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サキとハジメの恒例行事2

 俺が質問するたびにサキは話をうまく逸らしているような気がする。

 そのたびに俺はサキは何か隠しているのではないかと思ってしまう。


「この前、一緒に飲んでいた時アリスが夢の話をしたよな?あれは転移前の話と関係あると思うか?」

「あのハジメと一緒にゲームをやってたってやつ?あれは単に夢をみていただけじゃないの?」

「俺も最初そう思ってたんだけど、やけに生々しくないか?しかもこの世界での行動と似ているところも多くある。アリスが魔法を好きになった理由とか」

「確かにそうだけど。確かめる方法がないから言い切れないわね」


「俺とユウジも同じような夢を見たんだ。俺はアリスとゲームしていて、ユウジはサキも含めた4人でゲームしている夢を見たらしい」

「なんで私もその夢とやらに巻き込まれてるのよ」

「ユウジが4人でゲームをしている夢を見たって言い張るんだよ」

「あなたたち3人はともかく、私が同じ世界にいたってことはないんじゃない?だって私は3人がこの世界に転移してきたときにはもう女神をやってたわけだし」


 サキはさほど興味なさそうに手元の食器を眺めていた。既に食事は互いに終わっている。


「でもおかしくないか?その夢でやってたゲームの名前がアイディールワールドって名前だったんだ。この世界に来た時もドワーフのおっさんがその名前を言ってたんだよ」

「仮にそれが夢じゃなくて、前の世界の記憶だとして、なんでその記憶が戻ってきたかハジメは分かってるの?」

「いやわからないな。さっぱりだ」

「そっか、不思議なこともあるものね。こればっかりは私も分からないわ」


 仮に俺とアリスとユウジの夢の内容が元の世界での実際あったことだとすると、俺たちは元の世界で一緒にオンラインゲームをしていた仲間だったのではないかという仮説が浮かび上がってくる。

 それは十分にあり得る話だ。


「ねえ、ちょっと外に出てみない?」

「良いけど、どこに行くんだ?」

「最初の頃みんなでずっと一緒にいた場所」

 サキは微笑むとそう提案してきた。


 スターティアから南西部に歩くと、海岸沿いに見晴らしの良い砂浜がある。

 この世界で旅を始める頃、右も左も分からないで不安に苛まれる中、みんなで何回もここに来ていた。

 それ以来俺たちにとってお気に入りの風景の一つになっていた。


 もう少しで日が沈みかける時刻らしく遠方の空を見ると夕日が水平線を明るく照らしていた。

 俺たちは砂浜に座っていたが、いきなりサキが立ち上がった。


 サキは恭しく片足を後ろに引き、もう片方の膝を曲げた。

 両手でドレスのスカートの端をつまみ軽く上げる。


「それでは、お手を拝借」

「いきなり何の真似だ?」

「せっかくお互いにかっこいい衣装を着てるでしょ。私昔からこういうのに憧れてたの」


 何をするかと思えば見様見真似の社交ダンスだった。

 サキは俺の手を取りゆっくりとステップを踏む。

 最初はぎこちなかったが、簡単な動きを繰り返し練習していくうちにそれなりの社交ダンスのようなものが出来上がっていった。


 立ち位置を入れ替えると、サキの髪が揺れお互いの体が一連の生物のように動き出す。

 しばらくそうしていたが、どちらともなく座り込むとお互いに何となく笑ってしまう。


「こんなこと久しぶりにした。意外と楽しかったわね」

 息を整えるとこちらへ顔を向け、無邪気な笑顔を見せる。


「いきなりこんなことやらされるとは思わなかったぞ。あと、お前息上がりすぎだ」

「ハジメだってそうでしょ。あんたが不格好でついていくのが大変だったの」

「お前も言い出したくせに大概だったけどな」


 息をお互いに整えると自然と夕日が輝く水平線に視線が向く。

 その水平線を無言で二人で見つめているとサキが口を開いた。


「私ずっとこんな生活が続けばいいのにって思ってる」

「急にどうしたんだよ。別にずっと続くだろうよ」

「そうかな」

「そうだよ」


 海岸沿いはもうすぐ日が落ちて暗くなる。


「私はずっとこの世界に居たいと思ってる」


 サキはまっすぐと目の前を見るとぼそりと話し始めた。


「今まであんたと一緒に過ごせて良かったし、今もこの世界に一緒にいることができて良かったと思ってる。本当に」


 うわごとのようにつぶやくサキを俺は横目で見た。


「急になんだよ、ずっと一緒にいるだろ。どうしたんだよ」


 サキは黙って頷いたが、気のせいか眼が少し潤んでいる。

 それ以上問いかけてもサキはその理由を教えてはくれなかった。


 そしてパーティのみんなで眠りの森を攻略する日がすぐにやってきた。

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