段ボールの中から
湊は23歳の社会人。現在は単発アルバイトを続けている。
単発アルバイトとは言っても決して低額な収入ではないのだが、それを毎週ゲームや課金代に利用してしまう為、こうして不便な生活を送っている。
しかも単発アルバイトの時以外はずっと家に居るので、これといった出会いもなく社会人になってからは一人暮らし。部屋だけは綺麗にしておいた安いアパートに住む湊だが、不便でも、この状況に少し慣れつつある。
本当は、安定した高額な収入が得られる医療に関わることをしたかったのだが、何度も医療大学に落ちてしまい今の状態になっている訳だ。
そんな湊にとって嬉しいのは唯一の休日。
日曜日だけは単発アルバイトを休み、前日アルバイト代で買っておいたゲームで遊ぶ、というのが湊の日課だ。
そして今日は日曜日。たっぷりとゲーム三昧ができるという訳だ。
微笑ましい笑みでゲームを準備しようとしたところ、タイミングの悪いことにチャイム音が鳴る。
こんな時に限って……。
しかも一体、誰だ……?
湊は特に宅配を頼んだ訳でもないし、電話が来た訳でもない。
もしや悪徳かと思い、しばらく様子見をしていると「宅配便でーす」と男性の声が聞こえた。
悪徳では無さそうだ。もしや家を間違えてしまったのか?
とりあえずお引き取りしてもらおうと、湊は玄関に行き扉を開けて「間違いですよ!」と強引に言った。
「それが、貴方宛てなんですよ……」
え?
宅配員の男性は困っている様子だった。
確かに段ボール箱上の紙には湊の名前と住所が書かれている。
一体、誰が送ってきたのだろう?
しかも、こんなに大きな荷物、頑丈にガムテープで止められていて、中にソファーでも入っているのだろうか。
「あの、置いても……いいですかっ……」
宅配員の男性は今にも苦しそうな様子だった。
湊は「あっ、いいですよ!」と直ぐに答える。
「あり……がとう……ござい……ます!」
掠れるような声で宅配員の男性は、その荷物を床に置いた。
一瞬、ガサッと変な音が聞こえたが、湊は気にしなかった。
「……返品って出来ません?」
「はい? あ、ごめんなさい、貴方宛てになっていますので……」
案の定ダメだよな。
「それに……」
宅配員の男性は、周囲をきょろきょろと見回す。
「特別なもの、らしいんですよ」
「特別、なもの?」
特別なものとは、一体なんだろう。
宅配員の男性が周囲を気にするほどだから、きっと相当凄いんだろうけど。
「ええ、私も中は確認していないので分かりませんが……とりあえずサインをお願いします……」
「分かりました」
湊はポケットから印鑑を取り出す。こういう時にと印鑑は常備しているのだ。
そして印鑑を押すと、宅配員の男性は「ありがとうございました」と言って、その場を去った。
ちょっと変わった人だったな。
湊は、そう思いながらも玄関の鍵を閉める。
さて……。問題は、この段ボール箱をどうするかだ。
いくら自分宛てとは言われても、やはり中も分からないものだと不審に思う。
しかし、そう考えると余計に開けたくなってしまい、気づいた頃には手で無理やり剥がしていた。
別に段ボール箱は、どうなっても構わない。大事なのは中だから。
ガムテープを剥がし終わった後、湊は一度大きく深呼吸をし、段ボール箱を開けた。
「「…………」」
中には小学生くらいの女の子が体を縮こまって入っていた。
ああ、びっくりした……なんだ人形か……。
「ここは、何処ですか?」
じゃなかった…………。