19話「最低な人間」
些細なことだった。
小2の俺はその日母さんと出かけていた。
欲しい本があり、それを母さんにせがんでいた。
だが結果は買ってもらえず、無理に頼んでいたので叱られてしまった。
当時の俺はそれが気に入らなかったのだろう。
叱られたこと、買ってもらえなかったことに逆ギレして、母さんから逃げるように走っていた。
走って、走って何も考えずただ走り回った。
信号機のない危険な横断歩道まで走っていた。
怒りと悔しさがあっても一応左右確認し疲れたので歩きで渡ろうとした。
ブーーーーー!!!!
大きな音に驚き、横をみると一台の車が猛スピードで姿を現した。
車も急ブレーキを掛けたが、今からじゃ避けられない、そう確信した時、溢れ出す恐怖と絶望、自分はここで死ぬんだという思いで支配される。
衝突寸前で目をつむり覚悟を決めた、その時何かが俺を突き飛ばした。
痛い。地面にぶつかったのだろう。
目を開け、体勢を立て直した。
そこからようやく状況を確認しようと目の前の光景を見た。
見たはずだった。
理解ができなかった、目の前に血を流し倒れている母さんと慌てて車から降りてくる運転手。
何故母さんが轢かれている?俺が轢かれているんじゃないのか?
吐き気がした。目が回る。息ができない。
運転手は何処かに電話しているようだった。
俺はなんとか母さんのもとに辿り着き、母さんに話をしようとしたが反応がない。
その時理解した、母さんは死んだのだと。
俺が殺した。俺が逃げなきゃ母さんは死ななかった。運転手が罪を犯すこともなかった。
全部俺のせいで母さんの日常が無くなることもなかった、運転手の日常がおかしくなることもなかった。
絶望していると救急車が来た、母さんを乗せ、俺もケガをしていたので救急車に乗せられた。
病院に着くと父さんがいた。今日は休みだったことを忘れていた。
何やら医者と父さんが話している横で俺はただ罪悪感に蝕まれていた。
あっという間だった、警察が来て事情を聞かれて、母さんに謝って、父さんにも必死で謝って、父さんが家に帰ってから泣いてるのを見て、自分のやった罪の重さで殺されそうだった。
そこからしばらく小学校を休んだ。
その間俺はどうすればいいのか分からなかった。
運転手は罪を罰せられた。
どうやら法定速度違反するスピードを出していたからあんなに速かったらしい。
父さんは悪くないと言ってくれたが俺は父さんが本当はどう思っているのか分からなかった。
母さんが死んだ時のことを考えていた。
一瞬、一瞬だった、さっきまで話していたのに、動いていたのに死んだら一瞬で無になる。
俺が無にした、いずれ自分も無になるんだと報いを受けるのだと怖くなった、全てが怖かった。
どうしたらいいのか分からない、俺は死ぬべきなのか?
生きるべきなのか分からない、何も考えたくない、考えたら罪に殺されそうで逃げた。
何も考えなきゃ楽だから父さんが運転手が母さんが周りがどう思っていようと考えなければ済むから。
そうだ、理由さえあれば何も考えなくても許される。
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どうせ死ぬから全て無駄なのだ。
喜びを感じたこと、怒りを感じたこと、哀しかったこと、楽しかったこと、全てが死んだら無になる、一生懸命勉強しても働いても死んだら意味がない、愛する人と結ばれても、金があっても、欲を満たせても全て無になるから無駄なのだ。
母さんの死んだ時を振り返って感じたことを理由にするために言い訳を考えた。
母さんの死を無駄扱いしてしまった。
俺、最低だ。
本当に!
本当に!
最低な人間だ。




