眠りの森ダンジョンの発見1
今、確実に嫌な夢を見ている。
そう断言できるほどに不快な夢だった。
さらに加えて、ノイズのような音が聞こえる。
(×××××××?)
はっと目を覚ますと、そこはいつも使ってる宿屋の部屋。
せっかく寝ていたのに深夜過ぎの中途半端な時間帯に眼が覚めてしまった。
良くない夢を見たような気がするが、内容は覚えていない。
俺は一度起きたら、なかなか眠れない体質だった。
他にすることもなく、獣人の言葉を思い返す。
最初は鼻で笑っていたが思い返せば思い返すほど、あいつの発言は何やら不吉なものが多かった気がする。
『眠りの森に隠しダンジョンがある。そこにお前が欲しいものがあるだろう』
眠りの森。
俺たちがこの前、薬草採取のクエストをしたところだ。
偶然なのか分からないが、あの獣人と最初に出会ったのもあの森だ。
俺は天井を見上げながら考えていると、一つの考えにたどり着く。
もし本当に眠りの森に隠しダンジョンがあるのなら面白そうだな、と。
しかも、こっちはちょうど刺激のない毎日に飽き飽きしていたし、良い機会ではないか。
素性も知れない獣人の話を信じるのはどう考えてもおかしい。
そう思いつつも、俺は気づくと戦闘用の軽装に着替え、ダガーを手に取っていた。
馬鹿なことをしようとしてるのは分かってる。
しかし、気になったら最後、俺は自分の行動を止められなかった。
これで何も無かったら本当に笑いものだな。
そう苦笑すると自分の部屋をあとにする。
「本当にこんなところにダンジョンなんてあるのかよ」
俺は眠りの森に来ていた。
辺りは薄明るくなって既に早朝が近い。
獣人との邂逅を振り返ると、引っ掛かる点がいくつか思い浮かぶ。
お前たちは何も知らないとか、この世界には秘密があるとか。
そして、サキを名指しにして告げた一言。
『あいつは嘘をついている。お前ら全員を騙している』
獣人のそれらの言葉を反芻するが、依然として理解は出来なかった。
大体、サキが俺たちを騙しているのだとしたら笑える話だ。
あいつはおかしなやつかもしれないが、初期の頃から魔女討伐の旅を経て今まで一緒にこの世界を渡り歩いてきた。
端的に言うと信頼できる仲間である。
そのサキが俺たちを騙しているとは到底思えなかった。
気づくと空は先ほどより明るくなり、日の出の頃合いだった。
森が明るくなって見通しが良くなるのは単純にありがたい。
しかし、どうしてもその隠しダンジョンとやらは見つかる気配がしない。
「あいつ、やっぱり適当言いやがったんだ。ここらへんにダンジョンなんてあるはずが無い」
この辺りは木や原っぱが無造作に生い茂っているだけだし、こんなところにダンジョンなんてあったら目立ってしょうがないだろう。
やはりあの獣人が言っていたことは、ただの妄言だったのだ。
ダンジョンは無い、そう決めつけて街へ帰ろうとしたそのとき。
よく目を凝らすと視界の端に何やら違和感を感じた。
どこからか魔力が漏れ出ている。
俺は慎重に周りを見渡した。
(×××××××?)
その一瞬、頭の中に耳障りな金属音のようなノイズが走る。
「なんだ今の?」
集中しろ。何かがおかしい。
再度目を凝らして先ほどのノイズが出た方向を見やる。
木が生い茂っているエリアと岩石が露出しているエリアの境目。
そこの近くで微かに魔力の反応がある。
近づいてあたりを見回すと、それはあった。
木々や草むらに隠れている岩肌の一部分に、大きな穴が開いていたのだ。
これがダンジョンの入り口なのか?
「本当に隠しダンジョンがあった・・・」
そのときの俺は、この世界に初めて来たときの興奮と似ている胸の高鳴りを感じていた。
全く新しいダンジョンを一番乗りで見つけ、自分が一番最初に入る権利がある。
それだけでワクワクして手が震えた。
問題はこのダンジョンをどうするかだ。
これが普通のダンジョンなら攻略までいかずとも、探索して帰って来るぐらいならできるだろう。
何しろこちらは災厄の魔女を倒したパーティの一人である。
実力なら折り紙つきだ。
「ちょっとだけ試しに入ってみるか」
俺はその洞窟みたいなダンジョンの入口へと入ることにした。
恐る恐る入ると、外気との温度差があるようで、ひんやりとした空気が首筋を撫でる。
ダンジョン内はさらに地下へと繋がっている階段があって、何層かに分かれているらしい。
中は意外と広いが、複雑な構造ではなかった。
俺は目標を地下5階層に定め、1つ1つの層をなるべく戦わずに偵察することに決めた。
各階にはゴブリンやスライムが数匹いるだけで大した魔物はいない。
これは想定内で、そもそも災厄の魔女を討伐した後も魔物が生息するダンジョンは珍しいのだ。
魔女を討伐して各地に魔物が減っている中、まだ魔物がこれほど棲んでいるダンジョンがあることにむしろ驚いた。
どうしても魔物を倒さないと通れない箇所は、不意打ちや足音を消すスキルで仕留める。
シーフが得意な立ち回りをして、必要最低限の魔物を倒しながら奥へと進んでいった。
未知のダンジョンだったが、偵察は順調に進んでいった。
そして、ちょうど5層へとさしかかったところで大きな扉が目の前に現れた。
「ここがボス部屋か?まあ弱い魔物しか出てこなかったし余裕だろ」
俺は特に何も考えず、その扉を開けた。