八十八の道 モンスターか、コレ?
三階層で果物を大量に手に入れる方法を知り、後ろ髪を引かれている様子のケイネスを連れて、俺達は四階層へとやって来た。
安全に探索出来るのはここまでだと聞いていたが、どうも様子がおかしい。この四階層に降りる階段で、ケイネスから四階層はなだらかな丘が連なる階層だと聞いていたが、妙に騒がしい。
何やら丘の上から丸い物が転がり落ちては対面の丘に登って消えていき、その後からも丸い物が続けて転がって来ている。
別の丘では丘の合間に花の様な物が咲いているのだが、時折それが弾けて花弁が周囲を飛び回り、また元の花へと戻る、と言う動きを繰り返していた。
その向こう側には、白い粒が飛んでいるのも見える。
「意味が解らねぇな。なんだコレは?」
「え、何で? 何でこんなに活発に動いているの?」
この階層の様子にはケイネスも驚いていた。つまり、いつもとは違う光景だって事だ。
「ケイネス、あれは何だ?」
「い、一応はモンスターになるかな。父さんからは、ゴーレムに近いモンスターだって聞いてる。あの転がってる丸いのはチーズのモンスターで、向こうの花みたいなのは、ドライベジタブルとドライフルーツのモンスターなの」
「…………なんだって?」
アレが何なのかの説明を受けた筈だが、ますます解らなくなって来た。何だチーズのモンスターってのは。あとドライ…………何? ちょっと存在の意味が解らないが、要は加工品のモンスターって事か?
いやいや、何だそりゃ。加工品がモンスターになるってのか? さすがに理解が追いつかねぇぜ。
「普段はもっとおとなしくて、倒すとそのモンスターの元になっている加工品が手に入るんだよ。でも、あそこまで荒ぶっていると難しいかも」
「食えるのかアレは。…………まぁ、取り敢えず一つは取ってみるか。やれやれ、飽きねぇダンジョンだなここは」
「リューマ殿。あのチーズを取るなら、俺が行きますよ。俺はあのチーズの納品依頼を受けた事がありますから」
ちょいと一体倒して見るかと一歩踏み出すと、ラベクが待ったを掛けて来た。このダンジョンはフェルマ牧場の管轄だが、ギルドとの協定によって時折採取依頼をこなす冒険者が派遣されるらしい。ラベクは、その依頼を受けてあのチーズを取りに来た事があるのだそうだ。
つまり経験者か。なら、お手並み拝見といくか。
ここはラベクに譲る事にして下がると、ラベクは戦斧を地面に置くと、大盾の裏から短槍を取り出して転がるチーズに向かって歩いて行った。
ラベクと比較出来る様になって気付いたが、あの転がっているチーズは結構デカイぞ? ラベクと同じ位の大きさだ。
それに重量も中々ありそうだし、あんな物に当たったら、車に轢かれるのと大差ねぇな。
「だ、大丈夫かなラベクさん。あのチーズ、普段はゆっくり転がってるんだけど、あの速さは危ないんじゃ…………」
「心配いらねぇよケイネス。ラベクは実力のある冒険者だからな。あの程度の速さなら、見切るだろうよ」
ケイネスは心配そうに見ているが、俺もサゲンも、割と安心して見ている。ラベクの奴はサゲンの兄貴と一緒に騎士団に所属していた事もあり、十分な経験を積んでいる安心感がある。
そして、それを証明する様に、ラベクは転がって来るチーズがちょっとした段差で跳ねた隙を突き、盾を構えた体当たりをかましてチーズを横倒しにすると、滑る様に坂を下るチーズに追いついて短槍をチーズのど真ん中に深く突き刺した。
するとチーズはその姿を消し、後には魔石と、小脇に抱えられる程度の大きさのチーズを残していた。
倒されて魔石を残して姿を消すあたり、本当にモンスターだったんだな。驚いたぜ。
「戻りました」
「ご苦労さん。安定感のある狩りだったな。安心して見ていられたぜ」
「ええ。実は、俺が前に来た時にも同じ依頼を受けた奴の一人が魔法を撃ち込んだせいで今と同じ状況になりまして。依頼がある事もあって逃げる訳にもいかず、工夫して倒したのです。その経験が役に立ちました」
「ほぅ、そんな事がねぇ…………。まぁとにかく、そのチーズは俺がマジックバッグに入れとくぜ。後で食ってみようや」
「はい」
しかしアレだな。こうしてよく見てみれば、ここの加工品のモンスター達は様々な動きを見せてはいるが、皆一定の範囲で収まっている。慎重に行けば避けられるくらいに。
俺の印象としては、モンスターと言うよりもトラップに近いぜ。
そこから俺達は、動いているモンスターの動きと範囲に注意しながら四階層を進み、五階層へ続く階段を降りた。
「ケイネス、一つ聞かせろ。お前は、この場所で休憩を取る事はあるか?」
「え? いや、普段はここまで来ないし、ダンジョンマスターの後継者であるアタシは、ダンジョンに入って丸一日は攻撃とかされないからね。ここで休憩なんて取らないよ。時間が勿体ないもん」
「……………………そうか。やっぱりな」
「どうかしたの? リューマ」
「見ろ、焚き火の跡だ。ダンジョンの中ってのは、物は割と直ぐに吸収されて無くなるんだが、こう言う、煤みてぇな物は残るんだよな」
「確かにそうですね。と言う事は、リューマ殿」
「ああ、そう言う事だろう」
フロアボスのいる階層は、ボス部屋の前で休憩を取れる。ケイネスの案内もあってここまで順調に進んで来た俺達に休憩は必要ないが、『俺達よりも先に』来た奴らはここで休憩を取ったらしい。
二階層で姿を消していたトウモロコシや、四階層で荒ぶっていたチーズ達の様子から、誰かが先に入っているとは疑っていたが、これで確信が持てた。
誰か知らないが、俺達よりも先にダンジョンに入っている奴らがいる。俺達の敵になるやつらが。
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