少女が現れました
え、待って、これってヤバいよね……これじゃ、まるで自分が誘拐したみたいじゃん……!!
湊は焦った。
段ボール箱の中に入っていたのは、まさかの少女。
黒髪にピンク色の洒落た服を着た少女は、息を整わせるかのように大きく循環させていた。
狭苦しい段ボールに入れられてきたのだから、相当辛かっただろう。
しかし、名前も分からず何処から来たかもわからず縁も特にない少女を、どうすればいいんだろう。
第一、結婚も諦めかけていた湊にとって、子供を育てるということは重大な壁であった。
「ねえ、あのさ……」
「ん?」
「なんで段ボール箱の中に入ってたの……?」
「それが、よく分かんないんだよねえ……」
彼女は髪を手で整えながら小声で言った。
「そっか……」
なんで段ボール箱の中に? そして一体この子は誰なんだ? そもそも、なんで自分のところに来たんだ?
怪しい宅配員、謎の荷物…………色々とありすぎて頭が混乱してくる。
「……って、ちょっと!」
少女は裸足のまま、湊の部屋へ歩いていき、机に置いておいたゲームをまじまじと見つめていた。
「ゲームだあ! こういうのやるの?」
「まあ、一応……」
目を輝かせる少女に、湊は目線を背けた。
本当は一人でやるつもりだったのに…………。
「これ、やってみてもいい?」
少女は、そう言いながら湊にゲームを見せる。
「ああ、いいよ」
そのゲームは、まだ湊が一回も遊んだことのないゲーム。『みかん落とし』と言って、みかんを落として揃えるという、いわゆるパズルゲームだ。
しかし、湊は幼い子供には弱い。別にロリコンって訳でもないが。
「あ、できた!」
少女はコントローラを持って、早速スタートさせる。可愛さを圧倒させる、そのグラフィックからは誰もが目を奪われることだろう。これが一番最初に出来なかったとは、何だか鬱々しい。
「よし! ここか! あれっ、違うなあ……」
こうして真面目に頑張っている彼女を見ると、何だか応援したくなる。
愛らしさがあるというか、何というか……。
できれば自分の子供にしたいような…………って自分、なに考えてるんだ!?
落ち着け、あの子は偶然ここに来ただけで何の繋がりもないんだぞ、それを自分の子供にしたいだなんて、なにを馬鹿なことを考えているんだ自分は……!
「ねえ、これ難しいー」
少女は不満そうに、こちらを見つめてきた。
ステージ1で早速ゲームオーバーになってしまったという訳か。
「貸して」
彼女からコントローラを貰うと、湊はゲーム相手に本気を出す。
パズルゲーム、いわゆる頭を使うゲームは湊にとっての得意分野だ。
湊は手慣れた手つきでコントローラを操作し、余裕でステージ1をクリアした。
「凄いっ!」
「まあね」
驚喜する少女に湊は鼻が高くなった。
何せ褒められたのは、これが人生初めてだったし。
それにパズルゲームは今まで2年ほどやってきた。クリア出来て当然なのだ。
しかし此の子、顔は可愛いし、正に自分のタイプだし……こんな幸せな生活を、ずっと続けていたい…………。
コントローラを操作しながらも、人生初めて褒められたことに微笑ましくなる湊なのだった。