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眠りの森

 始まりの街スターティアから南東に位置する眠りの森。

 その森の中で俺は、偶然にもゴブリンの群れと遭遇していた。


 普通だったら緊迫する場面だと思うが、そんなことは特に感じなかった。

 まあ、全く何も感じなかったと言えば嘘になるが、それより思ったのは今だに魔物がこんなところに出現するなんて珍しいな、という感想だった。


 俺たちはもっと強い魔物を倒している。

 ゲームで例えるならラスボス級の魔物を倒しているのだ。

 だから、こんなゴブリン程度では感情はあまり動かない。


 ただ、このままゴブリンを放置しておくのも面倒なことになりそうなので、一応処理しておこう。

 目の前ではゴブリンの群れがこちらを見ながら、息を荒々しくして戦闘態勢に入っていた。


「久しぶりの魔物だな。運動がてら相手してくれよ、ゴブリンさんよ」


 そうつぶやくと懐から取り出したダガーを握る。

 最近鈍っていたし、いい運動にはなるはずだ。

 そう思いながらゴブリンに向かって駆け出した。


 この相手だったらスキルを使うまでもない。

 俺は一瞬間合いを取り、隙を見つけるとダガーでゴブリンの胸を貫き、喉元をえぐり、頭を裂いた。

 続いて二匹目のゴブリンの腕を締めあげ、顔面に膝をいれる。


 その後もゴブリンを狩るために体を動かし続けた。

 ほんの数分でゴブリンの群れを処理し、周りを見渡す。


 気が付くと周りにはゴブリンの死体が散乱していた。

 返り血が顔に付着して鉄のような匂いが離れない。

 あとで血を洗って落とさないと。


「ひ、ひぃ」


 そのとき、近くから震える声がした。

 ゴブリンを狩ることに夢中で気づかなかったが、近くに獣人がいたのだった。


 そういえば、ゴブリンの群れに遭遇した時もこの獣人はゴブリンにいじめられてたような気がする。

 俺はゆっくりと近づきながら、声をかけた。


「お前、大丈夫か?」

「・・・ッ」


 地面に伏せっていた狐のような見た目をした獣人は、怯えたような目でゴブリンの死骸と俺の返り血を交互に見る。


 やがて、その毛むくじゃらの小さな体は飛び起きると森の奥深くへと逃げるように去ってしまった。

 自分なりに愛想よく対応したのだが、怖がられてしまったようだ。


 まあいい。本来の目的の薬草集めの続きをして、さっさとこの退屈なクエストを終わらせてしまおう。

 ゴブリンの死骸が散乱している現場から離れると、俺は再度森を探索し薬草集めを再開した。


 その後すぐに俺は薬草集めを終わらせ、草むらに体を預けて休憩をしていた。

 仰向けになって空を見ていると遠くで「おーい」と呼びかける声が聞こえてくる。


 呼びかける声を辿って視線をやると、遠くの方で手を振っているアリスとユウジがいた。

 そういえばそろそろ集合の時間だった。

 俺は服にまとわりついた原っぱを手で払って立ち上がると、二人の元へとゆっくりと歩き出した。


 俺たちは数か月前にこのゲームのような世界に転移してきた。


 そして、一緒に転移して来たメンバーとパーティを組み、この世界に魔物を蔓延らせた災厄の魔女という魔物の討伐に成功した。

 激闘の末に魔女を討伐した俺たちに対してこの世界の住人はみんな感謝していた。

 あなたたちは救世主、勇者だと褒めたたえる者もいた。


 ここまで聞くと全てがうまくいってるように思えるだろう。


 しかし、俺たちには一つ問題があった。

 それは俺たちにはこの世界に転移する前の記憶が無い。

 つまり、元の世界で何をしていたのか全く覚えていないのだ。

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