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急募:親友の人生をめちゃくちゃにする方法

しずく視点です。振り返りもあり。

 そいつを見たときのことは覚えている。教室の隅っこで佇んでるやつ。遠い目をしていて、なんかつまんなさそうにしているやつ。


 ――豊月透、パッとしないやつだった。顔とか特徴とか、そんなに記憶に残らなさそうなやつだった。


 不思議な生き物を見つけた気分になったから、たまに目で追うようになっていた。いつも一人で、ただぽけーっとしている。でも話しかけられたら普通に返事をしていた。よくわからないやつ。


 そんなあいつが気になったから、ある日声をかけてみることにした。


「よーっす、豊月」

「……ああ、えっと……」


 こいつ嘘だろ、クラスメイトの名前ぐらい覚えてないの?


「雨霰しずくだよ、お前と同じクラスの」

「いつも教室で見かけるからそれは知ってる」

「……」


 なんとなくいじってやるかぐらいの気持ちだったのに毒気が抜ける。やっぱり話せるじゃん。なのになんでそんなつまらなさそうにしているんだよ。


 そういうところがなんとなく腹が立ったから、こいつの人生を面白くしてやろうと思った。それがこいつと俺が友達になる切っ掛け。


 関わってみたら結構面白いやつだった。俺がめちゃくちゃ付き合ってくれるから。


 今思えば、ブレーキになってくれるやつなんかいなかった。俺は別に誰ともだいたい仲良くできた。女子でもそこそこ話せてたし。まあコミュ障拗らせすぎてるやつとはさすがに意志疎通はできなかったけど。


 ――でも、透と関わって気づいたんだ。俺は自分をさらけ出したことがない。他人に合わせてばかりで、素の自分でいたときなんてあんまりない。俺の全部をさらけ出しても受け止めてくれるやつ、それが透だった。


 ある時、なんで人と関わろうとしないのか聞いてみた。すると、「疲れるから」とだけ帰ってきた。それであんなつまんなそうな顔するか?普通。

 この省エネ気取りめ。





「おはよう、契約者!」

「うわっ、なんだこいつ!」


 その次の切っ掛けはそれだ。まん丸の光ってる変なの。魔法少女と契約する妖精らしい。


 体に違和感がある、やたらと髪が伸びているし、服装もおかしい。


 何よりも声が高くなっていた。


「え、契約したの覚えてないか?」

「いや、俺起きたらこうなってたんだけど」

「え、契約の話したんだけど……」

「寝言じゃね?」

「……寝言……???お前、寝言流暢すぎるな???」


 ありえないぐらい妖精に困惑されたけど、寝てる最中に魔法少女になったらしい。


「あっはっはっ!どういう状況だよっ!」

「お前、この状況で笑えるのすごいな???」


 さすがに爆笑した。当事者だとしても面白すぎる。妖精を一頻り困惑させた後、話を聞いてみたら、間違って契約したから戻してもらえるんだと。


「なあ、せっかくだからちょっと鏡見ていい?」

「……もう好きにしてくれ」


 ただやっぱ戻れるにしても見たいじゃん?自分の女体化姿とかさ。


 実際に見てみるとびっくりした。誰だよこいつ、めっちゃ美少女じゃん。


 髪色が違うし、ペタペタ触ってみたら肌がすべすべだし。胸は……あんまないな。


 まあ、満足したかな。と思ったとき、いいことを思い付いた。


 俺が豊月透と近づいたのはつまんなさそうなあいつの人生を面白くしてやろうと思ったからだったはずだ。

 でも、それは正確じゃない。本当はめちゃくちゃにしてやりたかった。つまんなさそうなやつの人生を俺でめちゃくちゃにできたら、それはすっごい気持ち良さそうだから。


 だから思ったんだ。今なら、もっとめちゃくちゃにできるって。鼓動が高鳴る。


 もし、この女になった状態の俺が迫ってあいつの価値観とかをぐちゃぐちゃにできたら。

 もし、俺に引っ付かれて他の女のこととか一切考えられないようになったら。俺に惚れたら。


 そう考えるだけで、ぞくぞくと背筋が震えた。この倒錯的な感情を抑えられない。


 なあ、親友。お前は親友が美少女になってもさ、お前は普通でいられるかな。


 これが、俺があいつのヒロインになってやろうとした理由。本当にしょーもないと思うけど、俺はそれを我慢できそうになかったから。







 そうしているうちに、二か月が過ぎた。


 女になって初めて登校した日、歩幅が変わってたことを知った。足が短くなったのかもしれない。こういう変化もあるのか、なんて考えてたけどその後の手の感触の方が覚えている。こんなに手の大きさが違うんだ、なんて思ってたら握り返されてたっけ。


 一緒に部屋で遊んだ日、やたらと足を見られてた気がする。ゲームでも負けたくなくて、ちょっと肩をぶつけて見たらちょっと震えていて面白かった。こいつ、完全に意識してんじゃん。いつかこの肩に体を預けてみるのも面白いかな。

 最初は本当に膝枕をしてやろうと思ったけど、後ろからぎゅっと抱き締めてやった。広い背中だ。不思議と安心感があった。とくん、と鼓動が高鳴るのがわかる。ああ、ドキドキしてる。

 後から考えるとちょっとやりすぎたかなと反省した。

 ……でも、柔らかかった、はさすがに感想としてどうかと思う。変態、お前足とか指とかへの視線めっちゃバレてるからな。


 あの日のせいでちょっと強引に近づくのが億劫になってしまった。そんなとき、急に頬にあいつの指が触れた。じんわりと熱が広がる。なんなんだ、急に。ヒロインになってやるって言ったけどそういうのは予想してないって。バクバクと心臓が弾けそうで落ち着かなかった。

 その後、関口と話してる内容が聞こえてきてあいつのスマホ向けて怒りのメッセージを送ったっけ。変なこと話すとチューしてやるなんて書いたけど、その途中に想像しそうになって、それを振り払った。いけない、おかしくなってきてる。


 あともう一月か。この日々を惜しんでる自分を感じる。気づいたんだ、俺の方がのめり込んでしまってる。


 俺の方ばっかり動揺してると本当に腹が立つ。


「しずく、どうしたの」


 机に突っ伏していたらあやめに声をかけられた。


「いや別に」

「こういうときのしずくはー、豊月くんのことで悩んでいます!どうでしょう、正解でしょうか?」

「はーっ、うっざ」

「素が出てるって」


 けらけらと笑われる。水無月あやめ、俺が女になってから仲良くなったやつ。ただ綺麗な子だとずっと思ってたけど生意気。からかいすぎ。そんなに透のことばっか考えてねえって。……たまに思い浮かべてるけど。


 女になってから、男の時の口調をやめてるけどたまにこうやって出してしまう。結局、透の前ではずっと素だったな。


「なんかさー、あいつをからかおうとずっとしてたのに俺の方がからかわれてるからさーっ」

「それが気に入らないって?」

「まあ、そんな感じ」

「ふーん?」


 にやにやと怪しげに笑われる。俺の心のうちを見透かされているようでプイッと顔を背けた。


「しずくってかわいー」

「はいはい、私は可愛いですよ」

「あーあ、しずくが拗ねちゃってつまんない」


 不意に、視線があいつの方に向く。最近は隣の関口と仲良くなったらしい。たまに話してるけど、俺の話題ばっからしい。アホ。


「やっぱり、豊月のこと見てるじゃん。好きすぎね」

「親友だし」

「親友をそんな熱烈に目で追ってるやついないって普通」

「うっさい」


 最近はずっと、あやめにもいじられるようになってしまった。

 今日はもう目一杯、透に嫌がらせしてやる。


◇◇◇


「おーい、透ーっ!はい、どーんっ」

「おわっ!」


 最近は接触が控えめだったしずくが急に後ろから抱きついてきた。それ、掴まってるの俺じゃなくて鞄だからやめてほしいんだけどな。

 無理やり引きずり下ろすと、ちょっと不満そうだった。急になんなんだよ。


「なー、久々に遊ぼうぜ」

「いいけど。お前テンション高いな、どうした」

「いや、そういや最近お前のヒロインやってないなって」

「まだ言ってんのかよお前」


 ……そういうと、手をぎゅっと握られた。真剣な眼差しでこちらを見つめる。


「……俺さ、やっぱりそんな魅力ねーかな……」


 恥ずかしげに俯いて、頬を赤らめた状態で上目遣いにしながら。ああ、わかる。これはわざとだ。


「……さすがにあざとすぎだろ」

「やっぱだめかー。私ってそんな魅力ないかな?って言った方がよかったなーっ」

「お前、あと一月で終わるのにまだそれ続けるのか?」

「……あと一月だからだよ」


 握っていた手の指が動いて、俺の指に絡めてくる。そして、もう片方の手が俺の胸元を指差した。


「――お前を落としてみたくなったって言ったら信じるか?」


 ニッと笑う。知ってる、この顔はいたずらするときでも、本気でやるときの顔だ。


「……本気か?」

「そんな野暮なことを聞くなよ。俺だけなんかどぎまぎするのも腹立つしさぁ」

「……え?」

「それにお前の人生をめちゃくちゃにしてみたかったんだよな」

「待て待て待て」

「こんな青春にさ、水族館とか花火大会とかさ、そういうのを全部俺で塗りつぶしたら、お前の人生をめちゃくちゃにできると思わねえ?」


 頭がぐるぐるする。津波のように浴びせられる情報に耐えきれずにいる。俺は今なんの告白を受けているんだ。


 どぎまぎする?俺の人生をめちゃくちゃにしてみたかった?

 なんかとんでもないこと言われてないか?


 しずくと目が合う。こいつの瞳はらんらんと輝いててその奥にどろりとした暗いものが見えていて、とても俺を逃がしてくれそうには見えなかった。


「お前、俺のこと好きすぎだろ」

「……うっさいな。妖精に直談判して、この期間延長してやるからな」

「できるのか?そういうの」

「たぶんできる。……ってかさぁ、お前俺がここまでやってるのに何も感じないわけ?もうちょっと反応あってもいいだろっ!」

「いやだって、反応したらお前調子乗るし」

「へぇー?じゃあ俺のことどう思ってるんだよ」

「でかい犬」

「……お前の顔面ぺろぺろ舐めてやろーかっ!?」


 ……正直、こいつのことはかわいいと思い始めている。癪だ。どうせ男に戻るんだからとこの気持ちを奥底に閉じ込めていたけど、まだ離してくれないらしい。


 俺がその気になったら逆にどうするつもりなんだよ。そうは言い出せなかった。そこまで受け入れられたらどうしたらいいかわからないから。


「とりあえず、一旦デートしようぜ。お前を虜にしてやるよ」

「別にいつも遊んでるときと変わらないだろ」

「うっさい、やるったらやるんだよ。お前が残り一月でなんともならなかったら、元に戻ることも考えてやるけど」

「はいはい」


 もうヒロインをやるとか関係なくなってきたな。


 このままの日常も楽しそうで、そう思ってしまった時点で、もう手遅れな気がした。


◇◇◇


 初めて、雨霰しずくと話したときは変なやつがいるもんだなと思った。俺はただ人と付き合っていくのが疲れるから、あんまり関わらないようにしていたのに、そこにずかずかと踏み込んでくる。

 でも、不思議と悪い気はしなかった。


 こいつはバカだし、勢いだけで行動するし。めちゃくちゃなやつだ。俺以外にも友達が何人もいるのに、わざわざ俺のところに来てる意味もよくわからない。


 ただ、一緒に騒いでいる日々は楽しかった。


 あいつは、俺の人生をめちゃくちゃにしてみたいっていった。だから女になってわざわざ俺に変なちょっかいを出してくる。


 でも、そんなことをしなくてももうお前のせいでめちゃくちゃになってるよ。


 ただ、ぼんやりと日常を眺めているだけの俺を引っ張り回したのは確実にお前だから。


 でもそんなことは言ってやらない。


 こうやって握りしめている手を離したくはないから。


「なあ、デートってどこに行く?」


 バカみたいな宣言をされた帰り道、こいつと手を繋いで帰っている。ドキドキさせたいとかで、わざわざ恋人繋ぎをしてくる。


「水族館とか?」

「いいね、ペンギンショーとかなー」

「ペンギンよりもお前の方がとことこ動いてそうだけどな」

「なんか俺のこと、動物みたいに思ってない?」


 ジト目で睨み付けられる。


「小動物みたいで可愛いよな」

「……それ、喜んでいいのか?」

「可愛いって言われるのは嬉しいんだ」

「……~っ、うっせーばーかっ!」


 顔を真っ赤にして睨まれる。なんかこいつ、ぐいぐい来るくせにこっちからいじるとすごい弱いな。


 なにもなければあと一月で戻るとか言ってたっけ。


 俺の人生をめちゃくちゃにしたんだ。だから、こいつにギリギリまで延長させるか悩ませることにした。


 きっと本来は逆なんだろうけど、責任を取ってもらわないといけないと思ったから。


 手から伝わる熱が、ひどく熱く感じた。


大枠の話については、しずくの動機を明かしたので終わりなんですが、色々と決着自体はついていないので、なんか追加でやります。

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