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サキの告白1

 まどろみの中から徐々に覚醒する。


 不愉快な夢を見たせいで気分が悪い。

 いや、眠りの森ダンジョンで魔法石を壊して見たあの映像は夢ではなく、元の世界での記憶だ。


 あの後、どうやって帰ってきたか全然覚えていない。

 頭は中途半端に昨日の出来事を思い出しながら、体はまだ起きたくないと主張し、寝返りを打つ。

 ダンジョン攻略で疲れたのか、体中がだるく、なぜか特に腕が痛い。

 もうこれ以上何も考えたくなかった。


 しかし再度眠ろうと思ったが腕の痛みが限界だった。

 そんなに腕を酷使した覚えはないが、何が原因だろうと目を開け自分の腕を見てみる。

 視線を自分の腕に移すとなぜか、流れるような白い髪の少女がいた。


「ん?誰だこれ」


 再度眠りかけていた頭は、目の前の状況を飲み込めず混乱する。

 端的に言うと目の前に半裸で寝ているサキがいた。

 そして、俺はご丁寧にもなぜか腕枕している。


「あー、おはよハジメ」


 サキもすっかり眠っていたらしく、目をこすりながら不明瞭な挨拶を返してきた。


「いやああああああああああ!」


 俺は半裸のサキを見て、驚き、間抜けな叫び声を出してしまった。


 なんでサキとこんなことになっているんだ?残念ながら昨日の夜から全く記憶が無い。もしかして、もしかするのか?

 ユウジ、アリス悪い。先に謝っておく。

 もし、これからパーティが崩壊したとしたらそれは俺がサキと寝たからだ。


「んもおお、うるさああああああああい!」

 サキは俺の驚いた声に耳を塞ぎながら負けじと声をあげた。


「せっかく惰眠を貪って気持ちよく起きたのに、何で台無しにするの?」

 サキはこんな時でも俺のせいにするのか。

 分かった、こいつには常識が無いんだ。


「この状況はどうみてもお前が悪いだろう。とりあえず服を着てくれ」

 とにかく服を着るようにと諭すとサキは渋々ベッドから降りて身だしなみを整え始めた。


 昨日あの後どうしたんだ?

 いくら思い出そうとしてもダンジョンで魔法石を割って記憶を見た以降の行動が思い出せなかった。


 状況を整理しようと思い、俺たちは宿屋の1階のテーブルに腰を落ち着けた。

 今の時間は朝食を食べにくる客がまばらにしかいなかった。

 自由すぎるサキの行動振り回されて、俺は情緒が不安定になっていた。一旦冷静になって考えよう。


 サキの方に視線を向けると、あんなことがあっても端正な顔で澄ましている。

 顔が良い奴は朝から顔が良いのだ。

 そんなどうでもいいことを考えながら、とりあえず二人で朝食を食べながら空腹を満たしていた。


「サキ、今朝はどういうことだったんだ。怒らないから説明して欲しい」

 ある程度お互いに冷静に話し合える状態になったところで切り出した。


「さっき軽く怒ってたじゃない。あー怖い顔しないで、ごめんごめん」

 再度、怒りそうになったがサキは全く謝る気がない。


 「真面目な話をするとね」と前置きをすると、いつの間にか注文したサンドウィッチにパクつきながら昨日のことを話し始めた。


「あのあと、ダンジョンの魔法石を壊したら私以外のみんなが一瞬気絶しちゃってさ、もう大変でね」

 サキは身振り手振りで大変さをアピールしてくる。


「あんた以外のみんなの意識が戻ったから転移魔法で宿まで送り返したのよ。ただ、あんただけ意識が戻らないから宿屋に寝かせておいたってわけ」


 全く記憶にないな。というか自然と人の部屋に入るな。


「待て、それでも一緒に寝てる理由になってないぞ」

「いやーごめん、あんたの部屋で意識取り戻すの待ってたら、帰るのがめんどくさくなってそのまま一緒のベットで寝ちゃって」


 俺のかき乱された情緒も分からずにサキは大したことでもないじゃん、と言わんばかりの反応だった。

 サキは「あはは、ごめんね」と笑っている。


「お前、絶対ユウジとアリスに言うなよ」

「言わないよー、大丈夫だよー」


 俺は怒って身を乗り出して忠告したが、サキはどこ吹く風だ。見事な棒読みで返事をしてくる。

 こういうときのこいつの信頼性はゼロである。


 いやそれよりも。

 今回、魔法石から記憶が戻ってサキには確認しないといけないことがあった。

 段々と前の世界の生々しい記憶が戻ってくるうちに、今のこの世界での生活が偽物なのではないかと疑い始めていたのだ。

 正確に言うと俺たちには戻るべき世界があるんじゃないか。


「真面目な話をしても良いか?」

「何?どうしたの急に」

「今までサキに話してなかったことがあるんだ、聞いてほしい」

 サキはおいしそうにサンドウィッチをほおばっている。


 その姿を見るとこの話をするか悩む。

 しかし、これ以上隠すわけにもいかないのだ。

 これはいつか言わなければいけなかったことだ。


「サキ、落ち着いて聞いてくれ。昨日、みんなであの隠しダンジョンに行ったじゃないか。そこで俺が魔法石を壊したよな?」

「ええ、それがどうかしたの?」

「実はあれを壊すと、俺の前の世界での記憶が戻ってくるんだ」


 サキは俺の言葉を聞いた瞬間、手を止めた。


「今まで伝えてなかったけど最初にダンジョンに行ったときも、魔法石を壊したら俺の記憶が戻ってたんだよ。戻った内容は俺とアリスが一緒にずっとゲームをしている記憶だ」



「それだけじゃないんだ。魔法石を壊した後のタイミングでみんなの記憶も戻ってると思う。アリスもユウジも同じような記憶を見てる。あのオールドアロウでアリスが変なことを口走ってたのはそれが原因なんだ」


 サキは無言のまま、何か考え事をしているような顔をして目を合わせない。


「サキ、正直に言ってほしい。お前の記憶は戻ってないのか?戻ってないんだとしたらなんでだ?」


 みんなの記憶が同時に戻ってきたのは、同じ世界の住人だからではないか。

 サキがみんなと同じ世界から来ているのであれば、記憶が戻っているはずだ。

 しかし、サキは記憶は戻ってないと言い張る。


 これはどういうことなのだろう。

 サキは別の世界の住人なのか、それとも同じ世界の住人なのか。それともまた別の世界で生きている人間なのか。それをはっきりさせたい。

 俺はそのことについてサキに問い詰めたかったのだ。

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