ゆるぼ:親友を嫉妬させようとしてくる女子の対処法
水無月あやめ関連エピソードです。
前話の続きぐらいから
しずくが戻るまであと一月。そわそわしているしずくを眺めていた。落ち着きないな。
なんか前に俺を虜にする、とか言っていたけど前みたいにベタベタ触ってくることはないみたいだ。
「豊月、何見てんの?」
声の方に向くと、綺麗な顔があった。綺麗な人形みたい。
水無月あやめ、最近よくしずくといる女子。席も遠いし関わりもないのに、なんでここに来たんだろう。
「しずくのやつなんか、落ち着きがないなと思って」
「ふーん?」
水無月さんの口角が上がる。そのまますこし近づいて、俺の机に手を乗せてその上に顎をついて視線を合わせてきた。
「……なんですか?」
行動がわからなさすぎて思わず敬語が出た。その様子に、水無月さんはあははと笑った。
「敬語やば。しずくの大好きな顔はどんなもんかな~と思って見てるだけ」
「はあ」
「あと、私の顔を間近で見たら、しずくへの興味とか揺らいだりするのかな~っていう興味本位?」
「……」
普通に恐ろしいことを言うな。この人、顔がいいことを自覚してるし、それで俺を試そうとしている。
確かに睫毛が長いなとか、肌がもちもちしてそうだなとは思うけど。あいつみたいに思わず触ってみたくはならない。
「そんな身構えなくてもいいのに」
けらけらと笑って、水無月さんは俺の机からパッと離れた。
「面識あんまりないやつが急接近したらびっくりするだろ」
「そう?そんなもんでしょ。しずくをからかえて、豊月の雰囲気も知れて一石二鳥じゃん」
水無月さんはいたずらっぽく笑った。いい性格をしている。
ふと、しずくの方へ視線をやるとたまたまあいつもこっちを見ていたようで目が合う。じろっ、と鋭い視線を飛ばしてきた後プイッと反らされた。
俺と水無月さんが関わるのが嫌だったのか?
「あーあ、しずく怒っちゃったかな。またね、豊月」
楽しそうに笑いながら水無月さんは戻っていった。
「……なあ、水無月さんにも手を出したのか?」
関口が恨めしそうにこっちを見てきた。
「そんなわけないだろ」
「いや、すでにお前はあの雨霰さんに手を出してる!」
「出してはないけど」
「ほっぺ触ってたのに?」
「……」
それを突かれると痛い。それにしても、あの時のしずくの反応も面白かったな。触り返しただけなのに、あんなに焦ってたし。
そんなことを思っていたせいか、また視線がしずくに向かう。水無月さんに話しかけられて、それを無視したしずくがたまたまこちらを向いていた。ムスッとしている。
俺が見ていることに気付いてさっきよりも鋭い視線が飛んでくる。なんなんだよ。
それ以降もたまに意味深な視線を向けては、顔を背けられた。今日のしずくは一段とおかしいらしい。
昼休みになった。さすがにしずくに話でも聞くかと思っていた時に水無月さんが近づいてきた。
「ねえ、豊月。ご飯食べようよ」
「おーい、しずく」
「ちょっと、無視しないで?傷つくんだけど」
ぐすん、と泣き真似をしながら俺の袖を引っ張ってくる。こんな見え見えの地雷踏んでたまるか。
「いや、本当に何の用?」
「普通にご飯一緒に食べようとしてるだけでしょ」
「その理由を聞きたいんですが……」
「えー?なんか面白そうじゃん」
しずくのやつ、なんて人と友達になってるんだよ。そのせいで周りからの視線がやばいんだけど。関口とか目だけで人を殺せそうになってるぞ。
「ねえ、いいでしょ」
「……はあ」
真面目に助けてほしい。ヘルプミーを込めて、しずくの方へ視線を送る。
プイッと顔を背けて、そそくさと教室から出ていってしまった。まずい。
「あらら、しずくには刺激が強かったか」
やりすぎたかな、と水無月さんは首を傾げている。
「よくわからないけど、あんまりしずくをいじめないでくれ。あいつ、バカで勢いだけだけど意外と繊細だから」
「あはは、それは君にたいしてだけでしょ。ってか早く追いかけなよ」
バシッと背中を叩かれた。いや、あなたのせいですよ。その言葉を飲み込んで、しずくの後を追う。
「君のそういうところだけは好きだよ」
ポツリと最後にその言葉が聞こえた。だけってなんだよ。
あいつがどこに行ったのかは正直わからない。ただ、あの様子ならそんな遠くには行ってないと思った。
階段を下りる。すると、そこにしずくが座り込んでいた。足音に気付いて、しずくが顔を上げる。
「……なんで来たんだよ。あやめと一緒にご飯食べればいいだろ」
「何拗ねてんだよ」
「うっさい。ばーかばーか」
「語彙力が小学生みたいになってるぞ」
そう返しても、ふんっと不機嫌そうに顔を背けるばかりだ。水無月さんと話してることがよほど気に入らなかったらしい。なんなんだよ、本当に。
「俺がなんかやっても平然としてるのに、あやめが近づいただけでたじたじしてるし。そりゃ、あやめの方が美人だけどさ……」
「面識あんまない人に急接近されたらそうなるだろ」
「……ほんと?あいつにクラっときたんじゃないの……?」
弱々しく、不安そうな顔でしずくが見上げてくる。自信なさげに視線が揺れている。
思わずどくん、と心臓が跳ねた。消えていってしまいそうなその雰囲気に抱き締めたくなるのを堪える。
「……ちょっと、黙るなよぉ」
「いや、すまん。かわいいこと言ってるからつい」
「かわっ……!?」
さっきの儚げな様子はどこへやら。急に立ち上がって顔を真っ赤にして、固まっている。
「~っ、お前人が真剣に悩んでたのにそうやってさあっ!!」
「痛いって」
そのまま、俺の胸をぽこぽこと叩き始めた。
「人がデートのこととかで悩んでるのにさあ」
なるほど、今日そわそわしてたのはそのせいか。遠足で眠れない小学生じゃないんだから。
ちょっとかわいいけどさ。そんな気持ちを誤魔化すように口を開いた。
「別にそんな悩まなくていいだろ。今までよく遊びに行ったじゃん」
「ほら、わかってない!デートって言ってるだろっ!」
「そりゃそうだけど、お前と遊ぶならどこでもだいたい楽しいし」
「……はぁ……お前そういうところあるよなぁ……」
叩くのをやめて、しずくはもう一度座り込んだ。
「なあ、あやめのこと本当にすきになったりしてないんだよな?」
「お前それ気にしすぎだろ。あの人怖いんだけど、止めてくれない?」
「え、怖い?そんなことはないと思うけど」
「いやさ、お前が反応するからって面白がって俺が標的にされてるんだけど」
「……ああ、そういうとこはあるわ。はー、そういうやつ。悩んで損した……」
あー、と言いながら項垂れている。さっきまでの弱々しい雰囲気はもうなくなっていた。
「早く戻ろうぜ。お前もまだご飯食べてないだろ」
「そーだな。一緒に食うか」
「え、一緒なのか?」
「なんだ、嫌なのか?」
じっ、とこちらの見据える。
「たぶんそれやると、関口がすげえ顔で見てくるんだよな。さっきもマジで殺してきそうな目してたし」
「別にいーだろ、そんなこと。親友なんだから飯ぐらい一緒に食おうぜ」
しずくが食い気味に言った時に、かつかつと足音がする。誰かがこっちに来たみたいだ。邪魔そうだし早く離れるかと動こうとしたときに、声が聞こえた。
「お二人とも、楽しそうですね?」
水無月あやめがそこにいた。追いかけに来たのか。人をわざわざけしかけておいて。少し身構えてしまう。
「あやめ、透に変なちょっかい出すなよ」
しずくが警戒するような目付きで睨んでいる。
「えー、やだ。豊月のこと気に入っちゃった」
「……ダメだからな?」
水無月さんは冗談めかして言ってる。それをしずくもわかってるけど、まだ警戒しているみたいだ。さっきからなんか裾をぎゅっと掴んで離してくれないし。
「あはは、おかしー。しずくって本当に豊月のことになると余裕ないよね。大丈夫取らないって。食べる時間なくなるから早く教室戻ったら?」
ひらひらと手を振りながら、水無月さんは帰っていった。本当にしずくからかうためだけに全力すぎて怖い。
というか、何しに来たんだよ。
「お前も、あやめにフラフラ行くなよ」
「わかったから。そろそろ離してもらえる?」
「あ、ごめん……」
無意識に掴んでいたみたいで、ばつが悪そうに離すもんだから、少しだけいじってやるか。
「デート、俺を虜にしてくれるんだろ?楽しみにしてるよ」
「うるせー、言ってろ。頭ん中俺で埋め尽くしてやるからな」
得意気に笑うそのしずくの顔は少し赤く染まっている。
もう相当お前で埋まってるよ。その言葉を飲み込んで、教室に戻る。
まだ、それを伝えるときではないだろうから。
◇◇◇
さすがにいじめすぎたかな。豊月としずくを後にして、私――水無月あやめは教室に戻る。
豊月をしずくのところに向かわせた後、ご飯でも食べて待ってるかと思って豊月の机で食べてたら全然帰ってこないし、仕方ないので見に行ったらなんか威嚇されちゃった。
やっぱかわいいね、しずくって。
なかなか戻ってこないから心配したのは内緒。
それにしても愛されてるなあ。意外と繊細とか言ってたけど、しずくがそんなに心を動かされるのは豊月だけってわかってるのかな。
正直、なんでこんなやつをしずくが気に入ってるんだろとずっと思ってたけど、ちょっとわかっちゃった。
最初は嫉妬させてじれったい仲を進展させてやろうかなって気持ちだけだったけど。ちょっとからかうのも楽しいかもね。
恋愛ものってくっつくまでが一番楽しいから、もうちょっとだけその様子を見せてほしいな。
デート回ありそうな雰囲気出していますが、書くかは不明です。




