八十の道 宿舎最後の朝
冒険者ギルドの職員用の宿舎で一晩過ごした俺は、朝日が昇る前に起きて部屋の掃除をした。
今日からはもうギルドの職員では無くなるから、当然この宿舎も出なくてはならない。いや、もうしばらく使っても良いとは言われたが、こう言うケジメってのはキッチリしといた方が良い。
だから最後に、世話になった部屋を掃除しておきたかったのだ。掃除道具は昨日の内に借りていたのでジャージに着替え、まずはハタキでホコリを落とし、掃き掃除をして雑巾をかけ、窓もしっかりと拭いておく。
椅子や机もしっかり拭いて、ベットにも新しいシーツをピシッ! と張った。これで俺が来た時よりも綺麗な部屋になったぜ。
こうして本気で掃除をするのなんざ若集の下っ端だった頃以来だが、『雀百まで踊り忘れず』ってのはこう言う事なんだろうな。身に付けた習慣ってのは体が覚えてるもんだ。
「よし! こんなもんだろ」
俺の荷物は昨日の内に『マジックバッグ』に仕舞ってある。『ヴェルデスタ=ジゴロム』の爺さんの遺産にあったヤツだが、こいつが本当に高性能なバッグだった。
まず、このマジックバッグはかなりの容量を持っていた。俺にはよく解らなかったが、魔力測定とか言うのをしてみた所、ギルドにある全ての荷物を収納してもまだ余る程だと言っていた。売ってくれとも言われたが断り、俺が使う事にした。
使用者登録と言うのもしてみたが、これで俺しか使えないバッグになった上に、別の場所に持ってかれても念じればバッグがある方向が解るらしい。GPSみてぇなもんか。便利なのは良い事だ。
ちなみに使用者登録はあと四人出来るらしいが、今は考えていない。
って訳で、俺は荷物の入ったバッグを部屋に置いたまま、朝のジョギングに出かけた。
「おーー、リューマおはよう! 最近見なかったけど、どっか行ってたのか?」
「おはよう! 朝からご苦労さん。またダンジョンだよ」
「あらリューマじゃない。これ持ってきな!」
「おう、ありがとな! コイツは初めてみる果物だな、なんて名前だコレ?」
「メルモモだよ。甘酸っぱくておいしいよ!」
「へぇ。ありがたく頂くよ!」
いつもの様に早朝から働く街の人々に挨拶をしながら走り、公園でショウと合流したらストレッチと軽い運動をこなす。朝の公園ってのはやっぱり良いな。身が引き締まるぜ。
「…………本当に、宿舎を出ちゃうんですか、リューマさん…………?」
「おう。住処はまだ決めてねぇが、まずは牧場で厄介になるつもりだ。少なくとも、牧場の問題が解決するまではな!」
軽く汗をかいて、肩で息をしながら聞いて来るショウに、俺はシャドーボクシングをしながら本当だと返した。
「…………寂しくなりますね」
「平気だろ。同じ街には居るし、また指名依頼も受けちまった。それにダンジョンに行ってなければ、朝はこうして走っている。ショウも走るのを続けていれば、毎日でも会えるぜ」
「はい! 僕、毎日走ります!」
「おう、その調子だ。じゃあ帰ろうぜ。宿舎で食う最後の朝飯だ。ゆっくり食いてぇからな」
「はい!」
ショウと一緒に走りながら宿舎に戻ると、サゲンとラベクがちょうど部屋から出て来たところだった。ラベクはしっかりと起きてるが、サゲンは今起きたと言わんばかりの様子だった。
「おはようございます! ネガー様も、リューマ殿に挨拶をしましょう」
「んぅ…………兄……貴? おはよう、ございます」
「人前に出てんだ! シャキっとしろサゲン!!」
「ふぁっ!? …………はい!!」
俺の一喝でようやく目を覚ましたサゲンに溜め息を吐きながら、俺は二人と挨拶を交わした。
「お前達、部屋の掃除はしたか? 世話になった場所なんだ、使う前より綺麗にしておけよ」
「それなんですけど、兄貴。俺とラベクはもうしばらくはギルド職員の仕事を続けるんですよね? この宿舎も続けて使って良いと言われているし、出なくても良いんじゃないですか?」
「牧場に関わる事は説明しただろ。ギルドの世話になる事があるとしても、それが解決してからだ。その様子だと掃除してない様だな? …………朝飯を食ったら俺は少し出掛けて来る。お前達はその間に掃除を済ませて、牧場へ行け」
「解りました。サゲン様、朝食の後に掃除をしましょう」
「ああ。…………ラベク、済まないが掃除の仕方を教えてくれ」
貴族として生まれたサゲンは、まともに掃除をした事も無いらしい。貴族の家には使用人と言う者達がいるから仕方ない事なのかも知れないが、俺の所に来た以上はやらせる。
そういう一般的な事を教える意味でも、ラベクを一緒にしたのはエルザレスのファインプレイだったな。こうなる事も見越していたのだろう。
ショウやラベク達と一緒に朝食を食べた俺は料理を作ってくれた人達にもお礼を伝え、荷物を持って宿舎を出た。…………マジックバッグってやつは便利だが軽すぎて、実感が少し薄れるな。
「もう出るのですか? リューマさん」
「おはよう、リリィさん。お世話になりました」
俺に声を掛けて来たのは、最初の夜に酔い潰れていた女…………と言うか、冒険者ギルドの副長を務めているリリィだ。酒を飲むとアレだが、普段はキッチリとしている真面目なメガネ美人さんだな。
精度の高い《鑑定》スキルを持っている、ギルドの頼れるお姉さんだ。…………酒さえ飲まなければな。
「私は何も。私が世話を焼くまでもなく、リューマさんにはショウ君がベッタリでしたからね。随分と懐かれましたね」
「ショウは逞しい男になりたいみたいだからな。それが理由だろ」
「…………私としては、可愛いままのショウ君でいて欲しいのですけど」
「ハハッ。気持ちは解らなくもないが、ショウも男だからな。好きにさせてやってくれ。…………じゃあ、俺は行くぜ。これからもよろしく」
「フフッ、そうですね。これからもよろしくお願いします。リューマさん」
俺は宿舎を出るだけで、街にはいるからな。挨拶はこれでいい。
そうして宿舎を出た俺は、まずは約束を果たすべく図書館のある公園へと向かった。
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