九十一の道 不穏な気配
「へぇ、こりゃ凄ぇな。マジで二回採取できるのかよ、反則だろこんなの」
先程ケイネスが採取した場所からそう離れてもいない辺りで、再びシャアルハーブを見つけた俺は、試しに採取をしてみる事にした。
シャアルハーブは、まだ茎に付いている状態で実に傷を付けると他の実まで全部破裂するらしいので、ケイネスの指導を受けながら慎重に採取する。
今回茎に付いている実は五つ、だがその内の二つはまだ小さく、中に香辛料となる種が育っていないと言うので、採取するのは三つ。これがもう一度ずつ取れるので六つという事になる。
「…………よし、これで取れるのは全部だな。いやぁ緊張したぜ。実を取った後にすぐ復活するからよ、ウッカリ実を傷つけそうになったぜ。それがスリルあって面白かったんだがよ」
「リューマ。香辛料にするには天日干しで乾燥させないといけないから、取った実はマジックバッグに入れておいてよ」
「おう、いいぜ」
シャアルハーブは、数が取れない上に加工が割と面倒だ。まず天日干しをして実の水分を完全に飛ばす。次に実を割って中の種を取り、これを軽く炒る。すると種の殻が弾けるのだが、その弾けた状態で完成となる。
そして、このシャアルハーブを料理に使えば、毛根が全て死滅した様な不毛地帯でも毛が生えて来るのだそうだ。毛生え薬としてはとても優秀な香辛料だなコイツは。確かにそれなら、欲しがる奴は山の様にいるだろう。ハゲねぇ俺には関係ねぇが。
「ん? …………何だ、空気が変わったぞ?」
シャアルハーブの採取を終えて、この階層の出口に向かって歩いていると、急に辺りの空気が変わりやがった。
急にピリついたと言うか、悪意が増えたと言うか。何だか敵に囲まれた気配を感じた。
「兄貴! モンスターが出た! 『ゴブリンファイター』だ!」
「リューマ殿! 前方には『ペッパーモンキー』が出た!」
「なに? 囲まれたのか。何で急に…………?」
そういや、ダンジョンマスターやその後継者が、自分のダンジョンでモンスターに襲われないのは、時間制限付きだと聞いてはいた。確か丸一日だったか。
だが、そうだとしてもおかしいぜ。まだこのダンジョンに入ってから丸一日なんて経っていない筈だからな。
「な、何で? だ、だってまだ、あと数時間はある筈なのに…………!」
「言ってもしょうがねぇだろ。サゲン! ラベク! お前達はケイネスの護衛だ。アイツらは俺が片付ける!」
襲って来たのは、両手にバンテージみてぇな物を巻いた、普通のゴブリンと比べると倍以上の体格を持つ『ゴブリンファイター』が三体と、俺が一度戦った事がある『ペッパーモンキー』が四体だった。
そいつらは仲間って訳じゃねぇだろうが、俺達を挟む位置取りにいるのは間違いねぇ。ペッパーモンキーに至っては、木の枝を渡りながら俺達の方に向かって来ていた。厄介なのはこっちか!
「オラァッ!!」
『キィッ!?』
俺はまず、ペッパーモンキーが伝って来る進行方向にある木を一本蹴り折り、その木の枝葉でペッパーモンキーが向かって来る場所を限定した。
そして倒れる木を駆け上り、一番近くにいたペッパーモンキーの首を一撃で蹴り砕き、近くの木を足場に跳ぶと、二体目をも蹴り飛ばした。
『ウキィッ!?』
「いまさら逃げんな!!」
仲間を二体瞬殺されて、残るペッパーモンキー達が踵を返したが、遅い。
俺は残る二体との間合いを瞬時に詰めて始末し、横向きに着地した木を折る勢いで飛び、ケイネス達に襲い掛かっていたゴブリンファイターを一体、ドロップキックの様に踏み潰した。
『ブゴォッ!?』
「無事だなお前ら!」
俺がペッパーモンキーを相手している僅かな間に、三体のゴブリンファイターはケイネス達に襲い掛かっていたのだが、その相手は大盾を持ったラベクが務め、完璧に防いでいた。
「問題ありません!」
「兄貴! コイツら躊躇いなくケイネスを狙って来た!」
ラベクとサゲンの報告を聞きながら、俺は殴り掛かって来たゴブリンファイターの拳を躱しながら腹に一撃を入れてそのまま殴り飛ばし、残る一体との距離を詰めて、勢いそのままに顔面を掴んで地面に叩きつけた!
「ぜ、全部一撃か。流石は兄貴だ…………!」
「リューマ殿、ここは早々に離れましょう。今の戦闘音で他のモンスターまで集まって来そうだ!」
「そうだな。…………おいケイネス、しっかりしろ」
突然の事に放心状態のケイネスの腕を取り、俺達はその場を離れる事にした。
ケイネスはこの農場ダンジョンで次のダンジョンマスターになる後継者だ。ダンジョンマスターでなくとも、その後継者はダンジョンに入っても丸一日はモンスターに襲われないルールがある。
にも関わらず、モンスター達の狙いは真っ直ぐにケイネスだった。ダンジョンなんてもんに詳しい訳じゃねぇが、それでもコレが異常事態なのは俺にも解るぜ。事実、ケイネスだけじゃなく、俺達の中では一番ダンジョンに慣れているだろうラベクも焦っている。
何かは解らないが、確実に何かが起きている。俺達以外に誰かが入っている形跡もあるし、そいつらが何かをした可能性があるが、何をすればこんな事になるのかは見当もつかねぇ。ここにネガーでも居れば解るのかも知れねぇが、居ねぇからな。
だが、何者かが何かをしているとして、そいつらが居るのはダンジョンボスの部屋かその手前だろう。
俺達は、とにかく下を目指す事にした。一度外に出るって選択肢もあるが…………。何となく、いま外に出たらもう中に入れねぇ気がするんだよな。ただの勘だがよ。
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