2 後のヤンデレ義弟である。
ミシリエ家で生活して早数週間。
なんとアイリス、騎士団長の娘さんだった。
そりゃあ家も従者もハイランクですよね...
ここ、ジュエリーナ王国では名前の通りというかなんというか、宝石にちなんだ国。
宝石の女神ジュエリーナ様が、この土地を加護下として愛し、鉱石の名産地になったことからここは栄えていったんだと。だから王族は、女神ジュエリーナ様をお慕いする意味をこめて宝石の名をそのまま使ったり、もじった名前が多い、らしい。
騎士団にも二種類あって、一つ目はお父様が団長を務める第一騎士団、通称”黒曜石騎士団”。
黒曜石という名から、ザ・騎士団!みたいな、武闘派の方たちが多いんだって。
二つ目が第二騎士団、通称”水晶騎士団”。
実はこの世界には魔法がある。
異世界転生小説とかファンタジー小説みたいに魔法省~とか、魔術師~とかはなくて、魔法が秀でている志願者のみ水晶騎士団に入団できるんだと。魔法は使えて当たり前、なのがこの世界の共通認識。
黒曜石は剣、水晶は魔法、みたいな感じかな。
あとでミリヤさんが教えてくれたんだけど、黒曜石は初代第一騎士団団長、ミシリエ家のご先祖様の髪色からとってあるそう。ミシリエの家系は黒髪がほとんどなんだって。ちなみに王族は色鮮やかな髪らしい。色鮮やかな髪には関わらないほうがいいね!!
王族と関わりたくなさ過ぎて宝石の勉強しかしていなかったのが裏目に出て、"お嬢様は勤勉で慎ましやかでとてもお美しい。きっとジュエリーナ王国の妃殿下となられるだろう"、と噂されているのをアイリスは知らない。
ーー数日後。
しばらく出かける!と言い出かけて行ったお父様が帰ってきた。
一緒に過ごしてわかったけれどお父様、かなり嵐のような人。
突然出かけたと思えば血まみれで帰ってきたりするし、この間はイノシシみたいなやつを担いで帰ってきたりもした。その時はさすがに叫んで気を失った。お父様はミリヤさんに怒られていた。ミリヤさんは怒らせたらダメだと学んだ。
それで嵐のようなお父様、この明らかに王族の血を引いてそうな鮮やかな赤髪の少年は何者ですか。
「お、お父様...そちらの少年は...?」
「うちの遠い親戚の息子さんでな、親戚みんな引き取らなさそうだったからうちに連れてきた!」
連れてきた!じゃないんだよな~。あ、ミリヤさんちょっとキレてそう。ロイさん、もはや呆れてるし。
いや、一般人にも赤髪とかいます、よ、きっとそう。大丈夫、よりによって王族関係者とか、ね?
「さぁベリル、お姉様に挨拶しなさい。」
「...ベリルと申します。お嬢様」
一般人とは思えないほど完璧なお辞儀、ベリルという宝石の名前、間違いねぇ、王族の血だ(確信)
そんな道端に捨てられてるみかんのダンボールに入った子犬拾うんじゃないんだからさぁ!!
あぁダメだミリヤさんの背後にどす黒いオーラみたいなのが見える!!
「旦那様、ちょっと。」
あ、お父様終わった...。
ーーー
ロイさんに案内され、客間に義弟と二人きりにされたアイリス・ミシリエ(四歳)です。どうも。
「...」
「……」
か、会話が続かねぇ…!!
ここで原作知識持ち転生者なら会話がきっと続いたんだろうがこちとらただのヤンデレオタクJKだ!!!
この世界のこと何もわかんないよォ~~!!!
「…あの」
「ひゃい!!」
びっくりしすぎて変な声出た。ひゃい!!だって。恥ずかしすぎて死にたい。
「申し訳ありません。僕なんかが義弟など…」
「…へ?」
「気持ち悪いですよね、王族でもなんでもない娼婦の子どもが宝石の名前を冠してしまってすみません…気味の悪い髪色と瞳ですみません………」
すみません、すみません…と謝って、小さくしゃがみ込んでキノコでも生える??っていうくらいどす暗いオーラを出してしまったベリル。
ワ…ワァッ…!!こ、これ、ヤンデレになるやつだ…!!
どうしよう、pi〇ivで5000回くらい見たことある…
下手に慰めたってヤンデレになる可能性があるし、放置したってヒロインに慰められて覚醒してヤンデレって私が殺される可能性だってある…!
「すみません…」
「……」
ーーー
「お姉様っ!今日はこちらの本を一緒に読みたいです♪」
結果、死んだ魚のような目に負けて慰め(広義)たらめちゃくちゃ懐かれてしまいました。
ーー時は遡り
「…ベリル」
「っ、申し訳ありません!やっぱり旦那様に自分から申し出て…!」
「あなたはもうミシリエ家の人間です。軽率に謝るのはおやめなさい。」
「…へ?」
「背筋を伸ばし前を向きなさい。あなたはもう貴族、わたくしの弟なのですから。生まれは関係ありません。」
は、恥ずかし~~~~~!!!!!
世の転生令嬢、よくあんなセリフ言えるね!?私恥ずかしすぎて結構キッついよ〜!!!!
でも、そんなに自分を下げる必要ないんだよ、大丈夫だよ、とせめて伝わるようにベリルをしっかり見つめて言う。
「あなたの姉はこのアイリス・ミシリエ。誇り高き第一騎士団団長の娘です。あなたもミシリエ家の一員となった自覚をしっかりと持ち、…わたくしのことは、お、お姉様と呼ぶこと!いいわね!!」
「………は、はい!!」
最後恥ずかしくなっちゃったよ〜!!!!
もうどうにでもなれ〜〜〜!!!!!
で、今こうだよ。
案の定ベリルは私にひよこのように着いてくるようになったし、なんやかんや私もベリルが可愛くて甘やかしてしまいます。前世が一人っ子の弊害が出ている。くそう。
そしてベリル、とても賢い。
賢いから己の可愛さを全面的にアピールしてくるし初対面のあのキノコが生えるような死んだ魚のような目は何処へ。今やレッドベリル顔負けのキラッキラな瞳に。
「お姉様?いかがされましたか?」
「えぇ、だ、大丈夫よ。これを読みましょうゲホッゲホッ」
それではタイトルを読み上げます。「義弟の僕が義姉に恋するリユウ〜禁断の恋、はじめました!?〜」
おい誰だこれをうちの図書室に置いたの!!!!あと仮にも姉本人に持ってくるんじゃありません!!!!
「お、お姉様っ!?どうされましたか、まさかお身体が、」
「大丈夫!大丈夫よベリル、わたくしは元気よ!…ちなみにこれ、どこで手に入れたの?」
「街に出た際に本屋さんで!姉弟が笑顔で手を繋いでいる表紙だったのでお姉様と読みたくて……」
うーん、笑顔がかわいい。満点。
でもその笑顔お姉さん引きつってるしお互いの手には手錠がついてるね。これはベリルにはまだ早いね。お姉様が預かろうね。
「でもこれはベリルにはまだ早いわ。代わりにこっちにしましょう?」
「…むぅ、お姉様がそうおっしゃるなら…」
なんだむぅって、あざとい。我が義弟ながらあざとい。ほっぺがぷにぷにすぎる。ギルティ。
ちなみに私が差し出したのはこちらの世界版シンデレラのようなもの。きちんと子供向け。こんな昼ドラみたいな激重ヤンデレドロドロメリバみたいなものは読ませられません。あとでお姉様が読みます。
「いい子ね、ベリル」
そう言ってベリルの頭を撫でてやると、幸せそうに微笑んでいた。い、今のところは、ヤンデらない…かな?
ーーー
初めてこの方を見た時、こんなに綺麗な方が世界にいるんだ、と思った。
旦那様の背後に隠れて、そっと覗く。
ブラックダイヤモンドのような穢れのない黒い御髪、アメジストのような瞳、陶器のような肌、華奢なお身体。
この方はきっと、女神ジュエリーナ様の生まれ変わりだと、本気で信じた。
本でしか読んだことがないような執事さんに案内されて、僕が住んでいた家のような広さの部屋に、お嬢様と2人きり。
お嬢様は僕の髪色と瞳が珍しいのか、何も言わずにずっと僕を見つめていた。
そうだ、僕の髪色や瞳は人を不快にさせてしまう、謝らないと。
そのとき、"お母様"の声が木霊する。
«王族と近づけると思ってお前を産んだのに。利用価値がないならいらないわ。»
«気持ち悪い髪と目の色。王族でもなんでもないなら気味が悪いだけよ。»
«賢いのだけは救いね。さっさと売り飛ばしてしまいましょう。»
ーー僕に価値なんてない、そう思っていたのに。
「背筋を伸ばし前を向きなさい。あなたはもう貴族、わたくしの弟なのですから。生まれは関係ありません。」
「あなたの姉はこのアイリス・ミシリエ。誇り高き第一騎士団団長の娘です。あなたもミシリエ家の一員となった自覚をしっかりと持ち、…わたくしのことは、お、お姉様と呼ぶこと!いいわね!!」
その瞬間、僕の世界が宝石のように輝き出した。
ほんのり頬を赤く染めて、僕の目を見てはっきりとおっしゃるお姉様は、本当に本当に綺麗だった。
ーー嗚呼!お姉様は僕の女神様なんだ!!
女神ジュエリーナ様の生まれ変わりなんかじゃない、お姉様は僕の本当の、たった1人だけの女神様!
貴女に出会うために僕は運が悪かったんだ!!貴女に出会えたことこそ僕の最大の幸運!!!
こんな価値もない、気味が悪い僕を救い出してくれた!!僕に生きる意味をくれた、彩りをくれた!!!
だったら貴女に相応しい存在になろう。
貴女のためならなんだってしよう。
勉強だって、体術だって、魔法だって。なんでも。
僕を、僕だけを貴女の瞳に映してもらえるように!!!
そしてあわよくば、貴女が僕だけに笑いかけてくれるように、僕を愛してくれるように……♡
ーー深紅に染まった緑柱石は紫水晶のために気品を身に付ける。




