15話
「お前ら早くバスに乗れよ〜」
とうとう勉強合宿当日になってしまった。学校から合宿所のある山までバスで向かうようだ。勉強をするためとはいえ中々無い宿泊行事のためかバスの中での生徒たちは盛り上がっているようだ。
「分かっているとは思うが合宿中は多少の自由時間を除けば殆ど勉強する時間だからな」
盛り上がっていた車内も海野先生の一言によりテンションが下がってしまった。まあ、来年受験だからこその合宿なのだから緊張感があったほうがいいだろう。だが僕の周りはそうはなっていない。
「正人の隣は私で良くない?」
「……、菊地君と話したいんだけど」
『7th ヒロイン』達が僕の隣の席を取りたいがために話し合いが行われているらしい。正直、月村が亡くなって事件を解かなければいけない今ヒロイン達とどうこうなど考えていなかった為僕は固まっている。
「そういう、まさっちはどうなの?」
話し合いでは埒があかないと思ったのか、木村が僕にどうすればいいか尋ねてきた。ぐいっと顔を近づけてきたからかいい香りがする。化粧品?香水の匂いだろうかギャルだからか結構香る気がするというのは偏見だろうか。
「菊地君の隣は私が貰うから駄目」
すると後ろから天王寺さんが現れたかと思ったらとんでもないことをぶっこんできた。
「ええっ」
「ええっじゃないでしょ。合宿の事話さないでいいの?」
あ、なるほど。事件が起こる可能性があるから話をしたいということか。そういうことなら。
「ご、ごめん。今日は天王寺さんと座るから……」
「ええ〜」
『7th ヒロイン』達から非難の声が上がる。
「最近、二人って仲いいみたいだけど付き合ってんの?」
様子を見ていた不知火が疑問をぶつけてくる。僕と天王寺さんは違うと首をぶんぶん横に振る。みんなを何とか説得して無事席に着く。
「あなたのお姫様達、面倒なんだけど……」
天王寺さんは呆れたようなため息をつきながら僕を睨んでくる。無駄にハーレムを築こうと好感度を上げてしまった弊害が生まれてしまっているので反省して縮こまる。
「まあ、そんな事は置いておいて合宿の話ね」
「はい」
走り出したバスの中での作戦会議が始まった。合宿所は山の中にあり圏外にあるということで携帯が繋がらないらしい。このバスも行きと帰りだけ業者に頼んでいるため、何かあっても実質的に陸の孤島になる危険性があるとのことだ。
「この合宿、本当なんなの。犯人にも補正がかかってるのかしら」
「補正?」
「このいかにも人殺してくださいみたいなシチュエーションの事よ。勉強合宿だっていうのに何でそんな山奥なんかに行くのよ」
「まあ、暑い夏に備えての避暑地だからね……」
天王寺産はプンスカ怒りながらもどこか楽しそうに見える。まあ彼女は所謂ミステリーが好きなようだしこの不穏な事件を目の前にしても楽しいのだろう。だがいずれ僕達が事件を解決できなければプレイヤーだって安全ではない。主人公が死んでゲームオーバーの危険だっておそらくある。僕は今後どうなるのか。事件が起きたときに解決ができるのだろうかと不安になりながら窓の外を眺めた。