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全ての始まりと回想1

 戻ってきた記憶、それは俺とサキの一番最初の出会いの記憶だった。


 俺は中学生の頃、その時流行っていたアイディールワールドというMMORPGに夢中になっていた。


 このゲームはまず女神に出会い、この世界で生きていくための職業を選択する。  

 そのあとアイディールワールドというファンタジーの世界に降り立ち、ダンジョン攻略や様々な街へと移動して旅をしていく、というゲームだった。

 このゲームの最終目標は世界に魔物を蔓延らせた災厄の魔女を討伐することだ。


 ある日、俺がレベル上げのために、ダンジョンでひたすら同じモンスターを狩っていると、それをずっと見ているプレイヤーがいた。


「ん?なんだこいつ」


 放置プレイヤーかと思い、無視していると、そのプレイヤーがテキストチャットで話しかけてきた。


 SAKI: ずっとそこで何してるんですか?


 俺は急に話しかけられたことに驚きつつも初心者かなと思い、丁寧に接した。

 レベル上げのような繰り返し作業は誰かと話したほうが飽きなくて良い。


 ハジメ: このモンスターを狩ってると経験値が多く手に入るんだよ。あと、たまにレアアイテムをドロップするし。

 SAKI: へーそうなんだ、どれくらいそれやってるの?

 ハジメ: 毎日3時間はこれやってるね。

 SAKI: 君、それやってて飽きない?学校とか会社とか大丈夫?

 ハジメ: ああ、親とは仲悪いし、学校もあんまり行ってないから。

 SAKI: そう、なんだ。私も親とは・・・。

 ハジメ: そうなの?

 SAKI: いや、何でもない。それよりそれ一緒にやってもいい?


 その話しかけてきたSAKIというプレイヤーがサキだった。

 本人曰く、いつ来ても同じモンスターを狩り続けているから面白い人だと思って話しかけたらしい。

 最初はゲーム内のチャットベースのやり取りだったが、そのうちボイスチャットでのやり取りに変わっていった。


「あー、サキ。聞こえてる?」

「え?ハジメ?聞こえてるよ」

「そうだけど」

「君、声暗いよ」

「ほっといてくれ、生まれつきだよ」


 最初のやり取りはこんなもので、ここからサキと俺とのアイディールワールドでの生活が始まった。


 サキはプリーストという職業を選んでおり、初心者ではなくかなりやり込んでいた。

 サポート魔法の知識とゲームの立ち回り方が熟練していて、俺と同じくらいのプレイヤーレベルだったので一緒にプレイしやすかった。


 俺とサキにとってはアイディールワールドは文字通り理想の世界だった。

 それぐらいこのゲームの世界とダンジョン攻略にハマっていたのだ。

 学校に行って帰ってきたらログインするのはもちろん、休日はほとんどログインしてこのゲームを楽しんでいた。


 寝食以外はずっとこのゲームに時間をかけ続けていたと言っても過言ではない。

 サキのほうも学校で忙しい時は多々あったらしいが、それ以外の時間は俺とアイディールワールドにログインしていた。


 サキと一緒にこのゲームをするのに慣れてきたころ、サキは一つ提案をした。


「ねえ、一人ゲーム誘ってる女の子がいるんだけど。一緒にパーティ組んでも良い?」

「ああ、良いよ。多いほうが攻略しやすいし、同じパーティでやろうぜ」


 そこで入ってきたのがアリスだった。

 アリスはサキと同じ中学校に通っている、おとなしい印象の女の子だった。

 サキはアリスと趣味の話が合って盛り上がり、このゲームをやろうと一方的に誘ったらしい。


「私、ゲームとか分からないので役に立てないと思います」


 アリスはそんな自信無さげなことを常に言っていたが、そんなことない、とサキと俺は説得した。


「じゃあ俺たちの後ろにいて、魔法使いをやれば良いんじゃないか?それだったらみんなの助けになるぞ」


 俺がそう言うと渋々、アリスは魔法使いになった。

 アリスは最初気が進まない様子だったのに、いつのまにか魔法の熟練度や使える魔法の種類がみるみる増えていった。

 何かにハマったら気が済むまでのめり込むタイプのようだ。

 俺たちはそういった面でも似た者同士で気が合った。


 その後に俺と同じ中学校のユウジが入ってきた。

 ユウジは野球部に入っていたのだが練習試合で足を怪我して、それがきっかけで暇をしていた。

 何か面白い暇つぶし教えてくれよ、とユウジに言われて俺はこのゲームを教えた。

 もともとユウジは明るく誰とでも仲良くなれる性格なので、パーティに馴染むのは早かった。


 そのような経緯で俺とサキのパーティにアリスとユウジを加えて4人で行動することが多くなる。

 このパーティはみんなが自然と20時頃から集まって、ダンジョンに潜り攻略することが毎日の習慣になっていった。

 ネットゲームとはいえ長い時間を共有していると、なんとなくお互いの生活リズムや生活圏の情報が断片的に分かってくる。


「ハジメとユウジの住んでるところ、私と近いんだけど」

「意外とみんな近いところに住んでるっぽいな」


 よくよく話を聞いてみると全員それほど遠くない場所に住んでいた。

 ということは、それぞれ通いやすい高校を進学先に選ぶと同じ学校で毎日会えるはずだ。

 これに気づいたときはみんな色めきだった。


「ね、じゃあさ。良かったらみんなで行く高校一緒に合わせない?」


 その考えに反対する奴はいなかった。

 いいね、おもしろそうと口々に言いあった。


 みんなの住所から近い高校を調べてみたら、どうやら近くの県立高校がみんなにとって行きやすい場所にあるみたいだ。


「絶対にみんなで一緒の高校に行こうね」

 サキはことあるごとにそう言ってたし、一番楽しみにしていたと思う。


 季節が過ぎ中学三年生の冬。

 誰もが受験で忙しくなり、パーティのログイン率も低くなる。

 みんなはそれなりに勉強をして受験に備えているようだった。

 しかし、サキと俺だけは律儀にアイディールワールドにログインしていた。


「ハジメは受験大丈夫なの?」

「ああ、なんとかな」

「同じ高校に通うって約束したんだから落ちたら許さないから」

「はいはい」

「一緒に高校で青春するんだからね」

「何だよそれ」


 その頃サキはゲーム内でトップランカーになっており、サキと言えば知らないものはいなかった。

 またゲーム内の交友関係も広く、知名度が高いのに気取ったところは見せない模範的なプレイヤーだった。

 その能力の高さと知名度から何度も他のパーティにも誘われたようだが頑なにそれを断り、ずっと俺たちと一緒にパーティを組んでいた。


 そしてサキは現実でも完璧主義だったらしい。

 アリスから聞くところによるとサキの親はかなり教育熱心で、そのおかげで学校でも成績優秀のようだ。

 サキの学力に限って言えば、俺たちが目標にしていた高校の受験は心配することはなかった。



















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