6話
「おにい〜、ご飯だって〜」
部屋の外から妹の声がする。ポケットからスマホを取り出して時間を見ると七時過ぎになっていた。ちょっと昼寝をするつもりが遅くなってしまったようだ。
「今、行く」
僕は重い腰を上げて一階のリビングへと向かう。家は二階建てで一階にリビング、キッチン、和室に母さんの部屋などがあり、二階に僕と妹の部屋があるといった間取りだ。階段を降りている最中、母さんの話し声がする。聞いてみるとどうやら桃と話しているわけではないらしい。
「えっ、朱音ちゃんがまだ帰っていない?」
母さんの驚いた声が廊下にまで響いていた。月村が家に帰ってきていないだって!?どういう事なのだろうか。
「正人は今日、昼前には帰ってきていたので……。はい、本人に聞いてみます」
どうやら、電話が終わったみたいだ。僕は扉を開けてリビングに入る。
「あっ、正人、朱音ちゃんが家に帰ってないって電話が……。今日一緒に遊んだのよね?」
「い、いや、僕は待ち合わせに行ったんだけど月村は来なくて連絡もつかなくて帰って来たんだ……」
「えっ……」
母さんは絶句して顔が青くなってきた。慌てて携帯を持ってリビングの外に飛び出した。恐らく、月村のお母さんに電話するのだろう。
「お、おにい……」
ただ事ではない様子に妹も怯えた表情で僕を見つめていた。
「い、いや、友達の家に泊まっただけかもしれないし」
「そ、そうだよね。でも朱音ちゃん、黙って何処か行くなんてあるのかな」
僕は桃になんて言って励ませば良いか分からずにお互い黙ってしまう。廊下で母さんの電話する声が部屋にまで響いていた。その後、何分経っただろうか、電話が終わり夕食の時間となった。
「さっきの事なんだけど」
「どうなったの?」
「うん、朱音ちゃんのお母さんとしては今日戻らなければ明日にでも捜索願を出すかもしれないって。ほら、今この辺り物騒だし……」
最近この付近で起きている猟奇殺人の事を指しているのだろう。月村が巻き込まれていると思いたくはないが、そんな物騒な事が起きているのだ。より心配するのも無理ないことだろう。
「朱音ちゃん、どこ行ったんだろう……」
桃が心配からかすっかりいつもの元気が無くなってしまっている。僕は大丈夫だよと頭を撫でてやる。普段なら反発するのだろうがそんな元気も無くなっている。
「ごめんね、食事中にする話じゃなかったね」
母さんは苦笑いしながら謝っている。月村、どうしたんだよ。こんなにみんな心配しているんだぞ……。その後、食事が終わり自室に戻りスマホを取り出す。
「やっぱり反応なしか」
チャットメッセージを何回も送っているが見ている様子がないし電話をしても留守電になってしまう。僕は諦めてベッドに寝転がり天井を見つめる。僕はゲームの展開を思い出すがやはりこんな不穏なイベントは無かった。かなり平和なギャルゲーだったのでこんなシリアスな展開になることはなかった。間違いなく僕が知っている『7th ヒロイン』とかなり形が変わってしまっているのは事実だ。
「原因は僕?いや、そんな変な行動は取っていないはずだ」
僕は考える。『7th ヒロイン』はノベルゲーの体だったので登場人物達と会話する事が多かったが今、僕はそれよりも色々出来る事が多い。例えば、ゲームでは学校で登場人物達とのイベントをこなすだけといった具合だ。しかし、今の僕はある程度自由に動く事が出来るので、イベントを突然終わらせて学校を抜け出して何処か遊びに行くことも叶だろう。当然だ、実体を持って自由に動かしているのだから。だが、基本的にゲームのシナリオから大きく逸脱しないように動いている。理由としては今の月村の状況のように意図しない結果が起きる可能性が高くなるからだ。そうなると僕のコントロールが聞きにくく何が起きるか分からなくなる。
「これからどうなるんだろう……」
この時の僕走らない。危惧している以上に良くない展開が僕を待っていることを。




