。……今日はデートっていう名目だから、これでもいいよな。指を絡める。所謂恋人繋ぎだ、お前を逃がさないっていう意思も込めて。
「お前、自分が照れるのによくやるよな」
「は?照れてねーし」
顔に感じる熱を無視して、水族館に向かう。あいつをもう少し照れさせてから行きたかったけど、返り討ちに合いそうだし。
◇◇◇
元々、目的のないデートだったからなんとなくぶらぶらと歩いた。エイや小魚が泳いでいる様子を眺める。この機会にじっくり見ると、可愛い。
透のやつはそこまで興味ないみたいだったから、あいつを振り回していろんなものを見させた。こいつと、こういう遊び方をしたことはなかったっけ。
たまに肩をぴとっとくっつけるとあいつが一瞬震えてるのがわかる。こういうのは弱いのかよ。
後で抱きついて驚かせるか。……なんかたまにあいつの視線が下向いてるんだけど、これ足見られてんのかな。作戦は成功だけど、ちょっとハズいし複雑だ。
「お前テンション高すぎだろ」
「えっ、そう?意外と面白いだろ」
「……今日は女の子っぽいキャラで行くんじゃなかったか?」
「ずっとやると疲れるんだよ。ほら、ペンギンだぞっ」
とことこと歩いているペンギンを見る。これが俺と似てるとか言ってたっけ。……まあこれと同じ可愛さだと思ってるなら許してやらないこともない。
「すげーっ、イルカが飛び回るの生で見ると違うなー」
「お前もなんか飛び回ってなかった?」
「……いやその、テンション上がりすぎて」
次に行ったのはイルカショー。せっかくやってるなら見ておかないともったいない。透のやつはちょっと疲れてそうだった。貧弱め。
でも、はしゃぎすぎちゃったかなと反省。いやでもさー、イルカのパフォーマンス見てるんだからしょうがないじゃん。
「まだ何か行きたいところはあるのか?」
「んー、だいたい行ったしなー。お土産でも見るか?」
せっかくのデートだ。思い出用のってやっぱり欲しいし。あいつもなんか買うのかな。
……いや、別に贈り物とかを期待してるってわけじゃなくて、誰かにあげるものがあるのかなって気になってるわけでもないから。
妹とかに買うやつ拾ってくるか。ペンギンとかでいいかな。サメは男子すぎるな、逆にあやめに渡してやろうか。
「しずく、そろそろ決まったか?」
「んー、まだ悩み中。透は?」
「俺はもう買った」
「透の友達って俺ぐらいしかいないしな。決めるの早いか」
「……まあそうだけど、外で待ってるよ」
……あいつ、本当に俺ぐらいしか友達いないもんな。なんか、あやめと仲良くしても許してやろうかな。
ひとしきり悩んだ後、俺も買ってからお土産の店を出る。あいつが隅っこの方に立っていた。
「透ー、待たせてごめん」
声をかけると透が顔を上げた。目が合う。こうして見てみると、こいつも顔が悪くないな。
「……なんで俺の顔じろじろ見てるんだ?」
「なんとなく?お前も、俺のかわいい顔でも見ていくか?」
ずいっ、とあいつの顔に近づく。ほらほら、どうだ。
「まあちょうどいいか」
……え、なんかあいつの顔も近づいてきたんだけど。鼓動が激しくなる。思わず後ずさりしそうになって、壁に背がつく。逃げ場がない。
耐えられなくなって……目を閉じる。あいつの匂いがする。もうそこに、あいつの顔が――
「はい」
「……え?」
チャリっ、と金属の音がした。何かが私の首にかけられている。
イルカのネックレス。これをかけようとしてたのか。
「…………えっとその……ありがと……」
…………あー、なんかもうっ……顔が熱い。勘違いかよ、いやさあ、そんな急にがっついてくるわけないけど。
ふと、顔を上げるとあいつが少し笑ってる。腹立つ~~!
「何かされるのを想像したか?」
「……~っ!」
あー、もういいや。こっちからも反撃してやろう。煽ったのはそっちだからなっ!
足を伸ばして、あいつの顔に近づく。……唇に柔らかい感触がする。そこから伝わる熱が、全身をじわじわと広がっていく。熱い。鼓動が再び早くなる。
離れてから見ると、固まったあいつが頬を染めていた。ざまあみろ。
「お、お前……」
「……ほっぺにキスはお子ちゃまには刺激が強すぎたか?」
「そんな顔赤くしながら言うことじゃないだろ」
「うっさい、ばーか」
今回のデートは痛み分けにしてやる。あいつのくれたネックレスを握りしめると、不思議と胸が暖かくなった。
案としては後一つぐらい思いついてるので、そこまでは書くかなという気持ちでその先は未定です。




