10話
僕は彼女の言っている事が一瞬聞き違いかと思ったがその真剣な表情を見て間違いではないことを悟る。普通だったらバカにされるような話であるがそのような話は身を持って知っている。
「やっぱり信じられないわよね……」
僕の顔を見て信じられていないと感じたのだろうか彼女は下を向いてしまった。
「いや、信じないという話じゃないんだ。実は僕は……」
僕が次の言葉を話そうとした瞬間学校の予鈴が鳴る。次の授業の時間が来てしまったのだろう。彼女はハアと息を吐いた。
「そうしたら今日放課後空いてる?」
「え?」
「もっと詳しく話を聞いた方が良いと思ったし。喫茶店でも行って話しましょう」
そういうと彼女は僕の返事を待つことなく教室へと歩いていってしまった。その様子に一瞬呆けてしまったが自分も慌てて教室へと戻った。急いで席に戻ったからか息が乱れている。
「……大丈夫?」
ぜえぜえと息を吐いていると左隣の席の日野緑里から話しかけられた。彼女も『7th ヒロイン』の一人だ。雑誌モデルをしている程の美人で口数が少ないのが特徴だ。
「う、うん」
「そう、無理しないで……」
そういうと彼女はプイと正面を向いてしまった。本当にクールな感じだがこうして心配してくれるなど優しい一面もある。僕はこの頃の陰鬱とした雰囲気の中で久しぶりに心がホッとした気がする。
「どしたん?話聞こうか?」
そして左隣から話しかけてきたのはエセ関西弁を話す彼女は土田青葉。例のごとく『7th ヒロイン』である。
「土田……」
「キツイなら帰ってもいいんちゃう?」
いつもの土田ならからかって来たりしそうなもんだがあんな事のあった後では流石に気を遣っているのだろう。覇気がない気がする。彼女があの事件現場を見てしまったのかは知らないがクラスメイトが残虐な殺され方をしているのだ。無理もない。
「平気だよ。土田こそ大丈夫なのか?」
「ウチは元気よ。今日もタコ焼き食おう思うとねん」
相変わらずの怪しすぎる関西弁だ。関西の人は別に毎日タコ焼き食ってる訳じゃないと思うぞ。そんな事を話していると次の授業が始まるようだ。先生が入ってきた。
左右のヒロインから心配されたり不知火がちょっかいかけてきたりなど色々な事があった。その後、授業は何事もなく進み放課後になった途端に天王寺がこちらにやってきた。
「菊地君、行きましょ」
「「?」」
天王寺さんが僕を誘った途端、左右の席の土田と日野がこちらを向いた。まさか天王寺が僕と一緒に何処か行くのに驚いているのだろう。
「へ〜、菊地君、どこか行きはりますん?」
なんか京都弁擬きみたいな話し方をする土田の顔は引きつった笑い顔をしている。
「菊池君とちょっとお茶を……ね」
僕が返事する前に天王寺が勝手に答える。その顔はどこか楽しそうだ。恐らく僕をからかっている。
「え〜と、天王寺さん、早く行こう!!」
僕は誤魔化すようにパッと立ち上がり彼女と一緒に教室を出る。
「フフッ、あなたのハーレムに亀裂が入ったかしらね」
「……、早く行こう」
僕はため息をつきながら下駄箱にまでトボドボ歩き出す。天王寺さんはわざわざ隣に並んで歩いて周囲にアピールしているようだ。もしかして彼女は性格が悪いのだろうか。
二人で並んで学校の外へ出る。考えてみれば僕は『7th ヒロイン』の攻略に躍起になっていたこともあってか他の人と交流するのが久しぶりだなと考えながら歩く。そして学校の近所の喫茶店に来た。普段なら学生が一杯いるのだが事件後だからか空席が目立つようだ。僕達は話す内容の事もあるので奥の目立たない席にすることにした。お手洗いが近くなので他の人が少ない。
「じゃあ、取り敢えずコーヒー頼みましょうか」
天王寺さんは手際よく店員さんを呼んで二人分のコーヒーを注文した後、僕の方を向いた。
「じゃあ、朝の話の続きとしましょう」
「うん」
「それであなたは何を言おうとしたの?」
想定通りの質問が来た。まああんな所で終われば気になるのは当然だろう。
「え〜と、実は僕もこのギャルゲーの世界に転生してきたんだ」
「えっ」
僕の話が想定外だったのかポカーンとしている。そりゃ信じられる話ではないだろうけど君も似たような事を話していた気がするけど。
「じゃあ、私と似たような立場って事?」
「そうなるね」
彼女はこめかみをつまみながら考えているようだ。
「え〜と、でギャルゲーってどういう事?ここはミステリーゲームの舞台じゃないの?」
「それは僕も気になっていたんだ。僕は『7th ヒロイン』っていうゲームの主人公に転生したんだけど君はなんなの?」
「私は『黒雷邸殺人事件』っていうゲームの主人公として転生してきたの」
どうやら僕達は別々のゲームの主人公として転生してきたということらしい。




