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1 後のスパダリ令嬢である。

突然だが、私はヤンデレが大好きだ。

めちゃくちゃヤンデレが好きだ。できればヤンデレが可愛らしい美少女におもった〜〜い愛を囁いているところとか見たい。すごく見たい。


自分が重たい男だと告白したら、「そんなことない!好きな人を大切にできるの、すごく素敵だと思う!」とかヒロインに言われてズブズブ沼っていくところとか、めちゃくちゃ見たい。



私は、そんなちょっとオタクの何の変哲もないJKだった()()なのである。








と、実はここまでは現実逃避であって。

目が覚めると、知らない天蓋つきの、異世界転生あるあるみたいなベッドの上にいた。


私のベッドから見える景色は、超超超大好きな絵師様のヤンデレキャラクターのポスターである。こんなフリフリの天蓋がついている景色ではない。


何度か瞬きした。目も擦ってみた。もう一度瞳を閉じ、深呼吸し、また目を開ける。

景色が変わらない、冷や汗も止まらない。どう考えたって異世界転生だ。オタクはこういうのに詳しいのである。いらん知識増やすな。


「…おててちっちゃ…3から4歳くらいかな………」


一旦(現実)を見ることにした。異世界転生はまず己を知ることからである。狼狽えてても仕方がない。

背がちいちゃいせいでベッドから降りるのが怖かった。


ペタペタと裸足で鏡まで歩いたが、ふっかふかのラグのおかげで寒くも痛くもなかった。この子はすごく愛されているんだろう。良かった、冷遇されているとこに転生しないで。


鏡越しに自分の姿を見る。

そこで私は気づいた。




ーー私、めっちゃ可愛いな???


目、くりくり…!お人形さんみたい…!

髪の毛もサラサラストレート!シャンプーどんなの使ったらこうなるの!?

うわ〜〜お肌もちもち!!かわいすぎる!!

こんな子が世の中にいたらモテすぎて国が建ってしまう!!


違う、そうじゃない。

1人であることをいいことに、ゴホン、と咳払いをする。

改めて自分の顔をじっくりと見つめる。

黒いサラサラストレートの髪の毛、アメジストのような、宝石のような紫色の瞳。

私の記憶の中にはこんなキャラはいない。ということは、事前知識が全くない世界に飛ばされたか…。



そんな中、コンコンとノック音が部屋に響く。


「失礼致します、お嬢様。本日もいいお天気で…お、じょう、さま?」

「え、えぇと…」


私よりも少しグレーに近い長い黒髪を片方で三つ編みしていて、垂れ目で、口元にえっちなほくろがあるメイドさんだった。メイドさんは驚いた様子で目を見開いている。うーん、好みである。


そんなことを呑気に考えていると、ガバッ!と肩を掴まれた。


「お嬢様!!お目覚めになられたのですね!嗚呼、お医者様を呼ばないと!一向にお目覚めにならないお嬢様のお身体にもし万が一があるとミリヤはこの身を自身で貫くつもりでございました…!さぁお嬢様、お身体に障るといけませんのでベッドに戻りましょうね、このミリヤがお嬢様をお運びしますので…♡」



うーん、既視感。

この感じ、どうもヤンデレくさいのである。早口で話しかけて自己完結するところとか。

いや、ただメイドさんが重たいだけ…?でもこんな漫画転生前に見たな………。


「えっと、」

「お嬢様、ご気分はいかがでしょう。どこかお辛いところ等ございませんか?なんでもこの、()()()()()()()()のミリヤにお任せくださいまし……♡」



ヤンデレっぽいな〜〜(諦め)

ここはヤンデレの世界なのか???


いや、ヤンデレは好きですよ。大好きです。いくら時間を差し出したっていい。

だけど私は見る専なんだ。だって現実で包丁持って「僕を好きにならないと君を殺す」的なこと言われたら怖いでしょう?


「あの、」

「お嬢様、顔色がよろしくありませんわ。さぁ、お医者様がいらっしゃるまでお休みになって…♡」


う、うわ〜ん、メイドさん(多分)ヤンデレだし話聞かないけど美人すぎるよ〜〜!!!

メイドさんの手が私の目元を覆う。あ、あったかいな…。

そこで私の意識は途絶えた。








目が覚めると、顔がいい人達に囲まれていた。


「ほぁ、」

「目が覚めたかアイリス!!」


い、イケメンだ………。

私アイリスって言うんですね。にしてもこの人、めちゃくちゃガタイがいい。あと、めっちゃイケメン。…というか、アイリスにそっくりでは?


「あ、あの…」

「アイリスお嬢様は恐らく意識が混濁とされておる。部分的な記憶障害じゃろうな。」

「なんということだ!!俺というものがついていながら………!!」


「旦那様、お気を確かに。お嬢様が困惑してらっしゃいますよ」

「お嬢様、俺のことはわかりますか?」


い、イケメンだ………(2回目)

イケメンに気を取られていたらいつの間にか話が進んでいた。不覚。


話を整理すると、旦那様、ということと、おそらく貴族の娘であろう私の手をがっちり握って離さないこと、それと(アイリス)にそっくりなことから、きっと彼はアイリスのお父様。


このおじいちゃんは白衣を着ているからお医者様。記憶障害と言われているけど、ガッツリ中身が変わっていることはバレていなさそう。よかった。


そしてさっきのメイドさん、ミリヤさん。


となると、このイケメンは………


「ど、どちら様でしょうか……?」

「…………俺はこのミシリエ家の執事長、旦那様の秘書を務めております。ロイ、と申します。」


ロイ、さんは少し固まったあとハッとして綺麗なお辞儀を見せた。すると、今度はミリヤさんが前に出てきて、


「わたくしは、以前ミシリエ家のメイド長を、現在はお嬢様の専属メイドを務めております。ミリヤですわ。」


と、立派なカーテンシーを見せた。2人ともかなりレベルの高い従者、ということはアイリスはかなりのお嬢様なのだろう。


「ロイさん…と、ミリヤ、さん」

「まぁ!いけませんわお嬢様、わたくしはお嬢様のものでございます。そんな敬称など不要ですわ。どうぞ、()()()、とお呼びくださいませ。」

「俺もぜひ()()、と。」


私が敬称を付けて呼ぶと2人とも分かりやすく顔を顰めた。でも根っからの日本人だから敬称なしってちょっと厳しくて……あの………ダメですね、ハイ……。


「ミリヤ…と、ロイ、?」

「はい、…ふふ、よく出来ましたね。」

「よく出来ましたわ!さすがわたくしのお嬢様…♡」

「アイリス、俺のことは分かるか?」


ミリヤさんに頭を撫でられている反対側から、ガタイのいいイケメンがずいっと身を乗り出してくる。

少ししょんぼりとしているのがなんとも犬に見える。かわいい。耳としっぽ生えてません??生えてませんか、そうですか…。


「お、お父様…で、すか?」

「!!そう!!そうだ!!お前の父であるレオナルド・ミシリエだ!!」


ガバッ!と抱きしめられた。い、イケメンっていい匂いするんだ…………(現実逃避)

頭を撫でながら、お前はやはり素晴らしい子だ、俺の可愛い愛娘、と耳元でとてもいい声で意図せず囁いてくるお父様。すみません、元オタクJKには少々刺激が強すぎます!!


慌てていると、ゴホン、とおじいちゃんお医者様の咳払いが響き、お父様が名残惜しそうに離れていった。


「お嬢様、お父上であるレオナルド様のことはどの程度まで覚えていらっしゃいますか?」

「…お恥ずかしながら、お名前だけ…」

「あぁ、別に責めているわけではないんだよ。むしろ素直に言ってもらえる方が我々としても助かるからね……。旦那様、お嬢様はしばらくこちらの知識のすり合わせが必要かもしれんな。」


「なるほど…なら、ミリヤ。アイリスのことを頼む」

「もちろんですわ、旦那様。ミリヤの知っている全てのことをお嬢様にお伝えいたします。」

「…………。」


少しだけ空気がヒンヤリとした。なんだろう、例えるとヤンデレ漫画によくある悪寒みたいな…でも、さすがに初日からヤンデレが来るなんてこと…ない…ない…よ、ね……???


ミリヤさんがヤンデレだと確定した訳では無いし…お父様はどちらかというとワンちゃんだし…おじいちゃんお医者様は絶対ないし…ロイさんは…どうなんだろう、まだわかんないな。





少し1人にして欲しいと伝えこのドデカベッドの上で大の字になる。貴族令嬢がやっていい体勢ではない。


「あまりにも…現実味がなさすぎる……」


誰かへの好意が、独占欲が、大きすぎるが故に狂ってしまう、それが"ヤンデレ"。

だからどの世界でもいない可能性の方が低いのだ。誰かを愛する気持ちは、止められないのだから。


「だからといって自分がヤンデられるのは解釈不一致かつ危険すぎる」


もし…もしもアイリスが、ヒロインまたは悪役令嬢、またはその2人に関わる令嬢だったら。

この世界の攻略対象たちがヤンデレだったら。

そうなってくると私が死ぬ可能性は非常に高い。


そして異世界転生したってことはこのヤンデレたちが絶対に関わってくる、絶対。いや多分かもしれない。私の中の知識ではそう。




や、ヤンデレ回避…頑張ります…か………。




ーーー



たとえお嬢様に忘れられたとしても、お嬢様がお嬢様である限り、俺はずっと、お嬢様だけをお慕いしております。

初めまして。しおカンロあめと申します。

当方飽き性なので細く長くやっていきたいと思っています。

アイリスと愉快なヤンデレたちをどうぞ、よろしくお願い致します。

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