七十七の道 ネガーの頭痛
冒険者ギルドの執務室で、俺達からの報告を聞いたネガーは絶句して頭を抱え、最終的にはソファーに横になった。
「緑のダンジョンは俺の管轄で、ダンジョンマスターの登録をしているのは俺なんだよ。なのに何でこうも俺の想像を超えた事態が立て続けに起こるんだ」
「そんな事、俺に言われてもな」
「まぁそうなんだけどな。さて、どっちから行くか。やっぱりブラッドオーガからにするか。…………厄災指定モンスターがダンジョンのボスとして出て来るとか、聞いた事もないぞ。本当にどうなっているんだ、今回の異変は…………」
「確かアレだろ? 新しいダンジョンが出来た影響が近くのダンジョンに現れるとか何とかって話だったよな? 確か最初の話だと、大した影響は出ないとかって話だったと聞いたが」
「その筈なんだがな、本来は。ダンジョンと言うのは、ダンジョン神が造っていると言われている。新しいダンジョンは攻略者が出るまではボスとして設定されたモンスターが管轄し、攻略者が出るとそいつを新たなダンジョンマスターとする事で世界に定着する。異変と言うのは、そのダンジョンの管轄者たるモンスターがダンジョンを支配下に置くまで続く物…………と言うのが、お偉い学者先生の見解だ」
「って事は、異変が長く続いている現状ってのは、そのボスがダンジョンを支配出来てないからか。はた迷惑なダンジョンボスも居たもんだな」
ダンジョンボスなんだから普通にダンジョンを徘徊しているモンスターより弱いって事は無いだろう。とすれば何だ? 身動きが取れない状況になっているとかだろうか? それも、なんだそりゃって話だが…………。
少し横になって回復したのか、ネガーはソファーに座り直すと、一言ボヤいてからショウに向き直った。
「本部にまた報告を上げねぇとな。ショウ、ブラッドオーガの魔石とドロップアイテム、あと正体不明の手袋を出してくれ」
「はい。…………この三つですね」
「鑑定もあるし、その三つはギルドで預かる。ブラッドオーガの魔石は買い取りにするぞ。下手に外に出す訳にもいかないからな」
「ああ、良いぜ」
「それとブラッドオーガのドロップアイテム、このポーションについてだが、鑑定次第では返せなくなる」
「…………何故だ」
「『ブラッドオーガの血薬』。そう言う未入手のアイテムがあるんだ。このポーションが、それである可能性が高い」
ネガーの説明によると、『ブラッドオーガの血薬』と言うのは、かつて王国の騎士団が戦ったブラッドオーガが持っていたポーションらしい。
現物を手に入れた訳ではないが、当時の騎士団の多くが、ブラッドオーガがそれを口にするのを見た。
騎士団との死闘の中で、当時の騎士団長の捨て身の攻撃で腕の一本を斬り落とされたブラッドオーガは、何処からともなくそのポーションを取り出し、それを飲んだ。
途端にブラッドオーガの傷は回復していき、斬り飛ばされた腕は生えて、戦いは仕切り直された。
当時の騎士団の絶望感がどれ程の物だったのか。多くの死者を出しながらも、何とかブラッドオーガを退けた彼らは、王都へと帰還してから恐怖の対象としてブラッドオーガの持つ血のようなポーションを報告した。…………のだが。
「実際にブラッドオーガと戦ってすらいなかったお偉いさんの中には、そのブラッドオーガが持っていた秘薬はとんでもないお宝に見えた。千数百人もの騎士を失って、退かせる事しか出来なかったブラッドオーガの持つ秘薬を何とか入手しろと、当時の冒険者ギルドには多くの王侯貴族から依頼が殺到し、まだ残っている」
ふーーん。『ブラッドオーガの血薬』ねぇ。そんのモンを持ってるのに、アイツはそれを飲まなかったのか。
いや、真正面から拳を交えた俺には解る。アイツは、そんな往生際の悪い事をしたくなかったんだろう。例えそんな秘薬を飲んで全快した所で、俺を超えられる訳でもない。
ならこのまま、前のめりに死んでやろうと、そう覚悟して拳を握り締めたんだ。最後の方の拳は、そりゃもう気合が入っていたからな。
「だからこれが『ブラッドオーガの血薬』だと判明したら、王に献上する。多分それが一番、面倒が少ないだろう。もちろん、街の一つや二つは買えるだけの金は国に出させるから、心配すんな」
「…………解った、それでいい」
「そうなると、おそらくリューマのランクはシルバーからゴールドに上がるだろな。ブラッドオーガを討伐したんだから当然だかな」
「フッ、そっちはどうでもいいぜ。俺は何も変わらねぇからな」
「まぁ、そうだろうさ」
ネガーはトレイに魔石と二つのアイテムを乗せて立ち上がり、それらを執務机の上に置くと、代わりに小分けにされた袋を持って来た。
「取り敢えず、これは今回の依頼の報酬だ。合わせてもブラッドオーガの魔石一個より少ないが、そのあたりは勘弁してくれ」
「いや、十分だ」
「俺達にも異論はありません。リューマのおかげで俺達も随分と強くなれましたし、良い依頼でした」
「そうか。前向きなのは良い事だ。ケーシン達には俺個人だけじゃなく、ギルドとしても期待している」
「「「ありがとうございます!!」」」
「ショウもご苦労だった。いい経験になったか?」
「はい! 大変でしたけど、楽しかったです!!」
「なら、俺も行かせた甲斐があったよ」
そんな風に、ケーシン達とにこやかに話していたネガーだったが、しばらくすると頭を押さえて俯いていた。
「はぁーーーー…………。ここで終われたら良かったんだがなぁ、もう一つ頭の痛い問題が残ってんだよなぁ」
盛大に溜め息をついたネガーは、痛むのであろう頭を軽く振って、テーブルの上に置かれたショウのメモ帳に目を向けた。
それは、ダンジョンの中で見つけた遺産の主、ヴェルデスタ=ジゴロムの言葉を書き留めたメモ帳だった。
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