3 後のストーカー同級生である。
「はぁ……最っ高だった………」
ドデカベッドの上で大の字で寝っ転がって読むヤンデレ小説(2話参照)、あまりにも貴族の娯楽すぎる。
ミリヤさんに見つかったら多分怒られるけれど、今ミリヤさんお買い物中だしバレなきゃいいもんね。
ヤンデレ供給がごっそりと減ったこの異世界生活。
家でも学校でも移動中でもヤンデレを摂取していた私にとってかなり死活問題だった。
そりゃあ、こんなに素敵で快適な家に転生しといて文句は言えないんですけど、ヤンデレがないなんて私には死同然。義弟×義姉もいい。
「………もっと読みたいな………」
1度甘い蜜を啜ると欲が出てしまうのが人間で。
もっと読みたくなってしまった。
ーーそうだ、本屋行こう。
「はわわわわわ」
や、ヤンデレがいっぱいだ〜〜〜〜!!!!
こ、ここにも、ここにもある!!ヤンデレ祭りだ〜〜〜!!!
内緒ですよ、と連れてきてくれたロイさんには感謝しかない。乙女ゲーのスチルかな??ってぐらい顔が良かった。
実はロイさん、私にすっごく甘かったりする。逆にミリヤさんの方が私に厳しい。
声色は甘いけれど、有無を言わさないみたいな、そんな言い方がミリヤさん。
旦那様とミリヤには内緒ですよ、と言って色々わがままを聞いてくれるのがロイさん。
ロイさん私の事嫌いだと思ってたけれどめちゃくちゃ甘かった。ごめんね疑って。
「お嬢様、ここの本屋内から出る時は俺に伝えてくださいね。お嬢様に何かあると首が飛ぶのは俺なので。」
「わかった!!」
あ〜幼なじみ執着ものに、チャラ男改心執着、主従逆転執着………執着しかないぞここ。どうなってるんだ。
そういえば義弟ものも執着だったな………
「あ、あのう…」
「ほひゃ!!ひゃい!!!!」
びっくりした!?!?だれ!?!?
勢いよく後ろを振り返ると髪の毛がもさもさしているメガネをかけていかにも陰キャ!(言い方)って人でした。こう言うしかないじゃない。私も元は陰キャオタクだから大丈夫だよ。
「大変申し訳ありませんが、そちらのコーナーは非売品で…」
「えっっっ!?!?!?もったいない!!!!」
「え?」
「へ?あっ」
やっちゃった〜〜!!!!!
あまりにももったいなさすぎて!!!いや、もったいないでしょこんな神作品!!!!
「ご、ごめんなさい!!とってもおもしろかったから……」
「そ、そんな!!貴女のような素敵な方のお目汚しをしてしまってむしろ申し訳ないというか…!!」
「そんなことない!!!」
アイリスは少年の手をガシッと握る。
少年は見目麗しいアイリスに手を握られ頬を赤く染めた。
「とっても素敵なお話だわ!!貴方、わたくしと同じくらいでしょう!?言葉選びも繊細で、主人公たちの感情表現もとても豊かで…!!」
「お嬢様、お嬢様。そこまでにしてください。こちらの方が困惑されております。」
「えっあっ、あっ」
「………………」
湯気が出るほど真っ赤になって瞳をぐるぐるさせていた。ごめん、少年。
慌てて手を離すと意識を取り戻したようにして姿勢を立て直す。
「お、お褒めに預かり光栄です……あ、あの…良ければ…貸出をしましょうか…?こんなので良ければ………」
「本当!?いいの!?!?やったー!!!」
「お嬢様」
「あぅ」
まぁそんなこんなで帰宅したら、笑顔だけど目が笑っていないミリヤさんとベリルが仁王立ちしていた。ちょっと眠れなくなるほど怖かった。ベリルと一緒に寝た。寝る直前まで笑顔で寝顔をガン見された。お姉様分かってるからねガン見してるの。
ーーー
「はぁ…………」
艶のある黒髪、紫水晶のような、星のように輝く大きな瞳。満点の花畑のような微笑み。
「きれいだったな…………」
あの方はなんと言う名前なのだろう。きっと貴族なんだろうな。好きな本はなんなんだろう。…好きな、殿方や婚約者の方はいるのだろうか。
「初めて、俺の趣味が褒められた………」
ほぅ、と熱の混じった息を吐く。
昼間のことを考えるとまた顔が赤くなる。
俺の趣味。というか、俺の、願望。ドロドロとした、重たい感情。一人の人を深く深く愛したい。それを、言葉にしてただ綴るだけ。
言わばあれば自己満足。そう、俺の自己満足だ。
あそこに置いてあるからと言って販売する気もなかった。ただ、あのような感情を持っているという人間がいることを、受け入れて欲しかっただけ。少しでも、興味を持って貰えたらという、浅はかな希望。我儘なのは自分でもわかっている。
「…ふふっ」
俺の本が、あんなにも素敵な方の手に。
間違えてお祖父様が売ってしまったと聞いた時は恥ずかしさや後悔で死にたくなったけれど。
あのような素敵なお方に貰っていただけたのなら、俺の本も本望だろう。
「………次はいつ、お会いできるだろうか。」
もっと話したい。星のような輝きを秘める、あの瞳に吸い込まれたい。手を伸ばしたって届かない、だからこそ美しく、意地でも手の中に収めたくなる。
「次の話は、平民と貴族令嬢の恋にしよう。」
愚かにも貴族の令嬢に恋をしてしまった、愚かな俺のような男。
もっと知りたい、もっと、もっと貴女に近づきたい。
……魔法学園に行けば、きっと彼女に会えるよな。
ーー綺麗な花ほど、手折って己の手の中に。
ーーーー
「お姉様、今日も僕と一緒に過ごしてもらいますからね。もう二度と、僕に何も言わずに出ていかないでください。ミリヤには内緒にするので。」
「はい…………」
ミリヤに詰められ、ベリルにも詰められ。ロイの後ろに隠れるとさらに空気が凍った気がした。
ベリルとロイの仲はあまりよろしくない。というか…敬語で争っている。ような、気がする。
「ベリル様、お嬢様と少々距離が近いかと。ミシリエ家の人間たるもの、一人できちんと立つくらいしてください。」
「従者が令息に嫉妬ですか?見苦しい。お姉様とは仲がいいだけではありませんか。ねっ!お姉様。」
「え?あ、うん?」
「ほら、お姉様は僕の味方ですよロイ。邪魔なので早く下がりなさい。」
「いいえ、旦那様の命でございますので。お嬢様とベリル様を離れずお守りし、正しい振る舞いを指導するのが俺の役目です。令息が姉にベタベタとくっついて立つなど聞いたことがありません。離れてください。」
「お前の態度はやはり生意気ですね、お父様に信頼されていなかったら今すぐにでもクビにしています。」
「ふふ」
「あはは」
わぁ、思ったよりもバッチバチだぁ…………。
巻き込まれたくないため何も言わずに笑うことしか出来ない。
というか、今はマナー講座の途中だったのでは??
私を間に挟んでバチバチに喧嘩しないで欲しいな…………。
その瞬間、勢いよくドアが開く。
「アイリス!!第3王子殿下からご婚約の申し込みだ!!!…が、受けたいか……??」
「お嬢様にはまだ早いです」
「お断りしましょうお父様」
「お返事のお手紙を書いておきますわね。」
「!そうだな!アイリスにはまだ早いもんな!!」
わ、私、何も言ってませんけど………??
あとミリヤさんどっから出てきた……???
お父様って、犬みたいだな…………(現実逃避)
ーーー
「そういえば、本屋でお嬢様に魅了されてしまった様子の少年が。」
「二度とそこへ近づけさせないように。貴方は憎いですがそこら辺は優秀でしょう。」
「かしこまりました。」
「俺が脅しに行くことも出来ますが、その必要は?」
「近づく様子は見えないのでまだ大丈夫かと。」
「わかった。進展があれば俺に。」
「…ベリル様の猫被りは凄まじいですね。」
「好かれたいと願う相手以外にいい子にしたって何にもならないでしょう。お前も人のことを言えないくせに、分かっていますからね。」
「ははは、お互い様ですね。」
「…………だからお前は嫌いなんだ。」




